司法試験・予備試験実践論証

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【再現答案】令和元年司法試験刑法

途中答案です。設問3で、緊急避難説と誤想防衛説がある、というところまでしか正確な知識がなく、焦りました。難点についてはほとんど書けていません。

 

評価A 刑事系 136.36 113~131位

 

第1 設問1

1 電話口で、Aに対し、金融庁職員であると偽って、Aの住所及びA名義の預金口座の開設先を聞き出した行為は、住所や預金口座の開設先が財産上の利益といえないため、詐欺罪(刑法(以下、法名省略)246条2項)に該当せず、不可罰である。

2 Aに対し、金融庁職員であるように装って本件キャッシュカード等を手渡させた行為につき、詐欺罪(246条1項)が成立しないか。

 ⑴ 「欺」く行為とは、処分行為に向けられた、財物の交付の基礎となるべき重要な事実を偽る行為をいう。そして、処分行為とは、財物の占有を終局的に移転させる行為をいう。

  Aは甲に対し、本件キャッシュカード等を手渡して、本件キャッシュカード等を甲の事実上の支配領域内に移転させているから、本件キャッシュカード等を甲に手渡す行為は処分行為にあたり、かかる行為に向けられた甲の本件キャッシュカード等を手渡すよう指示する行為は「欺」く行為にあたるとも考えられる。

  しかし、占有の有無は占有の事実と占有の意思から判断されるところ、Aは自身の支配力がいまだ及ぶ範囲内といえるA方の玄関先で、甲に対し、一時的に本件キャッシュカード等を預けたにすぎず、印鑑を取って甲のところへ戻った後、ダミー封筒を受け取っていることからもわかるように、Aは印鑑で封印をしたのちには本件キャッシュカード等の返還を受ける意思を有していたのであるから、本件キャッシュカード等の占有を甲の下に終局的に移転させる意思はなく、Aにはなお本件キャッシュカード等についての占有の事実及び占有の意思が認められるといえる。すなわち、Aは本件キャッシュカード等に係る占有を弛緩させたに過ぎないというべきである。

  したがって、甲に本件キャッシュカード等を手渡す行為は財物の占有を終局的に移転させる行為ではないため処分行為にあたらず、これに向けられた甲の上記指示行為は「欺」く行為にあたらない。

 ⑵ よって、詐欺罪は成立しない。

3 では、Aから受け取った本件キャッシュカード等をダミー封筒とすり替え、ショルダーバッグに隠し入れてそのまま持ち去った行為につき、窃盗罪(235条)が成立しないか。

 ⑴ 本件キャッシュカード等はAのキャッシュカードとその暗証番号を記載したメモであるところ、キャッシュカードと暗証番号があれば即座に預金を引き出すことができるから、本件キャッシュカード等は財産的価値を有する物といえ、「他人の財物」にあたる。

 ⑵ 「窃取」とは、他人の占有する財物をその意思に反して自己又は第三者の占有の下へ移転させる行為をいう。

  上記のように、Aは本件キャッシュカード等の占有を弛緩させたにとどまるから、甲に本件キャッシュカード等を手渡した時点においても、本件キャッシュカード等の占有はAにあるといえる。そして、甲はAが印鑑を取りに家の中へ戻ったすきに本件キャッシュカード等が入った封筒とダミー封筒をすり替え、本件キャッシュカード等が入った封筒を自ら持参したショルダーバッグの中に隠し入れている。本件キャッシュカード等が入った封筒はそれほど大きなものではなく、ショルダーバッグの中に完全に隠されてしまうものであるから、甲が本件キャッシュカード等の入った封筒をショルダーバッグの中に隠し入れた時点で、本件キャッシュカード等の占有は甲の下へ移転したといえる。そして、Aは上記のように本件キャッシュカード等の返還を受ける意思を有していたのであるから、かかる占有の移転はAの意思に反するものである。

  したがって、甲が本件キャッシュカード等の入った封筒をショルダーバッグの中に隠し入れた行為は「窃取」にあたる。

 ⑶ また、甲は上記の事実を認識、認容しているから、故意(38条1項本文)もある。そして、窃盗罪の成立には使用窃盗、毀棄隠匿罪との区別の必要性から権利者を排除し、その物の経済的用法に従って利用処分する意思たる不法領得の意思が必要であると解されるが、甲は本件キャッシュカード等を用いてAの預金を引き出そうとしているから、不法領得の意思も認められる。

 ⑷ したがって、窃盗罪が成立する。

4 以上より、甲にはAに対しては窃盗罪一罪が成立する。

5 なお、甲がATMから現金を引き出そうとした行為については、ATM内の現金はB銀行の占有が認められるため、B銀行に対する窃盗罪の成否が問題とはなり得るも、Aに対する関係では、犯罪は成立しない。

