司法試験・予備試験実践論証

予備試験合格・司法試験総合42位合格者作成の論証集。予備校講座の一歩先へ。

【論証】会社法3株式⑴総則Ⅱ-株主平等原則・利益供与の禁止-

株式総則の部分で重要な論点として、株主平等原則(109条1項)と利益供与の禁止(120条)があります。

 

 

 

株主平等原則

 

株主平等原則の基本

 

【論証:株主平等原則】

 株主平等原則とは、株式会社は、株主を、株主としての資格に基づく法律関係については、その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱わなければならないという原則である(109条1項)。

 同原則の機能は株式投資の収益の予測可能性を高め、株式投資を促すことにあり、同原則に反する行為等は無効となる。

 もっとも、同原則をあまりに厳格に適用すると、会社経営に実際上の不都合が生じ得る。そこで、合理的な理由に基づく一定の区別をすることは同原則に反しないこともあり得ると解すべきである。*1

 

平等原則違反が認められた例として、他の株主には剰余金の配当を行わなかったのに、大株主に対してのみ中元・歳末及び毎月多額の金銭を支払った事例があります。*2

 

合理的な理由に基づく一定の区別の例として、株主優待制度があります。

 

【論証:株主優待制度】

 株主優待制度に基づいて株主に対して金品を交付することについては、株主総会の承認(454条)もなく、厳密に持株数に応じた割当てになっていない。

 しかし、個人投資家による株式投資の促進という合理的な目的を有していること、金額も比較的少額であること、制度の内容が周知されており、株主に不測の損害を与えないことから同原則には反しない。*3

 

株主平等原則の例外

 

また、株主平等原則には明文の例外もあります。109条2項の株主ごとに異なる取扱いをする旨の定めがそれです(種類株式もそうですが)。もっとも、定款で定めさえすればいかなる内容であっても許されるのかが問題となります。

 

【論証:株主ごとに異なる取扱いをする旨の定め】

 非公開会社においては、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、議決権について、株主ごとに異なる取扱いをする旨を定款で定めることができる(109条2項)。

これは、明文で認められた株主平等原則の例外である。したがって、特殊の決議(309条4項)を経て、定款にかかる定めが規定された場合、これは常に適法であるとも考えられる。

 しかし、株主ごとの異なる取扱いが合理的な理由に基づかず、目的において正当性を欠いていたり、手段の必要性や相当性を欠く場合には、定款変更決議は株主平等原則の趣旨に反し、無効と解すべきである。*4

 

下級審では、経営陣と対立した特定株主の議決権及び配当受領権を100分の1に縮減する定款変更決議が無効とされた事例があります。*5

 

 

株主平等原則違反は、敵対的買収の際にも問題となり得ます。これについては、敵対的買収のところで取り上げます。

 

 

利益供与の禁止

 

利益供与の禁止の基本

 

【論証:利益供与の禁止】

 株主の権利の行使に関しての利益供与が禁止される(120条1項)趣旨は、株主権の行使を経営陣に都合の良いように操作する目的で会社財産が浪費されることを防止し、会社経営の公正性・健全性を確保することにある。

  「株主の権利の行使に関し」利益が供与されたといえるためには、株主の権利行使に関して利益を供与する主観的認識が会社側にあれば足りると解する。議決権を行使しないことも「株主の権利の行使に関し」に含まれる。

 そして、上記の趣旨から、利益供与が会社または子会社の計算でされる限り、誰の名義で行われたか否かを問わず、同条に該当すると解する。

 また、会社が相当な対価を得てした利益供与であっても、株主の権利の行使に関して行われたと認められる限り、原則として同条に該当すると解する。*6

 

下級審裁判例では、従業員持株会への奨励金は「株主の権利の行使に関し」にあたらないとされました。なぜなら、奨励金は福利厚生の一環であり、取得した株式の議決権行使に会社の経営陣の影響が及ばないからです。*7

 

 

「株主の権利の行使に関し」要件―株式譲渡―

 

会社が、会社にとって好ましくない者が議決権を行使するのを防ぐために、当該株主から株式を譲り受ける対価を何人かに供与した事例で利益供与該当性が問題となりました。*8

会社は株式の譲渡の対価を供与したのであり、「株主の権利の行使に関し」利益供与をしたのではないのではないか、という問題意識です。そこで、「株主の権利の行使に関し」に株式の譲渡が含まれるのかが問題となります。

 

【論証:株式譲渡の対価の供与】

 株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体は株主の権利の行使とはいえないから、会社が、株式を譲渡することの対価として何人かに利益を供与しても、当然には利益供与には当たらないが、会社からみて好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主から株主を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」利益を供与する行為というべきである。*9

 

ただし、株式譲渡の対価の供与ではあっても、敵対的買収の場面においても許されないのか否かは一考の余地があります。

 

【論証:敵対的買収の場合における株式譲渡の対価の供与】

 敵対的買収を仕掛けられた会社がホワイトナイトに株式買取資金を提供することも利益供与の禁止に抵触するか。

 ここで、分配可能額の範囲内では自己株式取得が許されるのであるから、特別決議を経る、他の株主にも売渡しの機会を与える等、自己株式取得と同様の手続によった上で、取得者の議決権行使に経営陣の指図が及ばないことを確保できるならば、実質的に「株主の権利の行使に関し」にあたらないと解すべきである。

 しかし、支配権をめぐる争いがある局面におけるこのような支援は、経営者が会社の財産によって株主権の行使を左右するという会社制度の根幹にかかわる行為であるから、原則として「株主の権利の行使に関」する利益供与にあたり、買収防衛策と同様の基準のもとにおいてのみ許容され得ると解する。*10

 

買収防衛策の基準については買収防衛策のところで解説します。

 

 

例外的に許容される場合

 

次に、利益供与にあたっても例外的に許される場合について検討します。

 

【論証:利益供与が例外的に許容される場合】

 120条1項の趣旨は、会社運営の健全性、公正性を確保する点にある。したがって、株主の権利の行使に関して行われる財産上の利益の供与は、原則としてすべて禁止されるのであるが、上記の趣旨に照らし、当該利益が、株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的に基づき供与される場合であって、かつ、個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであり、株主全体に供与される総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないときには、例外的に違法性を有しないものとして許容される場合があると解すべきである。*11

 

判例は議決権行使をした株主全員に500円のQuoカードを交付した事案ですが、結論として許容されないとされず、決議取消事由(決議方法の法令違反)が認められました。

 

株主提案と会社提案が対立する事案であり、会社提案に賛成の議決権行使を促す目的が認められたためです。(社会通念上許容される範囲、財産的基礎への影響については問題がなかったと考えられます。正当な目的といえないために許容されませんでした。)

 

一方、定足数確保の必要性から、議決権行使自体を促すことは許容されると考えられます。*12

 

 

 

*1:田中p.89

*2:最判昭和45年11月24日、現在ではこのような行為は利益供与にもあたることになります。

*3:田中p.90コラム3-10

*4:田中p.90,91

*5:東京地立川支判平成25年9月25日

*6:田中p.91,92

*7:福井地判昭和60年3月29日

*8:最判平成18年4月10日〈百選14〉

*9:事例p.365,368、前掲最判平成18年4月10日

*10:事例p.372,373

*11:事例p.370、東京地判平成19年12月6日〈百選36〉

*12:事例p.371