【論証】刑法総論5共犯⑵教唆犯・幇助犯
教唆犯
教唆犯の成立には①教唆②①に基づく実行行為③故意が必要です。
①教唆
教唆とは、他人に特定の犯罪を実行する決意を生じさせることをいいます。方法・手段を問わず、黙示的なものによることも可能ですが、不作為による教唆は認められないとするのが通説です。*1
片面的教唆について、否定説もありますが、多数説はあえて否定する理由は乏しいとして肯定説を支持しています。*2
②①に基づく実行行為
共犯従属性説(以下の記事を参照)から、正犯者の行為が構成要件に該当し、違法であることが必要です。結果が発生しなかった場合、未遂罪の教唆犯となります。
③故意
教唆犯の故意が認められるか否か問題になるケースとして、未遂の教唆の問題があります。未遂の教唆とは、教唆者が被教唆者の実行行為を未遂に終わらせる意思で教唆した場合をいいます。
【論証:未遂の教唆】
教唆者が結果発生の認識を欠いていた場合、教唆犯の故意に欠けるのではないか。いわゆる未遂の教唆の処理が問題となる。
ここで、教唆の故意としては教唆行為により被教唆者が特定の犯罪の実行を決意し、実行行為に至ることの認識・認容で足りるとする見解もある。しかし、共犯の処罰根拠は、共犯者が正犯者の行為を通じて法益侵害結果を間接的に惹起した点にあるのであるから、教唆の故意としては既遂の結果を生じさせることの認識・認容まで必要であると解すべきである。
したがって、未遂の教唆の場合には、既遂の結果発生の認識がないのであるから、教唆犯の故意が否定される。*3
幇助犯
幇助犯の成立には、①幇助②①に基づく実行行為③故意が必要です。
①幇助
幇助とは、実行行為以外の方法で正犯の実行行為を容易にすることをいいます。*4方法としては物理的方法であると精神的方法であるとを問いません。不作為による幇助も可能とされています。
精神的幇助と教唆のは、前者がすでに犯行を決意している者に対して助言、奨励等を行うことでその決意を強固にし、犯罪の実行を容易にするものであるのに対し、後者はいまだ犯罪の実行を決意していない者を唆して新たに犯行を決意させるものである点で異なります。
片面的幇助について、幇助の要件を満たすのであればこれを認めるのが判例・通説です。*5
②①に基づく実行行為
教唆のところで述べたように、構成要件に該当し、違法であることが必要です。
幇助犯では、これに加えて幇助「に基づく」といえるか、すなわち幇助行為と既遂結果との間の因果関係が必要であるかが論点となります。
【論証:幇助犯の因果関係】
法益侵害の惹起に処罰根拠があるのは幇助犯も正犯と同様であるから、幇助犯においても行為と結果との間に条件関係が必要であるとする見解もある。しかし、幇助行為によって正犯者に安心感等を与えて犯行を容易にしているのに既遂結果について一切責任を負わないとするのは一般の法感情に反するし、幇助犯の成立範囲が不当に狭まるおそれがある。
そこで、結果との間の因果関係は不要であり、実行行為との間に因果関係が認められれば足りるとする見解がある。しかし、結果との間に因果関係が存しないにもかかわらず幇助犯の成立を認めるのは責任主義に反するため妥当ではない。
そして、幇助犯の処罰根拠は正犯者の実行行為を容易にし、結果の実現を促進する点にある。そこで、幇助行為と結果との間に因果関係は必要ではあるが、因果関係の内容としては、条件関係までは必要ではなく、実行行為を強化し、結果の実現を促進していれば足りると解すべきである。*6
③故意
故意については教唆と同様です。