憲法 選挙 権利の論理と制度の論理
選挙にかかわる憲法問題として、①選挙権(の行使の機会)の制限、②選挙運動の制限、③投票価値の平等などがあげられます。
選挙権にかかわる問題では、権利の論理と制度の論理が対立します。
権利の論理とは、通常の自由権のような審査方法をとるべきとする論理をいいます。
制度の論理とは、権利が制度の形成にかかっている場合、立法府に広範な裁量が認められることから、裁量を前提とした緩やかな審査方法をとるべきであるとする論理をいいます。
憲法に関しては、司法試験、予備試験においては三者間対立問題は放棄されたとも考えられますが、対立する見解を書くことはいまだに求められていますし、関連判例の関係を対立構造を通して理解することは重要で有意義なので、三者間でどのように議論を対立させるかを念頭に検討します。
①選挙権(の行使の機会)の制限
原告
15条は投票機会の平等を保障している。
∴選挙権の行使も選挙権と同様の保障を受ける。*1
自ら選挙の公正を害する行為をした者等を別として
選挙権の行使の制限は原則として許されず、やむを得ない事由が必要
そして、
制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難と認められる場合でなければやむを得ない理由は認められない。*2
選挙権の行使を可能にする措置を採らない不作為の場合も同様です。
被告
選挙制度は論理的に要請される一定不変の形態が存在するわけではない。
∴43条、44条、47条、一定の制約のもとで、選挙制度の仕組みの決定には国会の広い裁量が認められる。
∴裁量の逸脱・濫用ない限り合憲
以下は私見で書くのもありだと考えます。
基本方針の合理性(裁量の範囲内かEx.政策本位、政党本位)
具体的規制の合理性(基本方針に照らして合理的か)
を考慮して、
「合理性を有するとは到底考えられない程度に達しているとまでは断定し難い」*3ため、裁量の逸脱・濫用は認められない。
私見
まず、権利の論理を採用するか制度の論理を採用するかを判断します。
選挙の仕組みの決定に当然に付随する負担とはいえない場合には権利の論理を採用する方向に傾きます。(参加資格に関する規制に至っている場合など)
また、
議会制民主主義の過程自体の瑕疵は立法府によっては是正が期待できず、その是正は司法の役割であるということから、広範な裁量を認めるのは司法の役割の放棄であり、権利の論理を採用するべき、という議論を行うこともできます。*4
権利の論理を採用した場合には、原告の枠組みを採用すればよいでしょう。
制度の論理を採用した場合には、被告の枠組みを採用すべきか、裁量の縮減の可能性があるかを考えます。
立法裁量強調型(被告)
制約を受けている者が本来的に立法者の設定した制度の趣旨・目的の外にある場合には、被告の主張するような広範な裁量を前提とすべきです。*5
立法裁量縮減型
一方、制約を受けている者が本来的に制度の趣旨・目的の内にいるといえる場合には、基本決定との首尾一貫性を問う立法裁量縮減型を用いることができます。*6
②選挙運動
原告
通常の自由権の制限として論じれば足りるでしょう。(権利の論理)
戸別訪問禁止事件において、原審は戸別訪問により弊害を生じるおそれは抽象的なものにすぎないとして、目的が違憲であり、手段も合理的関連性欠くとしました。*7
被告
選挙運動は選挙の公正を確保するために定められたルールに従って行われなくてはならないところ、47条から選挙運動のルール形成については国会の広い立法裁量が認められる。
国会は選挙区の定め方、投票の方法、選挙の実態等諸般の事情を考慮して選挙運動のルールを定め得る。
したがって、合理的とは考えられないような特段の事情のない限り裁量権の範囲を逸脱し、憲法に違反すべきものと考えるべきでない。*8
私見
選挙運動の規制についてはルールの問題であると考えるべきだとする見解もありますが*9、戸別訪問禁止事件で最高裁は権利の論理を採用しているので、ここでは権利の論理を採用することとします。
特定の選挙運動により生じる弊害の防止のための制約であるから、間接的・付随的制約といえる。
∴合理的関連性の基準*10
戸別訪問の弊害として、買収・利益誘導の温床となること、選挙人の生活の平穏を害すること、多額の出費を余儀なくされること、投票が情実に支配されやすくなることがあげられる。
戸別訪問の禁止は上記の弊害防止と選挙の自由と公平を確保することを目的としているところ、目的は正当であり、弊害を総体としてみれば戸別訪問の一律禁止も合理的関連性(観念的なもので足りる)がある。
そして、得られる利益は失われる利益よりはるかに大きい。
∴合憲*11
③投票価値の平等
原告
15条は投票価値の平等も保障している。
平等な選挙権は民主主義を支える基本的権利であり、この権利の制限につき国会に広範な裁量を認めるべきではない。
立法裁量限定型(平等の問題とする)
較差を設けた目的が真にやむを得ないものか
較差の態様が目的と実質的な関連性を有するものか*12
被告
選挙制度の決定については国会の広い裁量が認められる。
投票価値の平等は唯一絶対の基準ではなく、考慮要素にすぎない。
したがって、投票価値の平等についての立法者の政策的考慮が裁量の限界を超えない限り合憲と判断すべきである。
裁量の限界を超えるか否かは、
較差が合理性を有するか(広範な裁量を前提)
合理的期間内に是正が行われていないといえるか
を考慮して判断する。*13
私見
投票価値の平等は法の下の平等が極めて強く要請される。したがって、裁量を前提としても立法裁量限定型をとるべきである、とすることが考えられます。*14
または、裁量過程統制型をとることが考えられます。
立法権に裁量権が認められるとしても、その裁量権は、憲法が裁量権を与えた趣旨に沿って適切に行使されなければならない。
判断内容が最適か否かは司法的判断の対象ではないが、結論に至るまでの裁量権行使の態様が適正であったかは司法的判断になじむ。
投票価値の平等のように、憲法上直接に保障されている事項と、選挙区制のように、立法政策上考慮されることは可能であるが憲法上の直接の保障があるとまでは言えない事項のうちでは、当然、憲法上直接の保障がある事項、とりわけ国民の基本的人権の一つである投票価値の平等を重視しなければならない。*15
*2:在外国民選挙権訴訟、同判例は権利の論理を採用しているといえます
*3:衆院選挙小選挙区制訴訟、同判例は制度の論理をとっていると考えられます
*5:たとえば、選挙運動の便益格差について(最判平成11年11月10日)
*6:たとえば、成年被後見人の選挙権制限においては、成年後見制度の趣旨と選挙権の否定が一貫するかを問うことができます。(判例から考える21章)また、児童扶養手当支給打切り事件(最判平成14年1月31日)参照。
*7:戸別訪問禁止事件昭和56年6月判決原審(広島高松江支判昭和55・4・28)
*8:戸別訪問禁止事件昭和56年7月判決伊藤補足意見
*9:作法p.169
*11:戸別訪問禁止事件昭和56年6月判決
*12:参院議員定数不均衡訴訟平成18年判決泉反対意見、同意見は権利の論理を採用すべきとしています。
*14:小山p.187