司法試験・予備試験実践論証

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【論証】会社法5機関⑵取締役Ⅱ

取締役にかかわる論点の中で、ここでは、競業取引規制と利益相反取引規制について検討します。

 

取締役は、会社に対し、善管注意義務(330条、民法644条)・忠実義務として、会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ってはならないという義務を負います。競業取引規制や利益相反取引規制は、こうした一般的な義務に加え、特に取締役と会社との利益が衝突しやすい場面について、会社の利益保護を目的として定められた規制です。

 

 

競業取引規制

 

競業取引の場面では、取締役が会社の取引を奪うなどして会社に損害を与えるおそれがあります。しかし、一方でグループ経営などで取締役が関連会社の取締役を兼任することはよくあることですし、合理的な選択といえます。そこで、会社法は競業取引を一律に禁止はせず、法定決議機関の承認が必要であることとしました(356条1項1号、365条1項)。

 

規制の範囲

 

【論証:競業取引】

 356条1項1号が競業取引に一定の規制を課しているのは、競業取引の場面において、会社の取引機会を奪うなどして、取締役が自己又は第三者の利益を図って会社の利益を害することを防止するためである。

 かかる趣旨から、「事業の部類に属する」取引とは、会社の事業と市場において競合し、会社と取締役との間に利益の衝突を来す可能性のある取引をいうと解する。会社が現に行っていない事業は原則としてこれにあたらないが、会社が進出を予定している場合には規制にかかると解する。

 そして、「取引」についての規制であるから、取締役が同業他社の業務執行をしない取締役に就任するだけでは同号に抵触しない。もっとも、取締役が事実上の主宰者として当該他社を支配していた場合には、自ら競業「取引」をするのと同視できるから、同号に抵触すると解する。

 「自己又は第三者のために」の意味については、自己又は第三者の名義で、とする見解もあるが、名義の如何にかかわらず、利益の帰属先に注目して規制を行うのが上記の規制の趣旨に合致するから、自己又は第三者の計算で、という意味であると解すべきである。*1

 

承認

 

承認は、包括的に行うことも許されます。例えば、取締役が同業他社の代表者に就任するときに包括的な承認を受ければ、就任後に行う個々の取引について逐一承認を受ける必要はありません。*2

 

承認の際には、「重要な事実」の開示が必要です(356条1項、365条2項)。一回的な取引の場合には、目的物、数量、価格等を開示する必要がありますが、上記のような包括的承認の場合には、当該他社の事業の種類、規模、取引範囲等を開示すれば足りると解されています。*3

 

承認を得ずに行われた取引は無効にはならないと解されます。なぜなら、利益相反取引とは異なり、会社が取引主体ではないため、これを無効としても会社保護にならないからです。

 

また、承認を得たか否かにかかわらず、競業を行って会社に損害を与えた場合には、取締役の任務懈怠責任が生じ得ます。これは利益相反取引の場合と同様です。

 

 

利益相反取引

 

取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をすることを直接取引、取締役以外の者との間において会社と当該取締役との利益が相反する取引をすることを間接取引といいます。

 

直接取引

 

自己又は第三者の「ために」という文言が、名義で、という意味か、計算で、という意味かが問題となります。

 

【論証:利益相反取引 「ために」】

 「自己又は第三者のために」(356条1項2号)の意味については、基準としての明確性の要請があること、実質的には取締役に利益が帰属し、会社と取締役の利益が相反することになる取引は間接取引類型(同項3号)により規制されることから、計算説に立つ必要はなく、自己又は第三者名義で、という意味であると解すべきである。*4

 

計算説もありますが*5、名義説でよいのではないでしょうか。

 

428条1項の「ために」についてはまた議論があるので、それについては取締役の責任(任務懈怠責任)のところで詳しく検討します。

 

 

間接取引

 

いかなる取引が間接取引にあたり、利益相反取引規制の適用を受けるかが問題となります。

 

【論証:利益相反取引 間接取引該当性】

 法が利益相反取引につき規制を課している趣旨は、利益相反取引の場面では、取締役が自己の影響力を利用して、自己の利益のために取引の条件を会社に不利なものにするおそれがあるため、これを防止する点にある。そして、会社が取締役以外の者との間で取引を行う場合であっても、それが実質的にみて会社と取締役の利益が相反する取引であれば、上記のおそれは同様に認められるから、かかる場合には間接取引(356条1項3号)として利益相反取引規制に服すると解する。

 

