司法試験・予備試験実践論証

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【論証】会社法3株式⑵株主名簿

株式の譲渡(その他の場合にも以下の規定の適用があるかは後述します。)は、株主名簿の名義書換をしなければ株式会社に(非株券発行会社では、会社以外の第三者にも)対抗できません(130条1項2項)。

 

株主名簿の効力として、

①資格授与的効力(株主として株主名簿に記載された者は、権利行使のたびに自らの実質的権利を証明することなく、株主としての権利行使をすることができる)

 

②免責的効力(会社は、株主名簿に株主として記載された者に権利行使をさせれば、その者が実際は無権利者であったとしても、会社に悪意・重過失がない限り免責される(手形法40条3項類推適用)(非株券発行会社においては生じないとする見解が有力です*1))

 

③確定的効力(新たに株主となった者は、株主名簿の名義書換を行うまでは、会社に対し株主としての地位を主張することができない)

 

の三つが認められます。*2

130条は確定的効力を明文化した条文です。

 

名義書換にこのような効力が認められる趣旨は、日々変動しうる株主の権利行使を円滑に処理するという会社の事務処理上の便宜にあります。このフレーズ(「という」以前だけでも構いません)は覚えてしまった方がよいでしょう。

 

これらの効力が具体的な事例においてどのように問題になるか、以下で見ていきます。名義書換未了の株主、不当拒絶、失念株、130条1項の適用範囲、閲覧請求権といった論点を検討します。

 

 

 

名義書換未了の株主

 

名義書換を行っていない株式譲受人は、会社に対して株主たる地位を対抗できません(確定的効力、130条1項)。もっとも、会社の方からかかる者を株主として取り扱うことが許されるのではないかが問題となります。

 

【論証:名義書換未了の株式譲受人】

名義書換がなされない限り、株主は株主たる地位を会社に対して対抗できない(130条1項)が、会社の方から名義書換未了の株式譲受人を株主として扱うことが許されるか。

 このような扱いを許すと、会社による恣意的な株主の選択が生じ得ることから、会社は必ず名義人に対して権利行使をさせなければならず、会社の側からこのような譲受人を株主として認めるべきではないとする見解もある。*3

 しかし、名義人を株主と扱うことを義務付けると、会社と利害関係を持たなくなった者に権利行使をさせることを強制させることとなり、不当である。また、会社の恣意的な扱いは株主平等の要請から否定される。また、譲渡制限株式の譲渡が会社の承認を「要する」とされているのに対し、130条1項は、名義書換未了の場合は会社に譲渡を「対抗」できないとするにとどまることから、名義書換は単なる対抗要件にすぎないと解される。さらに、同項の趣旨が日々変動し得る株主の権利行使を円滑に処理し得るという会社の事務処理上の便宜にあるところ、会社が自己の危険において譲受人を株主として取り扱うことを認めても不都合はない。

 したがって、会社の方から自己の危険において名義書換未了の株式譲受人を株主として扱うことも許されると解する。*4

 

 

仮名による名義書換

 

次に、仮名による名義書換の効力についてみてみます。

 

【論証:仮名による名義書換】

 株主名簿に記載すべき「氏名」とは、原則として本名すなわち戸籍上の氏名をいう。もっとも、自己の氏名としてこれと異なる氏名を長期間にわたり一般的に使用し、その結果、社会生活上、それが当該株主の氏名として通用している場合に限り、その通称をもここにいう氏名にあたるものと解すべきである。*5

 

 

名義書換未了の株式譲受人の原告適格

 

また、名義書換が行われていない場合、名義書換未了の株式譲受人は株主総会決議取消の訴えの原告適格を有するかも問題となることがあります。

 

【論証:名義書換未了の株式譲受人の原告適格

 株式譲渡の対抗要件が株主名簿の名義書換である(130条)ことから、実質的な株主であっても株主名簿の名義書換を行っていなければ、株主たることを会社に対抗することができず、原告適格も認められないと解すべきである。

 もっとも、会社が従前当該名義書換未了株主を株主として認め、権利行使を容認してきたなどの特段の事情が認められる場合には、会社が名義書換の欠缺を指摘して株主たる地位を争うことが信義則に反して許されない場合もありうる*6

 

 

名義書換の不当拒絶

 

