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【再現答案】令和元年司法試験憲法

憲法はBだったので、あまり参考にならないかもしれませんが…。

 

評価B 公法系 125.49 231~258位

 

第1 立法措置①について

1 法案2条1号は、「虚偽表現」を「虚偽の事実を、真実であるものとして適示する表現」と定義し、法案6条は虚偽であることを知りながら、虚偽表現を「流布」することを禁止している。かかる表現の規制は、「虚偽表現」や「流布」といった文言の意味が不明確であることから、表現に対する萎縮効果が生じてしまうため、憲法(以下法名省略)21条1項に反しないかが問題となる。また、法案25条は法案6条違反に対して罰則を定めているところ、法案6条は構成要件といえ、これが不明確である場合には私人の行動の自由が不当に制限される結果になるから、罪刑法定主義に反し、適正手続を定める31条に反しないかが問題となる。

⑴ ここで、法案の文言が明確か否かは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該規定の適用があるか否かを判断することが可能かどうかにより判断すべきであると解する。

⑵ そして、法案2条1号、6条の「虚偽表現」や「流布」は十分に定義され、具体的場合に法案6条の適用の有無が明らかであるという主張が考えられる。

  しかし、「虚偽の事実」にはフィクションのような創作物も含まれ得るところ、小説のような創作物を発表する行為につき法案6条の適用があるのか否か、通常の判断能力を有する一般人の理解において判断が困難である。また、下位法令により細目が定められれば、不明確性が除去されることもあり得るが、法案には下位法令は存在しないため、かかる不明確性は除去されない。

⑶ したがって、法案2条1号、法案6条は明確性の原則に反し、21条1項、31条に反するため、文面上違憲である。

2 仮に、明確性の原則に反しないとしても、法案6条は虚偽表現を禁止するものであるから、表現者表現の自由を侵害し、21条1項に反しないかが問題となる。

 ⑴ 表現者表現の自由は当然に21条1項で保障される。

  ここで、虚偽の表現については、低価値表現として保護に値せず、21条1項の保障を受けないとの反論が考えられる。

  しかし、表現が虚偽か否かは一義的明確に判断することは困難であるから、虚偽の表現が表現の自由の保障を受けず、禁止されるとすれば表現は著しく萎縮してしまう。したがって、虚偽の表現が一律に表現の自由の補償範囲外にあるとすべきではなく、保障の範囲内として制約が許され得るかを判断すべきである。もっとも、虚偽の表現は社会に混乱をもたらし得るから、一般的に真実の表現よりも制約が許容されやすいといえる。

 ⑵ そして、法案6条は虚偽であることを知りながら「虚偽表現」を流布することを一律に禁じており、「虚偽表現」が思想の自由市場に流入することを禁止するものであるから、事前抑制そのものであるといえる。表現の事前抑制は思想の自由市場をゆがめるとともに、濫用にわたりやすく、また、表現に対する抑止効果が一般に事後の規制よりも大きくなるから、その合憲性は厳格に判断すべきである。したがって、厳格かつ明確な要件の下でのみ制約が許されると解すべきである。

  ここで、上記のような虚偽の表現の持つ社会に対する悪影響を防止する規制の必要性が認められるため、より緩やかな要件の下での制約も許されるべきであるとの反論が考えられる。

  しかし、法案6条は何らの限定なく一般的に「虚偽表現」の流布を禁じており、表現が虚偽であるか否かを判断する者の恣意によって表現が規制され得る。また、表現者としても自己の発信する情報が虚偽であるか否かを知ることは容易でないから、表現が委縮する程度が大きい。かかる濫用のおそれや表現に対する抑止的効果の大きさに照らし、上記のように厳格かつ明確な要件を要求すべきである。具体的には、公共の利害に関する事項についての表現で、真実でないことが明白であり、当該表現を許容することで社会に回復し難い悪影響を与える場合に限り、規制が許容されると解する。

 ⑶ 法案6条は「公共の利害に関する事実について」の表現を規制している。

「虚偽表現」は真実でないことが明白であるとも考えられる。しかし、「虚偽表現」は単に虚偽の事実と定義されているにとどまり、真実でないことが明白なものに限って規制されているとはいえない。

  そして、「虚偽表現」は社会に混乱をもたらし得るから、社会に回復し難い悪影響を与える場合といえるとも考えられる。しかし、法案6条は、「虚偽表現」の流布を一般に、何らの限定もなく禁止しており、当該表現が社会に与える影響の大きさにかかわらず規制している点で、過剰な制限であるといえる。したがって、規制をするにしてもより悪質性の高いものに限定すべきであるから、当該表現を許容することで社会に回復し難い悪影響を与える場合に限定されているとはいえない。

