司法試験・予備試験実践論証

予備試験合格・司法試験総合42位合格者作成の論証集。予備校講座の一歩先へ。

【論証】刑法総論5共犯⑶共犯の諸問題

共犯における問題として、身分が必要とされる犯罪について身分のない者が関与した場合(身分犯と共犯)、共犯者間に認識の齟齬がある場合(共犯と錯誤)、実行行為の一部にのみ関与した者の罪責(承継的共犯)、共犯関係が解消される場合(共犯関係の解消)といったものがあります。

 

 

身分犯と共犯

 

 

身分犯

 

【論証:身分(目的)】

「身分」とは、一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位または状態をいう。そして、目的や動機のような一時的な心理状態は身分に含まれないとする見解もあるが、行為者が主観的要素を有していることも、「犯人の特殊の状態」に他ならないから、主観的要素も身分に含まれると解するべきである。*1

 

 

犯罪の成立に身分がかかわってくる犯罪を身分犯といいます。身分犯は、真正身分犯(構成的身分犯)と不真正身分犯(加減的身分犯)に分けられます。そして、真正身分犯における身分を構成的身分、不真正身分犯における身分を加減的身分といいます。

 

【論証:真正身分犯と不真正身分犯】

 真正身分犯とは、身分があることによってはじめて可罰性が認められる犯罪をいい、不真正身分犯とは、身分がなくても犯罪を構成するが、身分があることによって法定刑が加重・軽減される犯罪をいう。*2

 

この論証を答案上展開することはほとんどありません。せいぜい~罪は~という犯罪であるから(不)真正身分犯である、と認定する程度で足りることが多いと思います。

 

身分犯と共犯

 

身分犯に複数人がかかわった場合、身分を有しない者にいかなる犯罪が成立するかが身分犯と共犯の問題です。この問題については65条1項に「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」、2項に「身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。」という規定があるので、この規定をいかに解釈するかが問題となります。

 

【論証:身分犯と共犯】

 65条について、1項は身分犯における共犯の成立を、2項は特に不真正身分犯について科刑の個別的作用を定めたものであるとする見解や、1項は違法身分の連帯的作用を、2項は責任身分の個別的作用を定めたものであるとする見解がある。しかし、第1説のように罪名と科刑を分離させるのは妥当でないし、第2説のように解することは文言上無理がある。

 したがって、条文の文言から、1項は真正身分犯の成立と科刑を、2項は不真正身分犯の成立と科刑をそれぞれ定めているものと解するべきである。*3

 

 

真正身分犯と共同正犯

 

共同正犯において65条1項が適用される場合には、そもそも1項の「共犯」には共同正犯も含まれるのかが問題となります。

 

【論証:65条1項と共同正犯】

 そして、非身分者であっても身分者の行為に加功することにより身分犯を実現することができるのであるから、真正身分犯に関与した非身分者の行為を実行行為と評価し得る場合はあり得る。したがって、1項にいう「共犯」には狭義の共犯とともに共同正犯も含まれると解すべきである。*4

 

 

複合的身分犯

 

65条の適用において、判例が上記の準則を修正している場合として複合的身分犯の場合があげられます。特に問題となることが多いのは業務上横領罪です。

 

【論証:複合的身分犯】

 業務上横領罪は、「業務者」という加減的身分と、「占有者」という構成的身分を併せ持っている。そして、判例は業務上横領罪につき、罪名としては1項により業務上横領罪が成立し、2項により単純横領罪の刑が科せられるとしている。しかし、特に業務上横領罪についてのみ上記のような処理を変更する必然性はないから、非占有者かつ非業務者である者には1項、2項の適用により単純横領罪の共同正犯が成立すると解すべきである。*5

 

 

共犯の錯誤

 

同一共犯形式内の錯誤

 

共犯者間で被害者についての認識が異なっているなど、同一共犯形式内で認識の齟齬がある場合、どのような犯罪が成立するかが問題となります。

 

具体的事実の錯誤

 

具体的事実の錯誤については単独犯の場合と同様に故意の問題しか生じず、法定的符合説から処理できます。

 

抽象的事実の錯誤

 

錯誤が異なる構成要件にまたがっている場合には、故意(ないし軽い構成要件該当性)については単独犯の場合と同様に抽象的事実の錯誤で処理できます。しかし、特に共同正犯の場合には共同正犯者間で成立する犯罪が異なってくるため、異なる犯罪間での共同正犯が認められるのかが問題となります。

 