上記のように、名義書換がなければ、株式譲受人は、譲渡を会社に対抗できないわけですが、それは会社が適法に名義書換の手続を行うことを前提としています。会社が故意に、あるいは過失により適法な名義書換請求に応じないことを名義書換の不当拒絶といいます。不当拒絶の場合には、名義株主を株主として扱っても会社が免責されないのではないか(免責的効力が認められない)、あるいは会社が名義株主でないことを理由に権利行使を拒否することができるか(確定的効力が認められてしまうのか)、という点が問題です。

 

上記のように、非株券発行会社においては株主名簿に免責的効力が認められません。

そのような場合(株主名簿に記載された者(現在名義書換を求めている者)が実は無権利者であり、将来その者に株主としての権利行使をさせたら会社は免責されない)にも、会社が名義書換を拒絶した場合に不当拒絶になるのか(免責されないにもかかわらず、名義書換を拒絶することが許されないとすれば会社に酷ではないか)?という問題意識があるため、非株券発行会社における不当拒絶の問題は少々複雑なものになります。

 

非株券発行会社の不当拒絶の問題を答案に書くときは、以上の問題意識を示せれば、どのような見解をとっても良いと思われます。

 

【論証:名義書換の不当拒絶】

 Y社は、Xが名義株主ではないことを理由に株主としての権利行使を拒否することができるか。

 「譲渡」の会社に対する対抗要件は株主名簿の名義書換である(130条1項)から、名義書換未了株主は、会社に対して株主であることを主張できないのが原則である。

 しかし、株主名簿制度(121条)の趣旨は、日々変動し得る株主の権利行使を円滑に処理するという会社の事務処理上の便宜にあるところ、会社が自らの義務である名義書換を不当に拒絶した場合には、会社は信義則上当該株主が名義書換を完了していないことを理由として当該株主の権利行使を拒むことはできないと解する。

 ここで、株券発行会社においては、株券の権利推定効(131条1項)ゆえに株主名簿に免責的効力が認められる。したがって、株式譲受人が株券を呈示して名義書換を請求した場合、会社が、その者が実質的権利者でないことを立証しない限りたとえ過失によるものであっても名義書換の拒絶は不当拒絶にあたると解される。*7

 しかし、株券発行会社においては、名義書換請求人が権利者であることは推定されない。したがって、会社はこの者の名義書換請求に応じても、無過失でない限り、免責されるわけではない。そうだとすれば、会社は請求人が実際に株主であるか調査すべきであり、株主であることが疑わしい場合には、名義書換請求を拒絶しても不当拒絶には当たらないというべきである。*8

 

もっとも、非株券発行会社においても、疑わしい事情がない場合には会社は名義書換請求に応じる義務があり、拒絶すれば不当拒絶となります。

 

株券の提示によらない名義書換によってなされた株主名簿の記載にも、法定の慎重な手続でなされるものであることから、権利推定的効力が認められる(したがって、その記載に従って権利行使をさせた場合には会社は免責される)とする見解もあります。*9この見解からは、名義書換請求が法定の手続に則って適法に行われている限り、株券発行会社の場合と同様に、会社が拒絶した場合には不当拒絶にあたることになります。

分かりやすさという点では、この見解を採用するのもありだと思います。

 

会社との関係では上記の通りですが、不当拒絶があった場合に株主は第三者に対してその地位を対抗できるかも問題となります。

 

【論証:不当拒絶の場合の第三者との関係】

 不当拒絶の場合には、会社との関係で130条1項の適用が排除されるに過ぎないとする見解からは、第三者に対しては株主たる地位を対抗できないことになる。*10

 しかし、会社の不当拒絶による不利益を何ら落ち度のない株主に負わせるべきでないため、不当拒絶の場合には、名義書換が行われた場合と同様に扱うべきである。したがって、株主は第三者に対しても名義書換なしにその地位を対抗することができると解する。*11

 

 

失念株

 

株式の譲受人が名義書換請求を失念している間に会社が剰余金の配当や株式の分割を行った場合、配当財産や分割株式が誰に帰属すべき利益なのか、という問題が失念株の問題です。

 

【論証:失念株】

 株式譲受人が名義書換請求を失念している間に、会社が譲渡人に対し株主割当による募集株式の発行をした場合、名義書換がない以上、譲受人は会社に対して譲渡を対抗できないから、会社は名簿上の株主である株式譲渡人を株主として扱えば足りる。では、譲受人は譲渡人に対して不当利得返還請求返還請求を行うことができるか。

