司法試験・予備試験実践論証

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【論証】刑法総論2違法性⑵緊急避難・その他の違法性阻却事由

緊急避難については、大部分正当防衛と同様の議論が当てはまります(「現在の危難」は侵害の急迫性と同様ですし、「避難の意思」は「防衛の意思」と同様です)。

もっとも、緊急避難に特有の、あるいは論じ方が正当防衛とは異なる論点として、強要による緊急避難、自招危難があります。

 

また、その他の違法性阻却事由としては、正当行為、被害者の承諾、自救行為などがあります。正当行為の問題として、権利行使と恐喝などがあげられますが、これは各論で触れたいと思います。

ここでは、承諾、推定的承諾、危険引受け、自救行為と正当防衛について検討したいと思います。

 

 

 

緊急避難

 

緊急避難は責任阻却事由説もありますが、違法性阻却事由説が通説なので、この説を前提として検討します。*1

 

強要による緊急避難

 

たとえば、甲はAからVを殴らなければ殺すと脅され、自己の生命侵害を避けるためにVを殴ったというような場合に、甲の行為について緊急避難が認められるかが問題となります。

 

【論証:強要による緊急避難】

 ここで、緊急避難の要件を形式的に満たす以上は緊急避難が成立するとする見解もあるが、不法の側に立つ者に緊急避難の主張を認めるのは不当であるから、緊急避難は成立せず、期待可能性が存在しない場合に限って、責任が阻却されるにとどまると解すべきである。*2

 

論証では責任阻却説(緊急避難不成立)を採用しましたが、どちらの説をとっても構わないと思います。裁判例は違法性阻却説(緊急避難成立)に親和的です。*3

 

 

自招危難

 

【論証:自招危難】

 ここで、過失により危難を招致した場合には緊急避難は許されるが、故意により招致した場合には権利濫用であるとして緊急避難は許されないとする見解がある。

 しかし、故意による自招危難であっても、避難行為によって守られる法益が被侵害法益より明白に優越する場合にまで緊急避難の成立を認めないのは妥当でない。また、緊急避難によって違法性が阻却されるのは、緊急状況における避難行為に社会的相当性が認められるためである。そこで、自招行為と避難行為を全体として把握し、社会的相当性の観点を重視して緊急避難の成否を決すべきである。*4

 

判例は自招危難を否定しています。*5

そこで、判例の文言を用いて 

「危難が行為者の有責行為により自ら招いたもの」であり、「社会通念に照らしてやむをえないものとしてその避難行為を是認することができない場合」には、37条は適用すべきでない。

等とすることも考えられます。

 

 

その他の違法性阻却事由

 

被害者の承諾 

 

【論証:被害者の承諾】

 刑法は法益保護機能のみならず、社会倫理秩序維持機能も有すると解すべきであるから、違法性の本質は行為が国家・社会倫理規範に違反することである。したがって、被害者の承諾によって行為の違法性が阻却されるか否かは、諸般の事情を総合考慮して、法益侵害行為が社会的に相当といえるかによって決すべきである。

 具体的には、承諾が有効といえるためには、①被害者が承諾能力を有し②結果についてまでの③被害者の真意に基づく承諾が④行為のに⑤外部に表明され⑥それを行為者が認識していたことが認められることが必要である。そして、違法性が阻却されるかは単に承諾が存在するという事実だけでなく、承諾を得た動機目的、行為の手段方法、結果の程度等の諸般の事情を考慮して、法益侵害行為が社会的に相当といえるかにより判断する。*6

 

③について、もし錯誤に陥っていなかったならば承諾しなかったであろうといえる場合には真意に基づくものとはいえず、承諾は無効と考えます。*7

 

 

推定的承諾

 

被害者がその場にいなかったなどのために現実には承諾が存在しなかったが、被害者が承諾をしうる状況にあったならば、承諾をしていたであろうと考えられる場合にも行為の違法性が阻却されるのではないかが問題となります。

 

【論証:推定的承諾】

 ここで、被害者の承諾があった場合には、承諾は行為の社会的相当性の判断の一事情となり、行為が社会的に相当といえる場合には違法性が阻却される。そして、被害者が事態を正しく認識したならば承諾したであろうと推定される場合にも行為の社会的相当性が認められ得ることは同様である。したがって、推定的承諾が認められる場合にも違法性は阻却され得る。

 具体的には、現実の承諾を得ることができないことを前提に、被害者の立場に置かれた一般人ならば、結果について真意に基づいて承諾したといえる場合で、承諾を得ようとした動機目的、行為の手段方法、結果の程度等の諸般の事情を考慮して、法益侵害行為が社会的に相当といえるときは違法性が阻却されると解する。*8

 

 

危険引受け

 

危険引受けとは、被害者が結果は発生しないであろうと思ってあえて自らをその危険にさらしたところ、不幸にも結果が発生してしまった場合に、軽率な被害者態度が行為者の罪責に影響を与えるのかという問題です。

 

この問題について、承諾の一つの場面であるとする見解もありますが、通説は危険引受けと承諾とを区別していますので、通説の立場を採用します。*9

 

論証の前に必要に応じて被害者の承諾により違法性が阻却されることとその根拠について論じるとよいでしょう。

 

【論証:危険引受け】

 被害者が、結果の発生そのものについては納得しておらず、危険な行為を実行することのみを容認していた場合には、被害者は結果についてまで意欲あるいは認容的に甘受したとはいえないから、承諾があったとはいえない。したがって、かかる場合には、行為者の行為が社会的に相当といえるか否かの判断の一資料として被害者の危険の引受けが一定程度考慮されるにとどまると解する。*10

 

 

自救行為

 

自救行為は極めて限定的な場合にのみ認められます。また、新司法試験で出題されたこともあるため、正当防衛との区別を書けると望ましいでしょう。

 

【論証:自救行為】

 正当防衛が「急迫不正の侵害」が存在している場合の防衛行為であるのに対し、自救行為は「急迫不正の侵害」が終了した後に行われる事後的救済行為である。

 「急迫不正の侵害」が終了しているため、実力での権利回復は原則として認められないが、なお公的機関の保護を求めていたのでは権利の回復が困難な事情が認められ、緊急性があるといえる場合には、相当性を有する手段に限り、例外的に自救行為として違法性が阻却されると解する。*11

 

 

 

 

*1:基本p.206、この見解は、①法が他人一般の法益を守るための緊急避難を認めているところ、このような行為は常に期待可能性がないとはいえないこと、②法益権衡が要求されるのは責任阻却ではなく、違法性阻却の観点からと解されることを主な根拠としています。

*2:基本p.213

*3:東京地判平成8年6月26日、東京高判平成24年12月18日

*4:基本p.212

*5:大判大13年12月12日

*6:基本p.160~163、最決昭和55年11月13日

*7:最判昭和33年11月21日

*8:基本p.163,164

*9:基本p.165,166

*10:基本p.166

*11:基本p.158,169