第2 設問2

1 ①について

 ⑴ 乙には事後強盗罪の共同正犯(60条、238条)が成立する。

 ⑵ア 共同正犯に一部実行全部責任を問える根拠は、各自が結果に因果的に寄与し、「自分たちの犯罪」を完成させているといえる点にある。したがって、共同正犯が成立するためには、共謀及びそれに基づく実行行為が必要であると解する。

  甲の友人である乙は、甲がCともめているのを見て、甲が万引きをした者と勘違いし、「またやったのか。」と尋ねている。これに対し、甲は乙の勘違いに気づきながらも、Cから逃れるために乙にうなずき返し、「こいつを何とかしてくれ。」といっている。これを受けて乙は甲をCによる逮捕から逃れさせるため、Cに向かってナイフを示しながら口述のように脅迫を行っているから、事後強盗行為を行う意思連絡が認められる。そして、乙は友人甲のために、主体的にナイフでの脅迫という重要な役割を行っているから、正犯意思も認められる。したがって、現場において甲乙間には事後強盗行為を行う共謀が成立したといえる。

  そして、事後強盗罪における「脅迫」とは、相手が手の犯行を抑圧するに足りる程度の害悪の告知をいうところ、乙は刃体の長さ10cmと大型で殺傷能力の高いナイフを示して「離せ。ぶっ殺すぞ。」と強い言葉で脅しをかけているのであるから、甲乙が25歳と若い盛りの二人組で20歳と年下のCに対し脅していることをも考慮すれば、かかる行為は相手方の反抗を抑圧するに十分足りる行為といえ、「脅迫」にあたるといえる。したがって、共謀に基づく実行行為があるといえる。

 イ また、乙は脅迫を行うことを認識・認容している。そして、同罪の「窃盗」には窃盗未遂も含まれるため、甲は「窃盗」といえる。もっとも、乙は甲がATMから現金を引き出そうとしたことは認識しておらず、甲が万引きをしたと認識している。ここで、故意の本質が規範に直面しながらあえて行為に及んだことに対する強い道義的非難にあり、規範が構成要件の形で与えられることにかんがみ、主観と客観が構成要件レベルで一致する場合には、故意は阻却されないと解する。したがって、上記のように乙も甲が「窃盗」であると認識している以上は故意に欠けるところはない。

 ウ もっとも、乙は甲の窃盗には関与しておらず、脅迫の段階に至って初めて甲と共謀している。したがって、乙は「窃盗」とはいえない。

  ここで、「窃盗」であることは一定の犯罪に関する犯人の人的状態としての特殊の地位であるから、身分といえる。そして、65条の文言から、同条1項は真正身分犯の成立と科刑を、同条2項は不真正身分犯の成立と科刑を定めていると解される。

  事後強盗罪は財産犯であり、身体犯である暴行・脅迫罪の課長類型とみることには無理があるから、「窃盗」であることは真正身分であると解すべきである。

  そして、非身分者も身分のあるものの行為を通じて法益侵害を惹起することは可能であるから、65条1項の「共犯」には共同正犯も含むと解する。

 ⑶ したがって、乙には65条1項から、事後強盗罪の共同正犯が成立する。

2 ②について

 ⑴ 乙には脅迫罪の限度で共同正犯(60条、222条)が成立する。

 ⑵ 甲乙間に脅迫の時点から共同正犯関係が成立し得ることは①の通りであるが、事後強盗罪は窃盗行為と暴行・脅迫行為が結合した結合犯であると解すべきである。

  そうだとすれば、脅迫の時点から共謀を形成し、犯行に関与した乙に先行者甲の行為まで帰責され、事後強盗罪の共同正犯が成立するかは承継的共同正犯が成立されるかの問題となる。

  ここで、共同正犯に一部実行・全部責任が問えるのは上記のような根拠によるところ、後行者が関与する前の先行者の行為等については、後行者は因果的に寄与し得ないから、承継的共同正犯は成立しないのが原則である。もっとも、先行者の行為等の効果が後行者の関与後にも残存し、後行者が先行者の行為等を自己の行為に取り込み利用するとともに、自己の行為寄与によって先行者の犯罪を完成させたといえる場合には、後行者も結果に因果的に寄与しているといえるから、例外的に承継的共同正犯が成立すると解する。

  甲の行った窃盗未遂の効果は、乙が関与した時点まで残存しているとはいえない。また、事後強盗罪における窃盗と暴行・脅迫は窃盗行為を利用して暴行・脅迫が行われるというものではなく、両者が単に時間的場所的に接着して行われるにすぎないから、乙は甲の事後強盗罪を、甲の行為を取り込み利用するとともに自己の行為寄与によって完成させたとはいえず、乙は事後強盗罪の結果に因果的に寄与したとはいえない。

