司法試験・予備試験実践論証

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【論証】会社法4新株予約権

ここでは、新株予約権に関連する問題として、敵対的買収に対する防衛策の許否(新株発行において問題となることもあり得ますが、論証は同様です)及び、やや応用的論点となりますが(といっても百選掲載判例であり、十分出題可能性はあります)、非公開会社における新株予約権の行使条件決定の委任の可否について検討します。

 

 

敵対的買収に対する防衛策

 

敵対的買収に対する防衛策としては、ブルドッグソース事件とニッポン放送事件(ライブドア事件)の二判例を区別してしっかり押さえ、事案に応じて使い分けられるようにしておきましょう。

 

ブルドッグソース事件(最決平成19年8月7日〈百選100〉)では、株主総会決議を経た上で、差別的行使条件付の新株予約権無償割当てが防衛策として用いられました。

 

一方、ニッポン放送事件(東京高決平成17年3月23日〈百選99〉)では、株主総会決議を経ることなく、取締役会の判断により、新株予約権の第三者割当てが防衛策として用いられました。

 

それぞれの事件についてこのような事例での判断であったことを押さえておくのが極めて重要です。

 

 

株主総会の承認を得て発動した防衛策(差別的行使条件付新株予約権無償割当て)

 

ブルドッグソース事件では、差別的行使条件次新株予約権の無償割当ての差止めの許否が争われました。

 

まず、新株予約権無償割当てには差止請求の規定がないことから、新株予約権の発行の差止めについて定める247条が類推適用されるかが問題になります。

 

次に、同条1号2号(類推)の差止事由が認められるかを検討することになります。ここで主に問題となるのは(判例が問題としているのは)、新株予約権無償割当てにおいて差別的行使条件を付すことが株主平等原則(の趣旨)違反にあたるか、という点です。

 

【論証:株主総会の承認を得て発動した防衛策(差別的行使条件付新株予約権無償割当て)】

 新株予約権無償割当てについては差止めに関する規定がないため、募集新株予約権の発行についての差止めの規定(247条)が類推適用されるかが問題となる。

 247条は、募集新株予約権の発行が既存株主の経済的利益に加え、持株比率にも大きな影響を与えることにかんがみて株主に差止めを認めたものである。そこで、新株予約権無償割当てであっても、株主の地位に実質的変動を及ぼす場合には、株主による差止めを認めるべきであり、かかる場合には247条が類推適用されると解する。

 差別的行使条件の付された新株予約権無償割当ては特定の株主が持株比率、持株価値の低下という不利益を受けるおそれがある点で、その株主以外の者に新株予約権が発行された場合と変わりがなく、その株主の地位に実質的変動を及ぼすといえる。

 したがって、本件割当てについては247条が類推適用される

 では、差別的行使条件付新株予約権無償割当てには法令違反(247条1号類推適用)が認められるか。

 本件割当ては会社法の定める手続きを遵守して行われている。もっとも、差別的行使条件が付されていることから、株主平等原則との関係で問題となりうる。

 まず、差別的行使条件付新株予約権無償割当てが株主平等原則との抵触の問題を生じうるか

 たしかに、株主平等原則(109条1項)とは、株主としての資格に基づく法律関係について、株式の内容及び数に応じて株主を平等に扱うことを要請するものであるところ、本件新株予約権に付された差別的行使条件は、新株予約権者の間での差別的な取扱いをするものであり、109条1項の直接適用はない

 しかし、株主は、株主としての資格に基づいて新株予約権の割当てを受けること、278条2項は、株主に割り当てる新株予約権の内容が同一であることを前提としていると解されることから、株主平等原則の趣旨は、新株予約権無償割当ての場合にも及ぶと解すべきである。

 では、かかる割当が同原則の趣旨に反するか

 ここで、①特定の株主が会社の支配権を取得することで会社の企業価値が毀損され、会社の利益、株主共同の利益が害されることになるような場合には、その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても、②当該取り扱いが衡平の理念に反し、相当性を欠くものでない限り、同原則の趣旨には反しないと解する。

 本件割当ては、瑕疵のない総会で多数の賛成を得ているところ、①の判断においては総会に瑕疵がない限り株主の判断を尊重すべきであるから、本件敵対的買収により企業価値は毀損されることになるといえる(①)。また、差別的行使条件により不利益を被る株主に対し、経済的補償がなされているため、取り扱いの相当性を欠くことにもならない(②)。

 したがって、本件割当ては同原則の趣旨に反しない。

 よって、本件発行には法令違反はない。

 また、著しく不公正な方法(247条2号類推適用)とは、不当な目的を達成する手段として募集新株予約権の発行が利用される場合をいい、会社の支配権の帰属をめぐる争いがあるときに、取締役が現経営陣の支配権を維持することを目的として募集新株予約権を発行する場合は、原則として不当な目的による発行といえ、不公正発行にあたるといえるが、上記のように本件割当ては株主平等原則の趣旨に反するものではないこと、会社ないし株主の共同の利益を保護するために株主総会の判断を経て行われた緊急の措置であることから、著しく不公正な方法によるものということもできない。*1

 

判例によれば、株主総会決議を経て行われる防衛策については、次に述べる取締役会による防衛策と比較してかなり緩やかに適法性が認められることになります。ただし、あくまでブルドッグソース事件の判例の射程は株主総会決議を経て行われる防衛策にまでしか及ばないので注意が必要です。