 判例は、名義株主である譲渡人に募集株式の割当てを受ける権利があるとして、不当利得返還請求を認めない。しかし、募集株式の割当ては株主たる資格に基づいて行われるものであるから、株式の割当てを受ける権利は株式に随伴して移転するものと解される。そして、譲渡当事者間では譲渡は有効なのであるから、不当利得返還請求は認められると解すべきである。

 もっとも、発行株式それ自体は、譲渡人自身の払込みによって得られたものであるから、不当利得とはいえず、募集株式の発行がなされた時点の株式の時価と払込金額の差額を不当利得として返還を請求できると解する。*12

 

 

130条1項の適用範囲

 

130条1項の効力については上記の通りですが、ここでは、相続等の一般承継の場合、原始取得の場合にも同項の適用があるのかについて検討していきます。

 

一般承継

 

学説上の多数説は必要説であると思いますが、不要説も十分に説得的です。また、立案担当者も不要説に立っています。答案上でもどちらの説をとっても構わないと思います。

 

【論証:一般承継と名義書換(必要説)】

 たしかに、130条1項は株式の「譲渡」の対抗要件を定めているにすぎず、相続等の一般承継の対抗要件を定めるものではないとも考えられる。

 しかし、会社法施行前は、名義書換は株式の「移転」の対抗要件とされており、相続等の一般承継も含まれると解されていた。そして、現行会社法においても、解釈を変更する特段の必要性はないから、相続による株式の移転を会社に対抗するためには名義書換を要すると解する。*13

 

 

【論証:一般承継と名義書換(不要説)】

 相続等の一般承継も130条1項の適用を受け、名義書換が必要であるとする見解もある。

 しかし、かく解すると基準日設定後に相続が生じた場合、相続人が基準日に関する権利を行使できなくなってしまい、また、相続後、名義書換前に行われた配当や株式分割に相続人があずかれなくなってしまうことになるが、このような帰結は妥当でない。そして、同項が「移転」ではなくあえて「譲渡」と定めているのであるから、相続等の一般承継の場合には同項の適用はないと解すべきである。相続人は被相続人の法的地位を一般的に承継するところ、「名義株主」の地位も承継するのであるから、かく解することが適切である。また、名義株主である被相続人はすでに死亡しているため、名義株主と承継株主との間で権利行使の重複が生じるおそれはなく、かく解することに不都合もない。

 したがって、相続の場合には、対抗要件として名義書換は不要であると解する。*14

 

 

原始取得

 

他人名義で株式の引受けをした場合に、実質上の株主が名義書換なく会社に対して株主たる地位を対抗できるか、という場面で、株式の譲渡に関する規定である130条1項が適用されるのかという論点が出てきます。

 

便宜上、ここで他人名義による株式の引受けという論点の論証を紹介します。

 

【論証:他人名義による株式の引受け】

 AはBの承諾を得てB名義で募集株式を引き受けている。そこで、AとBのいずれが引受人(株主)となるか。

 ここで、判例は、法律行為の一般原則に従い、真に契約の当事者として申込みをした者が引受人になると解している。

 もっとも、発行会社が名義貸しについて知らず、申込者がBであると信じて募集株式を割り当てた場合にも上記の通りと解しては、発行会社の期待に反する。また、虚偽の外観を作出したABは信義則上会社に引受人であることを主張できる立場にない。そこで、かかる場合には、発行会社はABのいずれが引受人であるかを選択することができると解すべきである。

 そして、発行会社がBを引受人であると認めた場合には、Aは名義書換えをしなければ会社に対して株主たる地位を主張することはできず、譲渡制限株式であれば会社の承認も必要となる。*15

 

判例の見解(実質説)を貫徹しても構わないと考えます。

 

 

【論証:原始取得と名義書換】

 【論証:他人名義による株式の引受け(実質説、または会社が実質株主を引受人と認めた場合)】

 もっとも、実質株主は株主名簿の名義書換を行っていない。そこで、実質株主が権利行使をする場合に、名義書換をする必要があるか否かが問題となる。

 ここで、130条1項の文言が「譲渡」となっていることから、同項は株式の譲渡(ないし移転)のみに適用されることを前提に、株式の原始取得の場合には、実質株主は名義書換をすることなく権利行使をすることができるとする見解もある。(東京高判平成4年11月16日)

