司法試験・予備試験実践論証

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【論証】刑法総論1構成要件⑵因果関係

因果関係については、判例の因果関係の判断方法を押さえることが大事です。特に不作為犯の因果関係が問題となり得ます。

 

 

因果関係(基本的な論証)

 

因果関係は基礎事情を限定する折衷的相当因果関係説も有力ですが、近時の判例は危険の現実化説をとっているので、基本的に危険の現実化説を押さえておけばいいと思います。

 

もっとも、基礎事情に特殊事情がある場合には、危険の現実化説からはあまり厚い記述ができないため、このような場合には折衷的相当因果関係説をとることもあり得なくはありません(私は危険の現実化説で書いてしまいますが)。

 

【論証:因果関係(危険の現実化説)】

 因果関係の有無を、条件関係に加えて相当性の有無により決するとする見解もある。しかし、かかる見解によれば、介在事情の結果に対する寄与度を考慮することができないため、適正な帰責範囲の確定は困難である。したがって、条件関係を前提として、全事情を考慮に入れた上で、行為の危険が結果に現実化したといえる場合には因果関係が認められると解すべきである。*1

 

紙幅と時間の関係から、したがって、以下のみ書くこともあり得ます。(私はほとんどの場合そこしか書いていませんでした)

 

【論証:因果関係(折衷的相当因果関係説)】

 因果関係の有無は、偶然的な結果を排除し、適正な帰責範囲を確定するために、条件関係を前提として、一般人の経験上相当な因果関係であると認められるか否かにより決すべきである。そして、(刑法は第一次的に行為規範であると解されることから、)上記の相当性は一般人が認識・予見可能な事情及び行為者が特に認識・予見していた事情を基礎として判断する。*2

 

 

危険の現実化説のあてはめ

 

介在事情の寄与度が小さい場合…現実化しているといえます。*3

 

介在事情の寄与度が大きい場合…原則現実化は認められません。

 しかし、介在事情を経由して結果を発生させる危険が当初の行為の中に含まれているといえる場合(介在事情が異常でない)には、現実化が認められます。*4

 

不作為犯の因果関係

 

危険の現実化説を前提とした不作為犯の因果関係の論証です。不作為犯の場合、危険の現実化は作為犯と同様の判断が可能ですが、その前提である条件関係の判断が作為犯*5とは異なります。

 

なぜなら、実行行為が不作為でなされていることから、作為犯の場合のように「あれなければこれなし」という関係を想定することができず、期待される作為が「あったならば結果が発生しなかったであろう」という関係を考えるしかないからです。

 

【論証:不作為犯の因果関係】

 刑法上の因果関係は、条件関係を前提として、実行行為の危険が結果へと現実化したといえる場合に認められる。

 不作為とは、法が期待する一定の作為をしないことであるから、不作為犯においては、条件関係として、期待された作為がなされていれば結果が生じなかったであろうことが合理的な疑いを超える程度に確実であったと認められることが必要である。*6

 

危険の現実化については作為犯の場合と同様に判断します。

 

 

*1:基本p.71~78

*2:基本p.66~69

*3:大阪南港事件(最決平成2・11・20)、患者抜管事件(最決平成16年2月17日)

*4:高速道路侵入事件(最決平成15年7月16日)、夜間潜水事件(最決平成4年12月17日)、トランク監禁致死事件(最決平成18年3月27日)

*5:作為犯の場合の条件関係判断につき、基本p.59~64

*6:基本p.89