司法試験・予備試験実践論証

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【論証】会社法3株式⑶株式の譲渡・自己株式の取得

ここでは、株式の譲渡及び自己株式の取得にかかわる論点について検討します。

 

 

株式の譲渡

 

株式は、原則として自由に譲渡することができます(株式の譲渡自由の原則、127条)が、定款、契約、法律による譲渡制限があります。論文において重要なのは、譲渡自由の原則及び前二者による譲渡制限です。

 

株式の譲渡自由の原則

 

【論証:株式の譲渡自由の原則】

 株式会社において株主は、持分会社における社員(606条1項)と異なり、原則として出資の返還を求める権利を有しない。なぜなら、株主は有限責任を負うにとどまる(104条)ところ、会社の財産的基盤を確保する必要があるからである。

 したがって、株主の投下資本の回収の手段として株式の自由な譲渡を認めるべきである。

 また、株式が市場価値で売買されることは、会社の効率的な経営を促す。

 以上のような趣旨から、法は株式の譲渡自由の原則を定めている(127条)。*1

 

譲渡自由の原則は、前提として論じることが多いので、論証の程度の理解を持ったうえで、答案上は適宜短縮して示すことで足りると思います。

 

 

定款による譲渡制限

 

上記のように、株式の譲渡は原則として自由に認められますが、会社の中には、株主間の個人的な信頼関係が重視され、好ましくない者が株主になることを排除したいというニーズが存在するものもあります。そこで、会社法は、定款によって株式の譲渡による取得は会社の承認を要するという形で、株式の譲渡制限をすることを認めています(107条1項1号、108条1項4号)。

 

定款による譲渡制限については、みなし承認の規定(145条)が盲点になりやすいですが重要です。これは、譲渡人または譲受人による譲渡等承認請求(136条、137条)が行われたにもかかわらず、会社が承認をせず、2週間以内に必要な通知(139条)をしない場合には、会社が譲渡を承認したとみなすという規定(145条1号)です(同条2号3号によるみなし承認にも一度目を通しておくとよいと思います)。

 

譲渡制限株式の譲渡については、承認のない譲渡の効力、会社分割への定款による譲渡制限の適用の有無、譲渡制限株式への譲渡担保の設定といった論点があります。

 

【論証:承認のない譲渡制限株式の譲渡の効力】

 会社との関係においては、会社にとって好ましくない者が株主になることを排除し、もって譲渡人以外の株主の利益を保護するという定款による譲渡制限の規定(107条1項1号、108条1項4号)の趣旨に照らし、会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は無効であると解すべきである。

 では、会社は譲渡人を売主として扱う義務まで負うか。

 ここで、株式の譲渡人はもはや株主としての法的保護に値しないとして、会社は譲渡人を株主として扱うことはできるがその義務まではないとする見解もある。

 しかし、譲渡人を株主として扱うか否かの裁量権を会社に与えることは、取締役等が株主を選ぶことにつながり、濫用の危険が大きいため、妥当でない。

 したがって、会社は譲渡人を株主として扱う義務を負うと解すべきである。

 一方、当事者間については、会社との関係で譲渡を無効とすれば上記の趣旨は充足されるし、137条1項は当事者間において譲渡が有効であることを前提にしていることから、かかる譲渡も有効であると解される。*2

 

上記の論証には重要な例外があります。

すなわち、定款による譲渡制限の趣旨は会社にとって好ましくない者が株主になることを排除し、もって譲渡人以外の株主の利益を保護する点にあるところ、一人会社の株主が株式を譲渡する場合や、譲渡人以外の全株主が譲渡に同意している場合には、他の株主の利益保護の必要はない以上、承認がなくても、譲渡は会社との関係でも有効と解すべきです。*3

 

 

定款による譲渡制限が行われても、相続や合併といった一般承継の場合には、会社の承認は必要ありません。なぜなら、これらの「一般承継」は「譲渡」にはあたらないと解されるからです(134条4号参照)。

 

