司法試験・予備試験実践論証

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【論証】刑法総論5共犯⑴共同正犯

 

 

 

共犯

 

共同正犯の各論点について検討する前提として、共犯の処罰根拠、及び共犯の従属性が問題となります。

 

共犯の処罰根拠については因果的共犯論を前提とする混合惹起説が有力です。因果的共犯論は様々な論点にも影響を及ぼすのでしっかり押さえておきましょう。

 

【論証:共犯の従属性】

 刑法の第一次的な任務が法益保護にあることから、共犯の処罰根拠は、正犯の行為を通じて法益侵害を間接的に惹起した点にあるとすべきである。そして、共犯の不法は正犯の不法及び共犯独自の不法からなる(混合惹起説)と解されるため、共犯が違法であるためには正犯が違法であることが必要である(もっとも、正犯が違法であれば共犯も常に違法とは限らない)が、非難可能性は行為者ごとに異なるから、責任については個別に判断すべきであり、正犯が有責であることまでは不要である。*1

 

共同正犯

 

共同正犯については様々な論点があります。まずここでは共謀共同正犯の成否、共同正犯の成立要件、共謀の射程、共同正犯における違法・責任の連帯、過失犯の共同正犯、結果的加重犯の共同正犯、予備罪の共同正犯、片面的共同正犯を取り上げます。

 

共謀共同正犯の成否

 

かつての通説は共謀共同正犯否定説をとっていましたが、判例上明示的に共謀共同正犯が肯定されたため*2、学説上も共謀共同正犯肯定説が支配的になりました。

 

現状では答案上で共謀共同正犯自体を否定することはほとんどあり得ないと考えられるため、共同正犯の成立要件該当性判断の前提として軽く触れればよいでしょう。

 

【論証:共謀共同正犯の成否】

 実行行為を行っていない者についても共同正犯の成立を認めることができるか。共謀共同正犯の成否が問題となる。

 ここで、実行行為を担当していない者が、実行に準ずる重要な役割を果たし、実行行為者とともに構成要件該当事実を共同惹起したといえるときには、このような者についても実行行為者と同様の非難が可能であるから、共謀共同正犯は肯定すべきである。*3

 

 

共同正犯の成立要件

 

共同正犯の正犯性の根拠を相互利用補充関係に求める見解もありますが、上記のように共犯の処罰根拠を因果的共犯論に求める今日の通説からは、共同正犯の正犯性の根拠として因果性を考慮する必要があります。

 

【論証:共同正犯の成立要件】

 共同正犯が「すべて正犯とする」とされ、各自に犯罪全部の責任を問える根拠は、各関与者の行為と結果との間に物理的・心理的因果関係が認められるとともに、各関与者が緊密に協力して「自分たちの犯罪」を実現したといえる点にある。したがって、共同正犯が成立するためには、かかる根拠が妥当する場合、すなわち、①共謀、②①に基づく一部または全部の者による実行行為が認められる場合であることが必要であると解する。*4

 

「共謀」とは、犯罪の共同遂行に関する合意をいい、意思連絡及び正犯意思から認定されます。*5

 

意思連絡としては、犯罪事実の確定的な認識までは不要であり、未必的な認識で足ります。また、判例は黙示の意思連絡で足りるとしています。*6

 

正犯意思は、動機の強さ等、主観的事情と役割の重要性等、客観的事情から認定します。

 

実行共同正犯と共謀共同正犯とで成立要件を書き分ける見解もありますが、両者は実行行為を行う者が全員か否かが異なるにすぎないため、成立要件を区別する実益はありません。答案上も統一してしまって構いません。

 

 

共謀の射程

 

共謀の射程とは、実行行為が共謀に「基づく」ものといえるか、すなわち共謀と実行行為との間に因果関係が認められるかの問題です。共謀の射程に関しては学説上も議論が固まっていないので、規範をしっかり書くことはあまり求められてはいないと考えられます。

 

本論証は一応の考え方を示すものです。あてはめの参考にしてください。

 

【論証:共謀の射程】

 甲の行為は乙との共謀に基づくものといえるか。共謀の射程内といえるかが問題となる。

 ここで、共謀の射程は、当初の共謀と実行行為との間に因果関係が認められるか否かの問題といえる。そこで、①当初の共謀と実行行為の内容との共通性、②当初の共謀と過剰結果を惹起した行為との関連性、③犯意の単一性、継続性、④動機・目的の共通性等の事情から総合的に判断すべきと解する。*7

 

 

共同正犯の違法・責任の連帯

 

共同正犯関係にある一方の者に違法性阻却事由、責任阻却事由が認められる場合、他方の者に違法性阻却、責任阻却の効果が生じるかが問題となります。上記の共犯の(要素)従属性が共同正犯にも妥当するかという問題です。

 

【論証:共同正犯の違法・責任の連帯】

 【論証:共犯の従属性】

 しかし、共同正犯における各人は対等な立場であり主従の関係にはなく、それぞれの正犯性を重視すべきであるから、共同正犯については制限従属性説は妥当しない。そして、客観的違法要素は各行為者に共通の要素であるから、客観的違法要素については統一的に判断すべきであるが、主観的違法要素は各行為者に固有の要素であるから、主観的違法要素については個別に判断すべきである。また、非難可能性は行為者ごとに異なるから、責任についても個別に判断すべきである。*8