【論証:異なる構成要件間での共同正犯の成立可能性】

 異なる構成要件間の共同正犯を認めるべきか。共同正犯では何を「共同」すべきかが問題となる。

 ここで、特定の行為を共同していれば足りるとする見解もある。かかる見解からはXには殺人罪の共同正犯、Yには傷害致死罪の共同正犯が成立することになろう。しかし、共同正犯が正犯とされ、犯罪全部の責任を負うのは、1個の犯罪に関する犯意を共同した限りにおいてであると解されるから、共同正犯の成立には特定の犯罪を共同することが必要と解すべきである。

 したがって、各行為者が異なる構成要件間にまたがって犯罪を実行した場合には原則として共同正犯は成立しない。もっとも、構成要件に重なり合いが認められる場合には、重なり合いの限度で軽い罪の共同正犯の成立を認めるべきである。

 そして、構成要件は法益侵害行為の類型であるから、構成要件の主要な要素は「行為」と「結果」である。したがって、行為態様が共通であり、かつ保護法益も共通である場合には、両構成要件は基本的部分を共通にし、実質的に重なり合っていると解する。*6

 

具体的には、この論点は「共謀」が認められるのかというところで論じるべきです。行為共同説からは特定の行為を共同することについての共同遂行の合意で足りますが、(部分的)犯罪共同説からは軽い罪の限度で共同遂行の合意が認めらることが必要となります。*7

 

この後に故意についても論じる必要がありますが、抽象的事実の錯誤で論じるべきことは実質的には部分的犯罪共同説と重なるので、あっさりで構いません。

 

 

異なる関与形式間での錯誤

共犯形式相互間

 

共犯形式(共同正犯、教唆犯、幇助犯)間での錯誤については、抽象的事実の錯誤で処理できます。

 

各共犯形式は、正犯行為を通じて間接的に法益侵害・危険を惹起する点で共通しており、これらの構成要件は共同正犯>教唆犯>幇助犯の順で重なり合っています。*8

 

 

間接正犯と共犯との間の錯誤

 

道具として利用された被利用者が途中で情を知った場合、いかなる犯罪が成立するかが問題となります。

 

【論証:道具の知情】

 まず、間接正犯の実行の着手が認められるかが問題となる。

 【論証:間接正犯の実行の着手】

 

着手ある場合

 したがって、少なくとも間接正犯の未遂は成立する。問題となるのは、間接正犯の実行の着手後に被利用者が事情を知った場合でも間接正犯が既遂となるか否かである。

 ここで、かかる場合であっても間接正犯の既遂が成立するとする見解もあるが、間接正犯の正犯性の根拠は被利用者に対する一方的な支配利用関係にあるところ、被利用者が知情した以上、このような者はもはや道具とはいえなくなったのであるから、間接正犯の既遂は成立しないと解すべきである。

 そして、被利用者は知情しながらも犯行を行っているのであるから、外形的には既遂罪の教唆犯が実現されているといえる。

【論証:抽象的事実の錯誤 第2類型】

 間接正犯と教唆犯はいずれも他人を介して結果を実現する点では共通しており、構成要件の実質的な重なり合いが認められる。

したがって、既遂罪の教唆犯の故意も認められ、既遂罪の教唆犯が成立する。

 そして、間接正犯の未遂と既遂罪の教唆犯は法条競合関係にあると解されるから、既遂罪の教唆犯のみが成立する。

 

着手ない場合

 したがって、間接正犯の未遂も成立しない。そして、間接正犯の故意で教唆の事実が生じているといえる。ここで、軽い教唆犯の故意が認められるかが問題となる。

【論証:抽象的事実の錯誤 第2類型】

 間接正犯と教唆犯はいずれも他人を介して結果を実現する点では共通しており、構成要件の実質的な重なり合いが認められる。

 したがって、軽い教唆犯の限度で故意が認められる。*9

 

 

承継的共犯

 

 【論証:承継的共犯】

 甲の実現した強盗殺人における金品奪取のみに関与した乙に強盗殺人罪の共同正犯が成立しないか。

 【論証:共同正犯の要件】

乙は金品奪取の段階になって初めて犯罪に関与しているが、共謀、共謀に基づく実行行為が認められるか。

 ここで、後行者である乙の関与前の先行者甲の行為や結果について、乙の行為は因果関係を持たないから、かかる場合には共同正犯は一切成立しないとする見解もある。

しかし、後行者も犯罪の完成に関与しているにもかかわらず、このような者を当該犯罪で処罰できないとするのは妥当ではない。そこで、後行者が先行者の行為及び結果を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用した場合には、共同正犯が成立するとすることが考えられる。しかし、上記のように共同正犯の成立には因果的寄与も不可欠であるところ、因果性の欠如を積極的利用関係のみで埋め合わせるのは困難というべきであるため、かく解することはできない。

