司法試験・予備試験実践論証

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【論証】刑訴2公訴⑵訴因変更

訴因変更にかかわる諸論点について検討します。訴因変更の要否、縮小認定、訴因変更の可否、訴因変更命令について検討していきます。

 

 

訴因変更の要否

 

裁判所の心証が訴因と食い違っている場合、裁判所はそのまま心証通りの事実を認定してよいのか、あるいは訴因変更手続を経なければ当該事実を認定することはできないのか、というのが訴因変更の要否といわれる論点です。

 

この論点については、平成13年に極めて重要な決定が出ており、受験生はほとんどがこの判例をもとに書いてくると思われるので、論証も判例に(基本的に)則って作成しました。

 

【論証:訴因変更の要否】

 審判対象検察官の主張する具体的事実たる訴因であるところ、事実の食い違いがあれば訴因変更が必要となる。もっとも、些細な食い違いであっても訴因変更が必要としては煩瑣であり、実際的でない。

 そこで、事実に重要なあるいは実質的な食い違いが生じた場合に訴因変更が必要であると解する。

 具体的には、訴因の機能が審判対象を画定するとともに被告人の防御範囲を限定する点にあること、訴訟手続においては争点明確化による不意打ち防止が要請されることから、①審判対象の画定に必要な事実に食い違いがある場合には訴因変更が必要となるが、②かかる事実の食い違いでなくても、一般的に、被告人の防御にとって重要な事実に食い違いがある場合にも訴因変更が原則として必要となる。ただし、具体的審理状況等に照らし、被告人に不意打ちを与えるものでないと認められる場合には、例外的に訴因変更が不要となると解する。*1

 

第一段階の審査(①)は、審判対象の画定の見地から要請されるものです。第二段階の審査(②)は、争点明確化による不意打ち防止の要請によるものです。

 

不意打ち防止の要請は訴訟の全過程を通じて要請されるもので、訴因の機能とは関係がない(識別説)のですから、不意打ち防止のためだけならば、論理的には必ずしも訴因変更手続によらなければならないというわけではありません。*2しかし、上記平成13年決定は、一般的に被告人の防御にとって重要な事項が訴因に明示されたときには、「同等の手続」である訴因の変更手続によって不意打ちを防止すべきとする厳格な態度を取ったと考えられます。*3

 

第一段階の審査で訴因変更が必要とされる事項について訴因変更を経ずに認定した場合、訴因逸脱認定(不告不理の原則違反(378条3号))として、絶対的控訴理由となりますが、第二段階の審査で訴因変更が必要とされるに過ぎない事項について訴因変更を経ずに認定した場合は、訴訟手続の法令違反(379条)として、相対的控訴理由となるにとどまります。*4

 

13年決定では、第二段階の審査の例外に当たるためには、不意打ちにならないだけではなく、不利益でない場合であることも必要であるとしています(もちろん答案では判例通りに書いても問題はありません)が、不意打ちを与えるものではないにもかかわらず、不利益というだけで訴因変更手続が必要だとすることには批判があります。*5論証でも不利益性の要件は除外しました。

 

具体的な解決としては、実行行為者については訴因変更不要*6、放火の方法については②の観点から必要*7、窃盗の幇助の訴因について共同正犯を認定する場合には必要*8とされます。

過失犯の場合には、a注意義務を課す根拠となる具体的事実、b注意義務の内容、c注意義務に違反する具体的行為のうち、cは過失犯の構成要件ですから、通説はcについて変動があった場合には第一段階の審査の観点から訴因変更が必要であるとしています。*9bに変動があった場合には、当然cも変動しますから、bに変動があった場合にも上記と同様に訴因変更が必要とされます。*10aについて変動があった場合、第二段階の観点から訴因変更が必要となると考えられます。*11

 

 

縮小認定

 

縮小認定は訴因変更の要否の一場面であるとする理解もありますが、上記のように、訴因変更の要否は訴因事実と裁判所の心証に食い違いがある場面であるところ、縮小認定というのは後述のように訴因事実と心証の間に食い違いがない場合なので、ここでは訴因変更の要否以前の問題と捉えます。

 

【論証:縮小認定】

 訴因では共謀共同正犯が主張されているにもかかわらず、裁判所は幇助の事実を認定している。訴因と裁判所の認定が食い違っているように見えるため、訴因変更手続が必要になるのではないか。

 ここで、審判対象は検察官の主張する具体的事実たる訴因であるところ、事実の食い違いがあれば訴因変更の要否が問題となる。

 本件では、上記のような認定がなされているが、事実の食い違いが認められるか。

 たしかに、共謀の事実も幇助の事実も訴因の特定にとって不可欠であり、両者の食い違いは構成要件を異にするものであるから、事実に実質的な食い違いがあり、訴因変更を要するとも考えられる。