 

このような事例が出題された場合(令和元年司法試験で出題されました)、247条類推・109条の直接適用の否定・趣旨違反があるか否かの規範まではただただ上記の論証を展開すれば足ります。

 

趣旨違反のあてはめにおいて、問題と判例との事案の違いを意識することができれば高得点が望めます。

 

 

取締役会による防衛策(新株予約権の第三者割当て)

 

ニッポン放送事件で裁判所は、新株予約権の第三者割当てにおいても、基本的には主要目的ルールが妥当するとしました。*2

 

主要目的ルールについては、以下の記事を参照してください。

 

shihouyobi.hatenablog.com

 

問題となるのは、支配権維持が主要な目的である場合であっても、そのような新株予約権の発行が正当化されることはないのか、という点です。

 

【論証:取締役会による防衛策(新株予約権の第三者割当て)】

 株主は本件募集新株予約権の発行(本件発行)が「著しく不公正な方法」(247条2号)による発行であるとして、本件発行の差止めを請求できるか。

 まず、「著しく不公正な方法」による募集新株予約権の発行(不公正発行)とは、不当な目的を達成する手段として募集新株予約権の発行が利用される場合をいう。

 そして、会社の経営を誰にゆだねるかは原則として株主が資本多数決によって決すべき問題であるから、会社の支配権の帰属をめぐる争いがあるときに、取締役が現経営陣の支配権を維持することを主要な目的として募集新株予約権を発行する場合は、原則として不当な目的による発行といえ、不公正発行にあたる。

 もっとも、支配権維持が主要目的であっても、株主全体の利益保護の観点から当該新株予約権発行を正当化する特段の事情があること、具体的には、敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復しがたい損害をもたらす事情があることを会社が疎明、立証した場合には例外的に不公正発行にあたらないと解する。*3

 

ニッポン放送事件は、特段の事情の例として買収者が①ただ株価を釣り上げて高値で会社関係者に買い取らせる目的、②対象会社の知的財産権やノウハウ等を買収者に移譲する目的、③対象会社の資産を買収者の債務の担保や弁済原資として流用する目的、④会社経営を一時的に支配して事業に当面関係していない高額資産等を売却等処分させ、売却資金により一時的に高配当させる目的で、買収をする場合を挙げています。

 

これらの類型は例示列挙と解されますが、経済的合理性のある企業買収がこれに含まれることがないよう、合理的に限定解釈すべきであり、安易に認めるべきではありません。*4

 

 

非公開会社における新株予約権の行使条件決定の委任

 

非公開会社では、募集事項は株主総会の特別決議によって定めることが原則です(238条2項、241条3項4号、309条2項6号)。株主総会は、特別決議により、募集事項の決定を取締役(会)に委任することもできますが、その場合でも、募集新株予約権の内容等は株主総会が定めなければならないとされています(239条1項、309条2項6号)。

 

ここで、非公開会社において、取締役(会)に新株予約権の行使条件の決定を委任することができるかが問題となります。すなわち、行使条件が「募集新株予約権の内容」をなすといえるかの問題です。また、いったん定めた行使条件の変更についても委任が可能か問題となり得ます。

 

【論証:非公開会社における新株予約権の行使条件決定の委任】

 非公開会社においては、募集事項は株主総会特別決議によって定めることが原則である(238条2項、241条3項4号、309条2項6号)。そして、株主総会は、特別決議によって募集事項の決定を取締役(会)に委任することもできるが、このときであっても「募集新株予約権の内容」等については株主総会が定めなければならない(239条1項、309条2項6号)

 では、募集新株予約権行使条件を付す場合、行使条件の内容の決定を取締役(会)に委任することができるか。

 ここで、募集新株予約権の行使条件は「募集新株予約権の内容」(239条1項1号)であるから、その決定を取締役(会)に委任することはできず、株主総会が決定しなければならないとする見解がある。

 しかし、非公開会社ではあっても、かく解しては新株予約権発行の機動性があまりに害されること、行使条件は新株予約権者の権利を制限するものであるから、その決定を取締役(会)に委任しても既存株主の利益を害するおそれは小さいことから、行使条件は「募集新株予約権の内容」には含まれず、その決定を取締役(会)に委任することも適法であると解すべきである。

 では、一度定めた行使条件の変更まで取締役(会)に委任することは許されるか。

 ここで、行使条件の決定を取締役(会)に委任できると解する以上、変更についても委任は可能と解すべきであるが、行使条件の変更は既存株主の利益を害するおそれがあるため、株主総会の明示の委任を要すると解すべきである。

 そして、取締役(会)が、明示の委任がないのに、新株予約権の重要な内容を構成する行使条件を変更した場合には、それによってなされた新株予約権の行使による新株の発行には無効原因があると解する。*5

*1:前掲最決平成19年8月7日、事例p.287~293、伊藤靖史・百選100解説、田中p.694~698

*2:前掲東京高決平成17年3月23日

*3:前掲東京高決平成17年3月23日、事例p.293,294、田中p.688~690、高橋英治・百選99解説

*4:田中p.690、藤田友敬「ニッポン放送新株予約権発行差止事件の検討(下)」(2005年)旬刊商事法務1746号p.5~6、前掲高橋・百選解説

*5:田中p.520,521、最判平成24年4月24日〈百選29〉