このような場合にも、相続人等を排除したい会社のニーズは存在し得ますから、会社は譲渡制限株式の一般承継人に対して、当該株式の売渡請求をすることができます(174条~177条)。

 

ここで、相続や合併が「一般承継」にあたり、譲渡制限が適用されないことには争いがありませんが、会社分割も「一般承継」にあたるのかが問題となります。

 

【論証:会社分割への定款による譲渡制限の適用の有無】

 134条4号、174条は「一般承継」の場合には定款による譲渡制限の適用がないことを前提とする規定であるところ、会社分割も「一般承継」にあたり、定款による譲渡制限の適用がないのではないか。

 ここで、相続や合併の場合には被承継人が死亡または消滅しているため、承認がない場合に誰が株主となるか困難な問題が生じてしまうのに対し、会社分割の場合には分割会社が存続しているため、何ら困難な問題は生じない

 また、株式譲渡自由の原則(127条)の例外として定款による譲渡制限が認められている趣旨は、株主の個性が問題となる会社においては好ましくない者が株主になり経営に関与することを防ぐ必要があることにある。そして、承継会社が他の株主にとって好ましくない者であるおそれは、譲渡制限株式が売買等によって譲渡される場合と同様に存在しており、会社分割制度はそのようなおそれから会社を保護する手続を用意していない

 したがって、会社分割は「一般承継」にはあたらず、定款による譲渡制限の適用があると解すべきである。*4

 

この論点は、令和元年予備試験でも出題されました。現場で書くことができた人は多くはなかったと思いますが、一度出題された以上、押さえておく必要はあると考えられます。

 

 

次に、譲渡制限株式に譲渡担保を設定する場合にも会社の承認が必要か、という論点について検討します。メジャーな論点ではないかもしれませんが、百選掲載判例の論点なので押さえておいて損はないでしょう。

 

【論証:譲渡制限株式への譲渡担保の設定】

 譲渡制限株式を譲渡担保に供する場合、会社の承認(136条)を要するか。譲渡担保の設定が「株式の譲渡」にあたるかが問題となる。

 ここで、譲渡担保の設定を「株式の譲渡」にあたるとし、会社の承認が必要と解すると、設定者が後に被担保債務を弁済して当該株式を受け戻す際に再度会社の承認を求める必要があり、承認を得られないリスクがあるため、受戻権を害し妥当でないとして、譲渡担保の設定は「株式の譲渡」にあたらないとする見解もある。*5

 しかし、譲渡担保の設定を「株式の譲渡」と解しても、設定者又は譲渡担保権者が譲渡等承認請求(136条、137条)を行わない限り会社は設定者を株主として扱わなければならないのであるから、受戻しにあたって会社の承認は不要であるし、仮に譲渡等承認請求が行われた場合には、会社からみれば受戻しは一度株式を手放した者が再度株式を取得するのと同じであるから、会社の承認が必要であるとすることも当然である。

 また、株式譲渡が譲渡担保なのか通常の譲渡なのかは外部者である会社が判断するのが困難であるから、譲渡担保であるか否かによって会社が取り扱いを変えることを強いるのは不当である。

 したがって、譲渡担保の設定は「株式の譲渡」にあたると解すべきである。*6

 

 

契約による譲渡制限

 

会社法には、定款による株式の譲渡制限以外の方法による譲渡制限の規定がありません(法律による譲渡制限は別論)が、契約による譲渡制限が認められるのか、限界はないのかが問題となります。

 

【論証:契約による譲渡制限】

 株主同士あるいは株主と第三者との間の契約による譲渡制限は契約の自由により有効であるが、会社と株主との間の契約による譲渡制限は、会社法127条の脱法手段となるため原則として無効であり、株主の投下資本の回収を不当に妨げない合理的なものであるときに限り有効であるとする見解もある。*7

 しかし、会社と株主の間の契約であっても、当該契約は契約当事者以外の株主を拘束することはないところ、契約当事者である株主自身の利益のためにこうした契約の効力を否定する理由は乏しい。したがって、会社と株主との間の契約であっても、契約自由の範囲内として原則として有効としてよいと解する。