 しかし、共謀事実と幇助事実は包摂関係にある(縮小認定)ため、検察官が共謀事実を訴因に明示して主張した場合には、当初から幇助事実についても黙示的・予備的に主張されていたものと考えることができ、定型的に被告人の防御に不利益を与えることがないといえる。そうだとすれば、縮小認定の場合にはそもそも訴因と裁判所の認定に食い違いがあるとはいえない。

 したがって、縮小認定においては訴因変更の要否は問題とならない。

 もっとも、訴訟手続においては争点明確化により不意打ちを防止することが要請されるため、訴因変更手続を経る必要はないとしても、裁判所は具体的審理状況に照らし、必要に応じ争点顕在化措置をとるべきである。*12

 

具体的には、酒酔い運転の訴因に対し酒気帯び運転を認定する場合*13、殺人の共同正犯の訴因に対し殺人幇助の事実を認定する場合*14、強盗の訴因に対し恐喝を認定する場合などは縮小認定として許され得ます。

 

 

訴因変更の可否

 

検察官が訴因変更請求をしてきたとき、裁判所は「公訴事実の同一性」が認められる場合にはこれを認めなければなりません(312条1項)。したがって、訴因変更の可否は「公訴事実の同一性」という概念によって隠されるわけです。そこで、この「公訴事実の同一性」をいかに解釈するかが問題となります。

 

「公訴事実が単一かつ同一」である場合に「公訴事実の同一性」が認められる、とする見解もありますが、*15通説・実務においては、「公訴事実が単一または同一」の場合に「公訴事実の同一性」が認められると理解されています。*16

 

通説・実務である後者の見解によれば、「公訴事実の同一性」が問題となる場面は二通りあると考えられます。一つ目は、新旧訴因が、被告人に対する刑事責任追及事由の内訳として事実上ないし法律上両立しないものとして主張されている場合、すなわち、検察官が旧訴因にかわるものとして、これと両立しないものとして新訴因を設定する場合です。このときには、「狭義の同一性」が問題となります(このとき「単一性」については論じる必要はありません)。もう一つは、被告人に対する刑事責任追及事由の内訳として事実上も法律上も両立するものとして主張されている場合、すなわち、検察官が旧訴因と両立する新訴因を設定する場合です。たとえば、旧訴因に新たな犯罪事実を追加して新訴因とする場合などです。このときは、「単一性」が問題となります(上記と同様、このときには「狭義の同一性」を論じる必要はありません)。*17

 

ここでは、後者の立場の中でもリークエ説を採用しましたが、公訴事実の単一性が問題になる場面として、「両訴因に記載されている罪となるべき事実が実体法上一罪と扱われる関係にある場合」、狭義の同一性が問題になる場面として、「両訴因の事実の記載を比較したとき、両者が、1回の手続においてどちらか一方で一度だけ処罰すれば足りるかという観点から、両立し得ない択一関係にある場合」とする見解もあります。*18

 

【論証:訴因変更の可否】

 検察官Pのなした訴因変更請求は認められるか。訴因変更は「公訴事実の同一性」(312条1項)の範囲内で許されるところ、新旧両訴因に「公訴事実の同一性」が認められるかが問題となる。

 ここで、当事者主義から、審判対象は検察官の主張する訴因と解されるところ、訴因変更が「公訴事実の同一性」が認められる場合に限定される趣旨は被告人に対する刑事責任の渉猟的追求の禁止にある。そこで、訴因変更は被告人に対する刑事責任の追及原因としての同一性が認められる訴因間においてのみ許されると解する。

 

「狭義の同一性」が問題となる場合

 そして、新旧訴因が、被告人に対する刑事責任追及事由の内訳として事実上ないし法律上両立しないものとして主張されている場合には、狭義の同一性が認められるかが問題となる。このとき、両訴因の基本的事実関係が同一であれば、被告人に対する刑事責任の追及原因として、そのいずれか一方しか存在または成立し得ないといえ、狭義の同一性が肯定されるため、「公訴事実の同一性」が認められると解する。

 

「単一性」が問題となる場合

 そして、被告人に対する刑事責任追及事由の内訳として事実上も法律上も両立するものとして主張されている場合には、別個の刑事責任を追及することになるから訴因変更は原則として許されない。もっとも、両訴因間に実体法上一罪(注:罪数論)の関係が認められるならば、実体法上一つの刑事責任の発生原因とされているのであるから、両訴因間には公訴事実の単一性が存在し、「公訴事実の同一性」が認められると解する。*19

 

いかなる事実に基づいて訴因変更の可否の判断を行うべきかについては、審判対象論における訴因対象説からは、専ら新旧訴因事実の比較により判断すべきとする見解が多数説です。

もっとも、訴因変更の時点における裁判所の心証に基づいて暫定的に認定された新旧訴因間の関係に関する事実も考慮に入れざるを得ない場合もあるとする見解もあります。*20

 