取締役が他社の全株式を有している場合は間接取引に当然該当します。過半数の株式を有していれば間接取引にあたるとする見解もあります。*6

 

株式を有していなくても事実上の主宰者として支配しているときは間接取引に該当するとした裁判例があります。*7

 

 

承認

 

承認手続にあたって、取締役は「重要な事実」を開示することが必要ですが、これは、会社の利益が損なわれたり、会社が損害を受けたりすることがないかどうかを判断するために必要な事実をいうとされます。

 

承認機関については条文でよく確認しておいてください。

 

取締役の利益相反取引の承認は,個々の取引につきなされるのが原則ですが、関連会社間の継続的取引などの場合に取引の種類・数量・金額・期間などを特定して包括的に承認を与えることも許されると考えられています。*8

また、事後承認も可能です。*9

 

もっとも、あらゆる利益相反取引について承認が必要であると考えられているわけではありません。

 

【論証:利益相反取引 承認が不要な取引】

 法が利益相反取引につき規制を課している趣旨は、利益相反取引の場面では、取締役が自己の影響力を利用して、自己の利益のために取引の条件を会社に不利なものにするおそれがあるため、これを防止する点にある。したがって、抽象的にみて会社に損害が生じ得ない取引については、法定の決議機関の承認は不要であると解する。さらに、取引の具体的な内容に照らして、会社にとって公正であると認められる場合にも承認が不要とする見解もあるが、取引の公正さは容易に判断できるものではないから、公正さを判断させるためにも利益相反取引にあたるとして承認を要すると解すべきである。

 また、会社の所有者たる株主全員の同意がある場合にも、会社の利益保護を図る必要に乏しいから、承認は不要であると解する。*10

 

抽象的にみて会社に損害が生じ得ない取引の具体例としては、会社に負担のない贈与*11・貸借*12、義務の履行*13・相殺*14、競売*15、定型的な会社を害しない取引(約款に基づく取引)*16などがあげられます。

 

また、1人会社の株主との取引についても、株主全員の同意がある場合と同様の理由から、承認が不要と考えられます。*17

 

 

上記の例外に当たらず、承認が必要であるにもかかわらず、承認を得ずに取引が行われた場合、その効力が問題となります。

 

【論証:利益相反取引 承認のない取引の効力】

 利益相反取引規制の趣旨は、利益相反取引の場面では、取締役が自己の影響力を利用して、自己の利益のために取引の条件を会社に不利なものにするおそれがあるため、これを防止する点にある。その趣旨をよくかなえるため、直接取引の相手方である取締役との関係では、会社は取引の無効を主張することができると解する。このとき、自ら規制違反の取引をした取締役に無効主張を認めるべきではないから、取締役の側からの無効主張は認められない。

 間接取引の相手方及び直接取引の後に登場した三者との関係では、取引安全の要請から、会社が相手方もしくは第三者の悪意(利益相反に該当すること及び承認欠缺について)を主張、立証して初めて無効主張ができると解する。そして、重過失ある者は悪意者と同視できるから、会社が相手方もしくは第三者の重過失を主張、立証した場合にも、会社は無効主張をすることができる。*18

 

 

承認を得ていたとしても、当該取引によって会社に損害が生じた場合、取締役は任務懈怠責任を負い得ます。この点については、取締役の責任(任務懈怠責任)のところで詳しく検討します。

 

 

 

*1:東京地判昭和56年3月26日〈百選55〉、大阪高判平成2年7月18日、名古屋高判平成20年4月17日、田中p.242~244

*2:江頭憲治郎=森本滋編集代表『会社法コンメンタール⑻』(商事法務、2009年)p.73〔北村〕

*3:前掲コンメp.73

*4:事例p.208

*5:田中p.245

*6:田中p.246

*7:阪高判平成2年7月18日

*8:江頭憲治郎『株式会社法[第7版]』(有斐閣、2017年)p.446

*9:江頭憲治郎『株式会社法[第7版]』(有斐閣、2017年)p.447

*10:江頭憲治郎『株式会社法[第7版]』(有斐閣、2017年)p.444、田中p.248

*11:大判大正13年9月28日

*12:最判昭和39年1月28日

*13:大判大正9年2月20日

*14:大判昭和12年6月17日

*15:東京地裁昭和5年7月18日、東京高裁昭和31年3月5日

*16:東京地裁昭和57年2月24日

*17:最判昭和45年8月20日

*18:最判昭和43年12月25日〈百選58〉、最判昭和46年10月13日〈百選57〉、東京地判平成14年6月24日、田中p.249,250