 しかし、同項が株主名簿の名義書換を対抗要件としている趣旨は、日々変動し得る多数の株主の権利行使を円滑に処理するという会社の事務処理上の便宜にあるところ、かかる趣旨は名義株の場合にも妥当するというべきである。したがって、同項は株主名簿の効力一般について定めたものであり、およそ会社に対し株主たることを主張するすべての場合の対抗要件を定めたものと解する。

 よって、株式の原始取得の場合であっても同項の適用があり、権利行使のためには名義書換が必要であると解する。*16

 

会社が悪意・重過失の場合にも、なお名義書換が必要とする見解*17と、そのような場合には会社は実質株主を株主として取り扱うことを要するとする見解*18があります。

 

 

株主名簿閲覧請求権

 

 

閲覧請求権については、拒絶事由(125条3項各号)に該当し、会社が当該請求を拒絶することができるかどうかの判断が求められることがあります。

 

特に問題となるのは、会社を敵対的に買収しようとする株主が、他の株主に公開買い付けに応じるよう勧誘する目的及び委任状勧誘をする目的で閲覧請求をする場合です。

 

【論証:株主名簿閲覧請求権の拒絶の可否】

 会社を敵対的に買収しようとする株主が、他の株主に委任状勧誘をする目的で閲覧請求を行った場合、会社は当該請求を拒絶することができるか。閲覧請求権者が会社と競業関係にあることを理由に125条3項1号ないし2号に該当するとして拒絶することが許されるかが問題となる。

 株主名簿の閲覧請求権についての拒絶事由(125条3項各号)では、会計帳簿閲覧請求の場合(433条2項3号)と異なり、閲覧請求者が会社と競業関係にある場合が除外されている。また、一定の場合に会社が株主名簿閲覧請求を拒絶できるのは株主名簿を当該株主に閲覧させることで会社に不利益が生じ得るからであるところ、競業者に株主名簿の閲覧を許しても会社にどのような不利益が生じるのかは明らかではない。さらに、会社に敵対的買収を仕掛けるのは競業者であることが多く、かかる者の閲覧請求を拒絶できるとしては敵対的買収に対する抑止的効果が過剰に働いてしまう。

 したがって、閲覧請求者が競業関係にある場合であっても、拒絶事由にはあたらず、会社は閲覧請求を拒絶することは許されないと解する。*19

 

会計帳簿閲覧請求権の場合の論点(競業関係にあるが情報を悪用するような主観的意図がない場合が拒絶事由にあたるか、など)と混同しないように気を付けましょう。

 

 

*1:江頭憲治郎『株式会社法[第6版]』(有斐閣、2015年)p.210

*2:事例p.184,185

*3:大隅健一郎「株式の譲渡」田中耕太郎編『株式会社法講座⑵』(有斐閣、1956年)p.672

*4:最判昭和30年10月20日、事例p.187,188、竹内昭夫「批判」『商事判例研究⑴昭和25年度』(有斐閣、1959年)p.187、田中p.114,115

*5:ロープラp.69、東京高判昭和63年6月28日

*6:。ロープラp.69,70、名古屋地一宮支判平成20年3月26日

*7:最判昭和41年7月28日〈百選15〉

*8:事例p.192

*9:前田庸『会社法入門[第11版補訂版]』(有斐閣、2008)p.263、江頭憲治郎=門口正人編代『会社法大系⑵』(青林書院、2008)p.130(渡邉光誠)

*10:上柳克郎ほか編集代表『新版注釈会社法(14)』(有斐閣、1990年)p.168〔神崎克郎〕

*11:土田亮・百選15解説、江頭憲治郎『株式会社法[第6版]』(有斐閣、2015年)p.209

*12:最判昭和35年9月15日〈百選A5〉、田中p.115,116

*13:江頭憲治郎『株式会社法[第6版]』(有斐閣、2015年)p.205、龍田節『会社法大要』(有斐閣、2007年)p.242、酒巻俊雄=龍田節編集代表『逐条解説会社法(2)』(中央経済社、2008年)p.255〔北村雅史〕

*14:事例p.127,128〔田中亘〕、相澤哲=葉玉匡美=郡谷大輔編著『論点解説新・会社法』(商事法務、2006年)p.139

*15:田中p.485,486、最判昭和42年11月17日〈百選9〉

*16:事例p.195,196

*17:北沢豪「批判」判タ884号(1995年)p.56

*18:鴻常夫「批判」法学協会雑誌86巻1号(1969年)p.122

*19:田中p.118,119、東京地決平成24年12月21日