 もっとも、契約当事者である株主の投下資本回収の機会を著しく制約する場合には公序良俗違反(民法90条を理由に契約が無効とされる可能性がある。また、契約による譲渡制限で会社に同意権や買取先指定権を与える場合には、「取締役が株主を選ぶ」という仕組みにより現経営陣の経営支配権の維持確保に利用され得るため、契約の当事者以外の株主の利益が害されるおそれがある。したがって、かかるおそれが認められる場合には契約による譲渡制限は無効となりうると解する。*8

 

 

具体的には、従業員持株制度における株式の譲渡制限が問題となることが多いです*9従業員持株制度とは、従業員の士気高揚や福利厚生の目的で、従業員が会社の資金援助を受けて、従業員持株会を通じて自社の株式に投資する仕組みをいいます。*10

 

従業員持株制度においては、退職時には保有株式を取得価額と同額で、従業員持株会又は会社が指定した者に譲渡することを契約上義務付けていることが通常であり、この点で契約による譲渡制限であるといえます。

 

譲渡価額が取得価額と同額であるため、従業員はキャピタルゲイン保有期間中の株式価格上昇の利益)を享受することができません。このため、従業員持株制度を無効とする学説もありますが、判例は契約の自由を認める傾向にあります。*11上記論証の立場からも、従業員持株制度は有効であるとしてよいでしょう。

 

従業員持株制度については、利益供与該当性も論点となるので気を付けてください。この点に関しては、利益供与のところで詳述しています。

 

shihouyobi.hatenablog.com

 

 

 

自己株式の取得

 

株式会社が自ら発行した株式を株主から取得することを自己の株式の取得といい、このように取得した上で、会社が保有している自己の株式を自己株式といいます。

 

自己株式の取得規制については、155条以下の規定をよく読みこんでおいてください。

 

ここでは、手続規制違反の自己株式取得の効力、財源規制違反の自己株式の効力(分配一般の効力)について検討します。

 

手続規制違反の自己株式取得の効力

 

【論証:手続規制違反の自己株式取得の効力】

 自己株式取得の手続規制に違反した場合、原則として自己株式取得は無効となる。

 もっとも、取引安全の見地から手続規制違反について善意の相手方との関係では有効となると解する。また、自己株式取得の手続規制の趣旨が会社や他の株主の保護にあることから、規制違反による無効は会社からのみ主張することができ、相手方からの無効主張は認められないと解する。*12

 

 

手続規制違反の自己株式取得が行われた場合の役員の任務懈怠責任における損害額についても問題となることがありますが、これについては、

 ・取得価格全額

 ・取得価格から処分価格(未処分のときは時価)を控除した額*13

 ・取得価格と取得時の公正な時価との差額*14

 とする見解があります。答案上はどの立場をとっても構わないと考えられます。

 

 

財源規制違反の分配の効力

 

自己株式の取得には、分配可能額規制(461条1項1号~7号)が適用されます。分配可能額を超えて自己株式を取得することは会社財産流出を防止するために許されないのです。ここでは、分配可能額規制に違反する自己株式取得の効力について検討しますが、これは分配可能額規制違反の分配一般に(自己株式の取得以外にも、剰余金の配当(461条1項8号)にも)妥当する議論です。

会社法改正前は無効説が支配的でほとんど争いはありませんでしたが、立案担当者は新会社法は有効説をとると明言しています。もっとも、学説の多数はなお無効説に立っています。答案上はいずれの説をとっても構わないと考えられます。後続する問題解決にあたっていずれかの立場の方が書きやすいということも考えられるので、どちらの説も理解しておくことが望ましいといえます。(個人的には、現役時代は無効説派でしたが、最近は有効説に傾いています。)

 

【論証:財源規制違反の分配の効力(無効説)】

 463条1項「効力を生じた日」という文言からすれば、会社法は財源規制違反の行為が有効であることを前提としている、財源規制違反の分配を無効とすると、会社は株主に対し、株式の不当利得返還債務を負うことになり、株主からの同時履行の抗弁権の主張によって462条1項の責任が実効性を失ってしまう、といった理由からかかる分配も有効であるとする見解もある。

