司法試験・予備試験実践論証

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【論証】刑訴4証拠法⑴証拠法序説・関連性

ここでは、証拠能力の基本及び関連性(伝聞証拠を除く)にかかわる論点を検討します。

 

 

証拠法序説

 

まず、証拠能力と証明力を明確に区別して理解しましょう。証拠能力とは訴訟において(一定の)事実の認定のための証拠として使用することのできる法的資格のことをいい、証明力とは、証拠の持つ、一定の事実を推認させる実質的な力のことをいいます。*1

 

証明力については、その評価・判断が裁判官の自由心証に委ねられます(318条)が、証拠能力については、種々の規制が存在します。

 

まず、最低限度の証明力も有しないような証拠については、①自然的関連性が否定され、証拠能力が認められないことになります。

 

次に、最低限度以上の証明力は有するものの、事実認定に誤りを生じさせる危険があると考えられる証拠は、②法律的関連性を欠くとして証拠能力を否定されます。

伝聞証拠の証拠能力が否定されるのは、法律的関連性が否定されるためとするのが一般的な理解です。

 

さらに、上記のような観点とは異なる考慮によって証拠能力を否定されるべき場合があり、これを③証拠禁止といいます。

違法収集証拠排除法則などがこれにあたると考えられます。

 

実際の答案では、①②③のすべてを論じる必要はなく、当該事案に適用される条文の解釈を行えばよいのですが、理解のためには、上記の①②③という観点から証拠能力が否定される場合があるという整理が有用です。

 

 

厳格な証明と自由な証明

 

317条は、「事実の認定は、証拠による」と規定しています(証拠裁判主義)。

これは、犯罪事実の認定は個々の適正な証拠によらなければならない旨を定めたものと考えられています。*2

 

適正な証拠による、とは、①証拠能力を備えた証拠を、②適式の証拠調べ方法によって取り調べ、事実認定を行う、ということです。この①②を満たす証明の方法を厳格な証明といいます。

一方、証拠能力も適式の証拠調べ方法も必要としない証明の方法を自由な証明といいます。

 

317条は、上記のように「犯罪事実」については厳格な証明を要求していますが、それ以外の事実についてはいかなる証明の方法が必要かを明示していません。そこで、厳格な証明が必要となるのか自由な証明で足りるのか、問題となる事実が出てきます。

以下では、それらの事実につき、厳格な証明が必要とされるのかを見ていきます。

 

実体法的事実

 

実体法的事実とは、刑罰権の存否・範囲に直接関係する事実のことです。これらについて厳格な証明が必要であることには争いが(ほぼ)ありません。

 

刑罰権の存否に直接関係する事実とは、構成要件該当事実、違法性や有責性を基礎づける事実、主観的要素、処罰条件などです。

 

刑罰権の範囲に直接関係する事実とは、法律上の刑の加重事由、法律上の刑の軽減・免除事由などです。

 

厳格な証明が必要となるのは、被告人側が犯罪事実の不存在を証明する場合も異ならないとするのが通説です。*3

 

訴訟法的事実

 

訴訟法的事実については、刑罰権の存否・範囲に直接関係するものではないため、基本的に自由な証明で足りるとされます。自白の任意性について論証の形で見てみましょう。

 

【論証:厳格な証明の要否 自白の任意性】

 刑罰権の存否・範囲に直接関係する事実については、厳格な証明が必要であるが、訴訟法的事実については、刑罰権の存否・範囲に直接関係するものではないため、自由な証明で足りると解する。

 ここで、自白の任意性は、証拠の証拠能力を基礎づける事実であるが、厳格な証明が必要となるか。

 実体法的事実の証明に用いられる証拠の証拠能力であっても、その有無が刑罰権の存否ないし範囲に与える影響は間接的なものにとどまるところ、証拠の証拠能力を基礎づける事実自体は訴訟法的事実といえる。したがって、自白の任意性について厳格な証明は要しない。もっとも、犯罪事実の証拠としての自白の重要性にかんがみ、厳格な証明は要しないとしても、少なくとも当事者に攻撃防御を尽くす機会を与えることは必要であると解する。*4