 

 

過失犯の共同正犯

 

【論証:過失犯の共同正犯】

 過失犯の本質は無意識的部分にあるから、過失犯において共同実行の意思は想定できないこと、過失犯の共同正犯が問題となる場合では、過失の単独正犯として処理することが可能であることから、過失犯の共同正犯を否定する見解もある。

 しかし、過失の実行行為は結果回避義務違反の行為であるところ、この行為を共同して行う意思があれば共同実行の意思が認められるし、処罰の間隙を生じないようにするためにも、過失犯の共同正犯は認められるべきである。

 そして、過失犯の共同正犯は、共同の注意義務に共同して違反した場合に成立すると解する。*9

 

共同の注意義務とは、自己及び共同行為者の行為から結果が発生しないように注意し、互いに協力し合って結果を防止すべき義務をいいます。

 

共同して違反とは、共同の注意義務に違反する行為を意思の連絡の下に共同して行うことをいいます。

 

法的地位の異なる共同行為者間(医師と看護師など)では、一方が他方を監督する義務はあるとしても、互いに注意しあって結果を防止すべき共同の注意義務は認められないとされることが多いと考えられます。したがって、過失犯の共同正犯は不成立となります。*10

 

 

結果的加重犯の共同正犯

 

結果的加重犯については、重い結果について過失を要求するのが通説ですが、判例はこれを不要としており、また答案上も不要説の方が簡潔に記述できるので不要説を採用します。

 

【論証:結果的加重犯の共同正犯】

結果的加重犯の重い結果について過失が必要であるとする見解からは、結果的加重犯の共同正犯は過失犯の共同正犯が成立するか否かを前提とする問題となろう。

 しかし、結果的加重犯の基本行為には重い結果を生じさせる危険が内包されているといえるため、結果的加重犯が成立するためには、基本行為と重い結果との間に因果関係があれば足り、重い結果について過失は不要であると解する。

 そうだとすれば、重い結果との間の因果関係が肯定される限り、過失犯の共同正犯を論じるまでもなく、結果的加重犯の共同正犯が成立すると解される。*11

 

 

予備罪の共同正犯

 

【論証:予備罪の共同正犯】

 予備罪も可罰性を有する行為として構成要件化されたものであるから、予備行為を共同して行った場合も可罰的であると考えられ、60条にいう「実行」は予備罪という犯罪の構成要件に該当する行為の実行をも含むと解すべきである。

 したがって、予備罪の共同正犯は成立し得る。*12

 

【論証:他人予備の共同正犯】

 予備罪の成立には、既遂を目指す目的が必要である。そして、「目的」とは、後の犯罪を自ら行う目的をいう。そうだとすれば、他人の犯罪実行を助けるために予備行為を行うことには予備罪の単独犯は成立しない。

 では、予備罪の共同正犯が成立しないか。

 【論証:予備罪の共同正犯】

 そして、「目的」は一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係たる特殊の地位または状態たる身分であるところ、身分を有しない者に共同正犯が成立するか否かは身分犯と共同正犯の問題である。

 【論証:身分犯と共同正犯】

 したがって、目的を有しない者についても、予備罪の共同正犯は成立する。*13

 

身分犯と共同正犯については後の記事を参照してください。

 

目的や動機のような一時的な心理状態は身分に含まれないとする見解も有力ですが、行為者が主観的要素を有していることも「犯人の特殊の状態」に他ならないから、主観的要素を身分に含めることは可能であると解されます。*14

 

 

片面的共同正犯

 

犯罪を実行した複数の者のうち、一方の者には他方の者と共同して犯罪を行う意思があるが、他方の者にはその意思がない場合に共同正犯が成立するかが片面的共同正犯の成否の問題です。 

 

【論証:片面的共同正犯】

 客観的に相手方の行為を利用して結果を惹起した以上、共同正犯の成立を認めるべきとする見解もある。しかし、犯罪共同遂行の合意に基づいて実行行為が行われるところに共同正犯の本質があるから、共同犯行の意識が各自に存在しない限り、共同正犯の成立する余地はないと解すべきである。*15

 

 

 

 

 

 

*1:基本p.303~310

*2:最判昭和33年5月28日〈百選75〉

*3:基本p.325~329、前掲最判昭和33年5月28日

*4:基本p.322,324,329~332

*5:重大な寄与を共同正犯の成立要件として挙げる見解もありますが、本論証の2要件説であっても、重大な寄与は正犯意思の認定の際の考慮要素とするので実質的な違いはありません。基本p.330

*6:最決平成15年5月1日〈百選76〉

*7:基本p.373,374

*8:基本p.395,396

*9:基本p.334,335、東京地判平成4年1月23日〈百選80〉

*10:基本p.336、最決平成19年3月26日

*11:基本p.337、最判昭和26年3月27日〈百選79〉

*12:基本p.337,338、最決昭和37年11月8日〈百選81〉

*13:基本p.249

*14:基本p.352,353、最判昭和42年3月7日〈百選91〉

*15:基本p.338、大判大正11年2月25日