 しかし、法の細かな文言によって解釈問題の決着がつくものではない。また、財源規制違反の配当決議は無効であり(830条2項)、無効な総会決議に基づく配当は無効と解するのが自然である。もっとも、株主からの上記のような同時履行の抗弁権の主張を認めると会社債権者による責任追及を困難にしてしまう。そこで、462条1項は不当利得についての民法の規定の特則であり、同時履行の抗弁権をも排除するものと解する。かく解すれば財源規制違反の分配を無効としても不都合はない。

 したがって、財源規制違反の分配は無効と解すべきである。*15

 

 

【論証:財源規制違反の分配の効力(有効説)】

 財源規制違反の分配は改正前商法における解釈と同様に無効であるとする見解が有力である。

 しかし、463条1項は「効力を生じた日」という文言を用いているところ、会社法は財源規制違反の行為が有効であることを前提としている。また、財源規制違反の分配を無効とすると、会社は株主に対し、株式の不当利得返還債務を負うことになり、株主からの同時履行の抗弁権の主張によって462条1項の責任が実効性を失ってしまうおそれがあるところ、かかる同時履行の抗弁権の主張を封じる必要がある。さらに、財源規制違反の分配を無効とすると自己株式の売主は株主のままということになり、その者を株主として扱わずに行われた総会決議の法令違反をもたらし得るし、取得した株式を会社が処分した場合にその効力にも疑問が生じ得るという問題がある。

 そして、有効説に立っても株主は厳格な金銭支払義務を負うことになるため、特段の不都合はない。

 したがって、あえて条文の文言に反する解釈をする必要はなく、財源規制違反の分配は有効と解すべきである。*16

 

 

現物配当の場合には、有効説から無効説に対する批判として、株主が462条1項の金銭支払義務と現物返還義務の二重の責任を負うことになってしまう、という点を挙げることもできます。

 

 

無効説に立つ際は、現物配当の場合には、462条1項は不当利得についての民法の規定の特則であるから、現物返還義務は排除され、同項の金銭返還義務のみ負う、とすべきであると考えられます。*17

このとき、反射的効果として配当財産の所有権は株主に帰属することになります。*18

 

 

 

 

*1:田中p.98

*2:田中p.103、最判昭和63年3月15日

*3:田中p.104、最判平成5年3月30日、最判平成9年3月27日

*4:田中p.629、相澤哲編著『Q&A会社法の実務論点20講』(金融財政事情研究会、2009年)p.17

*5:神田秀樹『会社法[第20版]』(弘文堂、2018年)p.101

*6:田中p.125,126、最判昭和48年6月15日〈百選18〉

*7:石井照久=鴻常夫『会社法⑴』(勁草書房、1977年)p.222

*8:田中p.105,106、事例p.489~496(田中亘)、最判平成7年4月25日〈百選20〉、前田雅弘・同百選解説

*9:前掲最判平成7年4月25日等

*10:前掲前田・百選20解説

*11:前掲最判平成7年4月25日、最判平成21年2月17日

*12:田中p.419、最判平成5年7月15日

*13:東京高判平成6年8月29日

*14:江頭憲治郎=森本滋編集代表『会社法コンメンタール⑷』(商事法務、2009年)p.20,21(藤田友敬)、大阪地判平成15年3月15日

*15:事例p.305~308、313~315、江頭憲治郎『株式会社法[第6版]』(有斐閣、2015年)p.258注11,p.678、伊藤靖史ほか『会社法[第3版]』(有斐閣、2015年)p.287(伊藤)、神田秀樹『会社法[第17版]』(弘文堂、2015年)p.305

*16:田中p.439,440、相澤哲編著『立案担当者による新・会社法の解説』(別冊商事法務295号、2006年)p.135

*17:事例p.309、江頭憲治郎『株式会社法[第6版]』(有斐閣、2015年)p.258注11

*18:事例p.310