判例は、狭義の同一性が認められるか否かを、共通性(とりわけ法益侵害結果の)を一次的基準として判断し、それだけでは基本的事実関係の同一性(=刑事責任の追及原因として非両立か)の判断が困難である場合、非両立性を考慮するという方法で判断しているようです。*21

 

 

訴因変更命令

 

訴因変更命令については、裁判所には訴因変更命令を出す義務があるか、裁判所が訴因変更命令を出した場合に当該命令に形成効が認められるか(検察官の訴因変更請求を経ずに自動的に訴因が変更されるか)が問題となります。

 

【論証:訴因変更命令義務】

 検察官が釈明に応じることなく当初の訴因に固執した場合、裁判所は被告人に無罪を言い渡さざるを得ないことになる。そこで、裁判所は、公訴対象事件に関する裁判所と検察官の判断の不一致から生じうる不当な無罪判決を回避するために訴因変更を命じることができる(312条2項)。

 では、裁判所は訴因変更命令を行う義務があるか。

 当事者主義(256条6項、312条1項、318条1項)のもとでは、訴因の設定・変更は検察官の専権とされており、訴因変更命令はあくまで例外的措置である。また、その積極的な行使は裁判所の公平性を害しかねない。他方で、裁判所が検察官の判断との間に不一致があることに気づきながら無罪判決を下すことは、審理不尽の違法に当たり得る。

 そこで、裁判所は原則として訴因変更命令義務を負うことはないが、訴因変更をすれば有罪となることが証拠上明らかであり、その罪が相当重大なものであるような場合には、特段の事情がない限り、訴因変更命令義務を負うと解すべきである。*22

 

特段の事情としては、検察官が8年半に及ぶ審理過程を通じて一貫して当初の主張を維持し、変更する意思はない旨明確かつ断定的な釈明を行ったこと、被告人の防御活動もその主張を前提としてなされたこと、他の共犯者は不起訴とされており、有罪とすれば著しい不均衡が生じることなどの諸事情の下では上記2要件は満たしていても、釈明義務はないとした判例があります。*23

 

 

訴因変更命令の形成力に関しては、これを認める見解もありますが、法が当事者主義的訴訟構造を採用していることから、形成効までは認めず、検察官に訴因の変更を義務付ける命令効が認められるにとどまるとするのが通説です。*24判例も「検察官が裁判所の訴因変更命令に従わないのに、裁判所の訴因変更命令により訴因が変更されたものとすることは、裁判所に直接訴因を動かす権限を認めることになり、かくては、訴因の変更を検察官の権限としている刑訴法の基本的構造に反するから、訴因変更命令に…(そ)のような効力を認めることは到底できない」としています。*25

これに対し、罰条変更命令については、法令の適用は裁判所の職責であることから、形成効を認める見解が有力です。*26

 

*1:最決平成13年4月11日〈百選45〉、古江p.205~210、大澤裕「訴因の機能と訴因変更の要否」法教256号(2002年)p.28

*2:池田修・最判解刑事篇平成13年度p.79

*3:前掲大澤p.32

*4:定石p.159~161

*5:宇藤崇「判例セレクト2012Ⅱ」法教390号特別付録(2013年)p.38、古江p.218

*6:前掲最決平成13年4月11日

*7:最決平成24年月29日

*8:定石p.157

*9:古江p.210,211、平良木登規男『刑事訴訟法Ⅱ』(成文堂、2010年)p.49、ただし、リークエp.258はいずれの観点か明らかでないとする

*10:定石p.158

*11:定石p.159

*12:最判昭和26年6月15日、最決昭和55年3月4日〈百選A19〉、福岡高判平成20年4月22日、古江p.214~216、酒巻匡「公訴の提起・追行と訴因⑶」法教300号(2005年)p.129

*13:前掲最決昭和55年3月4日

*14:前掲福岡高判平成20年4月22日、ただし、この事案においては黙示の幇助について当事者の攻防がなされていなかったため、不意打ちになるとして争点顕在化措置を採らずに認定したことが訴訟手続の法令違反とされています

*15:田口守一『刑事訴訟法[第6版]』(弘文堂、2012)p.328

*16:田宮裕『刑事訴訟法[新版]』(有斐閣、1996)p.204、酒巻匡「審理・判決の対象⑶」法学教室378号(2012)p.65、リークエp.224、本吉邦夫「公訴事実の同一性について」大東ロージャーナル第3号(2007)p.3、百選46中谷解説

*17:リークエp.241,242

*18:前掲酒巻p.65

*19:リークエp.238~245

*20:リークエp.249

*21:最決昭和53年3月6日〈百選46①〉、最決昭和63年10月25日〈百選46②〉、リークエp.245

*22:最決昭和43年11月26日、最判昭和58年9月6日〈百選47〉、リークエp.260,261

*23:前掲最判昭和58年9月6日

*24:リークエp.262

*25:最判昭和40年4月28日〈百選A23〉

*26:リークエp.262