 もっとも、共同正犯の成立のためには、構成要件該当事実すべてについてではなく、結果についての因果性が認められれば足りるところ、先行者の行為が後行者の関与後も効果を持ち続けており、自らの行為寄与により先行者の犯罪を完成させたといえる場合には、後行者の行為と結果との間に因果関係が存在するといえる。そして、後行者が先行者の行為の効果を認識しつつ、これを利用して結果を実現する意思を先行者と通じた上で残りの行為を行った場合には、このような意思を先行者と通じることをその罪の共謀ということができる。また、この共謀に基づいて後行者が実行行為を行なっているといえる。したがって、このような場合には共同正犯が成立すると解する。

 甲の暴行によるXの犯行抑圧状態は存続しており、乙の金品奪取行為は「強取」といえるから、乙は甲の行為に関与して共同して結果を実現しており、結果に因果的に寄与したといえる。また、乙は甲の行為を利用する意思を甲と通じて金品奪取を行っているから、共謀及び共謀に基づく実行行為が認められ、強盗罪の共同正犯が成立する。

 もっとも、殺人結果については乙の行為との因果関係が認められないから乙には帰責されない。

 よって、乙には強盗罪の共同正犯が成立する。*10

 

傷害罪については後行者の行為と先行者の行為により生じた結果との間に因果関係が存在することはあり得ないから、承継的共同正犯は成立しません(強盗致死傷も)*11

 

強盗罪については、不法の重点が暴行・脅迫にあるため、金品奪取のみに関与した者に承継的共同正犯を認めるか否かは悩みどころですが、既遂結果(「強取」)を共同して実現させているといえるため、成立させてよいと考えられます。*12

 

ここでは「共謀」の要件として論じていますが、共謀「に基づく」実行行為という要件の中で論じてもよいと考えられます。また、要件と絡めずに書いてもよいです。

 

 

共犯関係の解消

 

共犯関係から離脱した者がいる場合、共犯関係が解消されて離脱した者は離脱後の行為から生じた結果については罪責を負わないのではないかが共犯関係の解消の問題です。

 

離脱とは、犯罪への関与を取りやめる事実行為をいい、解消とは、離脱の結果行為の責任を負わなくなることをいいます。*13

 

【論証:共犯関係の解消】

共同正犯が「すべて正犯とする」とされ、各自に犯罪全部の責任を問える根拠は、各関与者の行為と結果との間に物理的・心理的因果関係が認められるとともに、各関与者が緊密に協力して「自分たちの犯罪」を実現したといえる点にある。そうだとすれば、一方当事者の離脱によってそれまでの行為と離脱後の結果との間の因果関係が否定される場合には、その結果については責任を負わないと解すべきである。

したがって、離脱者の行為と離脱後の結果との間の物理的因果性・心理的因果性が遮断された場合には、共同正犯関係の解消が認められ、離脱後の結果については責任を負わないと解する。*14

 

一般に、着手前には表明、了承があれば解消が認められ*15、着手後においては表明、了承に加えて積極的な結果防止措置をとらない限り解消が認められない*16傾向にあります。

 

しかし、首謀者、凶器や情報を提供した場合など、因果的影響が強い場合は、着手前であっても積極的措置が必要とされています。*17

 

着手後であっても被告人が捜査に協力した場合などは因果性の遮断が認められることがあります。*18

 

したがって、着手の前後は因果性の遮断を認める目安に過ぎません。因果的影響が除去されているかを実質的に検討します。

 

 

共犯者の一方が他方を暴行等により一方的に排除した場合には、裁判例は解消を肯定しています。*19しかし、排除された以降の因果的影響は除去されているとしても、排除前の因果的影響は残存しているとみることができるので、解消は否定すべきとも考えられます。*20

 

 

 

 

*1:最判昭和27年9月19日、基本p.352,353、最判昭和42年3月7日

*2:基本p.353

*3:基本p.354~356、最判昭和31年5月24日

*4:基本p.358,359、最決昭和40年3月30日

*5:基本p.358、最判昭和32年11月19日〈百選92〉

*6:事例演習教材p.29、基本p.368~371、最決平成17年7月4日〈百選6〉

*7:基本p.371

*8:基本p.375

*9:基本p.376

*10:基本p.383、橋爪法教415号p.93、橋爪・警察学論集70巻9号p.157-158、最決平成24年11月6日、事例p.154

*11:前掲最決平成24年11月6日

*12:齋藤彰子・法教453号p.25

*13:基本p.389

*14:基本p.388~392

*15:東京高判昭和25年9月14日

*16:最決平成元年6月26日〈百選95〉

*17:松江地判昭和51年11月2日、最決平成21年6月30日

*18:東京地判平成12年7月4日

*19:名古屋高判平成14年8月29日

*20:橋爪・法教414号p.108