  したがって、承継的共同正犯は成立しない。

 ⑶ そうだとすると、乙は単に脅迫罪にあたる行為を行ったことになる。このとき、甲には事後強盗罪が成立し得るため、乙はいかなる罪責を負うかが問題となる。

  ここで、罪刑法定主義の立場からは構成要件論を重視すべきであり、共同正犯は特定の構成要件に該当する「犯罪」を共同する必要があると解する。したがって、共同正犯関係にある各人に成立する犯罪が異なる場合には原則として共同正犯は成立しないが、保護法益及び行為態様の点で構成要件に重なり合いが認められる場合には、当該重なり合いの限度で共同正犯が成立すると解する。

  事後強盗罪と脅迫罪は、身体ないし意思決定の自由という法益を保護する趣旨を含む点で共通し、害悪の告知行為を含む点で行為態様も共通するから、脅迫罪の限度で重なり合いが認められるといえる。

 ⑷ したがって、乙には脅迫罪の限度で共同正犯が成立する。

3 私見

⑴ ②のように事後強盗罪を結合犯であると解してしまうと、事後強盗罪を行う意思をもって窃盗に着手した時点で事後強盗未遂罪(243条、238条)が成立してしまう。これはあまりに未遂犯の成立時期が早すぎ、過剰な処罰を招くことになるから妥当でない。

  そして、「窃盗」は一定の犯罪に関する犯人の人的状態である特殊の地位といえるため、事後強盗罪を身分犯であると捉えることは適当である。そして、①で論じたように「窃盗」は真正身分であると解すべきである。したがって、①のように解すべきである。

 ⑵ よって、乙には事後強盗罪の共同正犯が成立する。

第3 設問3

1⑴ 丙の有形力行使によりDに加療3週間の頭部裂傷という生理機能障害が生じているから、丙の行為が傷害罪(204条)の構成要件に該当することは明らかである。

  しかし、丙の行為には緊急避難(37条1項)が成立するため、違法性が阻却され、丙は刑事責任を負わないという説明が考えられる。

  すなわち、Dは何ら不正の侵害をなしている者ではないから、「急迫不正の侵害」は認められず、正当防衛(36条1項)は成立しない。しかし、甲はDに対し、ナイフを胸元に突き付けているところ、かかる行為は、Dが畏怖しなかったとしても、一般に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の人の身体に対する不法な有形力の行使といえるから、強盗罪(236条1項)の「暴行」にあたるものであり、Dに対する「現在の危難」があるといえる。

緊急避難により違法性が阻却される根拠は、現在の危難という緊急状況で公権力による救済を求めることができないときに、例外的に私人による対抗行為に社会的相当性が認められることにあるところ、かかる社会的相当性には行為者の主観が大きな影響を与えるから、避難の意思が必要であると解する。もっとも、避難行為は反射的本能的に行われることも多いから、その内容としては現在の危難を意識しつつこれを避けようとする単純な心理状態があれば足りると解する。丙はDへの暴行をやめさせるためにボトルワイン投げつけ行為を行っているから、現在の危難を意識しつつこれを避けようとする単純な心理状態があるといえ、避難の意思が認められる。

ボトルワイン投げつけ行為は丙が採りうる唯一の行為であったのであるから、補充性を満たし、「やむを得ずにした行為」といえる。

そして、丙はDの身体に対する危難を避けるため、Dの身体を害しているから、法益権衡も満たす。

したがって、緊急避難が成立し、丙はDの傷害結果について刑事責任を負わない。

 ⑵ かかる説明には、甲の行為は「暴行」にあたり、不法なものであることは明らかであるにもかかわらず、これをDとの関係では不法なものでないと考えるところに難点がある。

2⑴ 次に、丙の行為につき、誤想防衛が成立するため、責任故意が阻却され、丙はDの傷害結果につき刑事責任を負わないという説明が考えられる。

  まず、上記のように甲の行為は「暴行」にあたるから、Dに対する「急迫不正の侵害」が存在する。そして、上記と同様に、丙には急迫不正の侵害を意識しつつこれを避けようとする単純な心理状態が認められるから、防衛の意思も認められる。そして、ボトルワイン投げつけ行為は丙の採りうる唯一の手段であったのであるから、「やむを得ずにした行為」といえる。もっとも、丙の行為の結果が侵害者である甲ではなく、Dに生じているから、正当防衛は成立しない。

もっとも、違法性阻却事由の存在を誤認していた場合には、規範に直面していないといえるため、責任故意が阻却されると解する。

  丙は自らの行為の結果が甲に生じることを認識していたのであるから、正当防衛にあたる行為であると認識してボトルワイン投げつけ行為を行っているといえる。したがって、丙は違法性阻却事由の存在を誤認していたといえるから、責任故意が阻却され、丙はDの傷害結果について刑事責任を負わない。

 ⑵ かかる説明に対しては、丙の行為が違法なものと評価されてしまうため、丙に対してDが対抗してきた場合に(途中答案)