 

 

情状事実

 

【論証:厳格な証明の要否 情状事実】

 情状事実のうち、いわゆる犯情は、犯罪事実に属する情状であるから、厳格な証明を要することは当然である。そこで、いわゆる一般情状について厳格な証明を要するかが問題となる。

 ここで、一般情状に属する量刑事情は犯罪事実に比べると重要度が低いこと、量刑事情は不定形で多様であるところ、厳格な証明が必要とすると、事案に応じた適切な量刑ができなくなるおそれがあることから、自由な証明で足りると解する。*5

 

 

間接事実・補助事実

 

【論証:厳格な証明の要否 間接事実】

 間接事実は、それ自体が直接に一定の法的効果を帰結する要件事実ではないが、当該間接事実に基づき認定されるところの事実が厳格な証明を要するとされるものである場合には、刑罰権の存否・範囲に直接的な影響を与えるものといえるから、厳格な証明を要すると解する。*6

 

経験則の証明についても間接事実と同様です。

 

 

【論証:厳格な証明の要否 補助事実】

 補助事実については、およそ自由な証明で足りるという見解もあるが、弾劾・増強等の対象となる証拠が厳格な証明を要する事実に関するものである場合には、補助事実も厳格な証明が必要と解すべきである。*7

 

 

関連性

 

上記のように、自然的関連性または法律的関連性を欠く証拠は証拠能力を否定されます。

 

自然的関連性が否定されるのは、およそ根拠に乏しい「ニセ科学」に依拠した証拠や、単なる噂、想像に基づく供述、偽造等のされた証拠等の真正性を欠く証拠の他、単純におよそ事件と関係のないことの明らかな証拠などです。

 

法律的関連性が否定されるのは、誤謬が見逃されがちであるとか、予断や偏見を与えるおそれがある、争点を拡散させるおそれがあるなどといった理由から、当該証拠を用いると事実認定に誤りが生じる危険が相当程度高い場合です。

 

ここでは、類似事実の立証、科学的証拠、写しについて検討します。法律的関連性の問題であると整理される伝聞証拠については後の記事を参照してください。

 

類似事実の立証

 

類似事実の立証の禁止について、同種前科立証を例にとって検討します。要証事実が何かによって許容されるか否かが異なってくるので注意してください。

 

【論証:類似事実の立証 犯人性】

 犯人性という刑罰権の存否に直接関係する事実を立証するための証拠には証拠能力が認められる必要がある(317条)。

 同種前科を立証するための証拠は、犯人性を推認させる最低限の自然的関連性は認められるとしても、他の類似行為から被告人のその種の行為をする傾向(悪性格)を立証し、それを媒介に被告人の本件の犯人性を証明しようとするものゆえ、裁判官に不当な偏見を抱かせ、事実認定を誤らせるおそれがあり、また、争点の拡散を招くおそれがあるため、法律的関連性に欠けるといえ、証拠能力が認められないのが原則である。

 もっとも、前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつそれが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似するといえる場合には、前科それ自体が直接的に被告人の犯人性を推認させるといえ、同種の行動の傾向といったあいまいな中間項は介在しないから、不当な偏見を抱かせる等の危険もなく、法律的関連性も認められると解する。*8

 

上記の理は、前科に限定されず、同種の余罪、非行歴などについても妥当します。

 

 

【論証:類似事実の立証 主観的要素】

 被告人の故意の存在を証明するために同種前科を立証することが許されるか。

 故意という刑罰権の存否に直接関係する事実を立証するための証拠には証拠能力が認められる必要がある(317条)。

 同種前科を立証するための証拠は、被告人の故意の存在を推認させる最低限の自然的関連性は認められるとしても、被告人が他にも類似の犯罪を故意に行っているから今回も故意に行ったのだろうというように、他の類似行為から被告人のその種の行為をする傾向(悪性格)を立証し、それを媒介に被告人の故意を証明しようとする場合には、裁判官に不当な偏見を抱かせ、事実認定を誤らせるおそれがあり、また、争点の拡散を招くおそれがあるため、法律的関連性に欠けるといえ、証拠能力が認められない。

 もっとも、同種前科の立証から、被告人は本件行為時にそれが違法な行為であることを了解していたこと(被害者が誤信していることを被告人が認識していたこと)を推認する場合には、前科それ自体が直接的に被告人の犯人性を推認させるといえ、同種の行動の傾向といったあいまいな中間項は介在しないから、不当な偏見を抱かせる等の危険もなく、法律的関連性も認められると解する。*9

 

 

【論証:類似事実の立証 量刑事実】

 量刑は、被告人の性格、経歴および犯罪の動機、目的、方法等全ての事情を考慮して、裁判所が法定刑の範囲内において適当に決定すべきものであるから、量刑の一情状として、いわゆる余罪を考慮することは必ずしも禁じられないと解する。

 もっとも、起訴されていない犯罪事実を余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料に考慮し、これがために被告人を重く処罰することは、不告不理の原則(378条3号)、罪刑法定主義憲法31条)、証拠裁判主義(317条)に反し、また、補強法則憲法38条3項、刑訴法319条2項、3項)、一事不再理憲法39条、刑訴法337条1号)にも反するおそれがあるため、許されないと解する。*10

 

補強法則に反するおそれ、というのは、余罪が自白のみによって認定されることが多いためです。また、一事不再理に反するおそれというのは、余罪が事後的に起訴された場合には、一事不再理に反することになってしまう、ということです。

 

 

科学的証拠

 

【論証:科学的証拠】

 一定の事象・作用につき、通常の五感の認識を超える手段、方法を用いて認知・分析した判断結果(科学的証拠)は、その専門性から、結果へ至る過程についての実質的吟味を十分経ないままに事実認定に供されてしまう危険がある。また、上記のような判断結果は、専門性ゆえに過大評価されてしまう危険もある。そこで、科学的証拠に自然的関連性、法律的関連性が認められるためには、①科学的原理が理論的正確性を有し、②用いられた技術・手法がこの原理に適合し、③当該技術・手法が実際に適用された際の手続が適切であり、④当該実験等に用いられた資料の採取・保管の態様が適切であったことが必要であると解する。*11

 

DNA型鑑定について、科学的原理の理論的正確性、当該事案での具体的な鑑定実施の手続の適切性から、証拠能力を肯定した判例があります。*12

 

判例は、326条1項の同意があったポリグラフ検査結果回答書について、作成状況等を考慮して証拠能力を認めました*13が、基礎にある科学的原理が未解明であること、検査の正確性を担保する状況設定が困難であることから、関連性なしとして証拠能力を一切認めない見解もあります。*14

 

犬による臭気選別結果の証拠能力を肯定した判例もあります。*15しかし、臭気選別の基礎原理が科学的に確立しているとは必ずしもいえません。また、選別結果の正確性・信頼性を事後的に判定することは著しく困難です。したがって、関連性を否定すべきであると考えられます。*16

 

 

写し

 

【論証:写しの証拠能力】

 犯罪事実は、最良の証拠によって証明されるべきである(刑事訴訟規則189条の2参照)ところ、写しに証拠能力が認められるのは、①原本が存在し、かつそれ自体に証拠能力があること、②写しが原本を正確に写したものであること、③原本を提出することが不可能又は困難であることという要件を満たす場合に限られると解する。*17

 

 

*1:リークエp.350

*2:リークエp.352

*3:リークエp.354

*4:リークエp.354,355

*5:リークエp.355

*6:リークエp.355

*7:リークエp.356

*8:最判平成24年9月7日〈百選62〉、リークエp.360,361

*9:最決昭和41年11月22日、リークエp.363

*10:最判昭和41年7月13日

*11:東京高判平成8年5月9日参照、最決平成12年7月17日〈百選63〉参照、リークエp.364,365

*12:前掲最決平成12年7月17日

*13:最決昭和43年2月8日

*14:リークエp.368

*15:最決昭和62年3月3日〈百選65〉

*16:リークエp.368,369

*17:東京高判昭和58年7月13日参照、リークエp.416