  したがって、厳格かつ明確な要件を満たしていない。

 ⑷ よって、法案6条は21条1項に反する。

3 以上より、立法措置①は、21条1項ないし31条に反し、違憲である。

第2 立法措置②について

1 法案9条1項はSNS事業者について特定虚偽表現の削除を義務付け、同条2項は削除がなされないときには削除命令を出すことができる旨定めている。そして、削除命令に反した場合には法案26条に基づき罰則が科される。にもかかわらず、法案20条は行政手続法の適用除外を定め、削除命令につき、事前手続を要しないとしている。そこで、同条は、適正手続の要請に反し、31条に反するのではないかが問題となる。

 ⑴ ここで、削除命令は公益上緊急に対応する必要があることが明らかであるから、事前手続きを経る必要はない、行政とは独立した委員会の判断が介在するため、31条の定める適正手続に代わる判断の適正さが確保されている、との主張が考えられる。

  しかし、削除命令の違反には刑罰が科されるところ、かかる手続においては31条の保護が強く及ぶから、公益上必要があるとの理由で事前手続きが不要になるとはいえない。また、委員は内閣総理大臣に任命されることになっており(法案15条3項)、内閣総理大臣は委員の罷免権も有している(同条6項)ため、委員会には行政のコントロールが強く及んでいる。したがって、委員会が介在するといっても、31条の要求する適正手続に代わる適正さが確保されているとはいえない。

 ⑵ よって、法案20条は31条に反する。

2 法案9条1項2項は上記のようにSNS事業者に対し特定虚偽表現の削除を義務付け、事業者が削除しない場合には委員会が削除命令を出すことができるとしているから、SNS事業者の営業の自由を侵害し、22条1項に反するのではないかが問題となる。

 ⑴ 選択した職業を遂行する自由を伴わない職業選択の自由はほとんど無意味であるから、営業の自由は22条1項により保障される。そして、SNS事業者がSNS利用者にSNSサービスを提供することは、営業の自由の保障範囲に含まれる。そして、法案9条1項2項によりSNS事業者は特定虚偽表現の削除を義務付けられ、削除命令を受け得るとされているから、営業の自由は制約されている。

  ここで、法案9条1項2項による制約は強度であり、重要な公共の利益のための必要かつ合理的な規制のみが許容されるとの主張が考えられる。

  しかし、法案9条1項各号により「特定虚偽表現」にあたる表現は限定されており、SNS事業者はサービスの大部分の提供は可能であり、ごく一部の表現につき、削除を強制されるだけであるから、営業の自由に対する制約が強いとはいえない。また、法案9条1項2項、26条は間接罰方式を採用しているため、制約は弱い。

  したがって、SNS事業者の営業の自由との関係で法案9条1項2項の合憲性は緩やかに判断すべきであり、規制が著しく不合理であることが明白といえない限り、22条1項には反しないと解すべきである。

 ⑵ 法案9条1項2項がSNS事業者に特定虚偽表現について削除を強制しているのは、特定虚偽表現が選挙の公正を著しく害し得ることにかんがみ、選挙の公正確保という極めて重要な目的のためであるといえる。さらに、特定虚偽表現が選挙結果にも影響を及ぼし得るというのは外国の選挙の例や乙県の知事選挙でのフェイク・ニュースの拡散から明らかであるといえる。したがって、特定虚偽表現の削除をSNS事業者に強制することには合理性が認められ、法案9条1項2項による規制が著しく不合理である明白とはいえない。

 ⑶ したがって、法案9条1項2項は22条1項には反しない。

3 法案9条1項2項は、SNS利用者の政治的表現の自由を侵害し、21条1項に反するのではないかが問題となる。

 ⑴ 政治的表現は民主制の根幹を支える特に重要な表現であり、重大な価値を有するから、21条1項により特に強く保障される。

  ここで、特定虚偽表現は低価値表現であり、それのもたらす弊害は著しく大きいから、表現の自由による保障に値しないとの反論が考えられる。

  しかし、立法措置①で述べたのと同様に表現が虚偽か否かは一義的に明らかでなく、この判断は困難であるから、特定虚偽表現にあたるような表現であっても、表現の自由の保障対象であるというべきである。もっとも、特定虚偽表現にあたるような表現は選挙の公正に影響を与え得るため、一定の制約が許容される。

  法案9条1項2項の規制は表現そのものの規制を狙いとしたものではなく、表現により生じる弊害の除去を狙いとするものであり、間接的・付随的制約といえるとの主張が考えられるが、同項の規制は表現の内容に着目したものであり、一概に緩やかなものとはいえない。

  また、削除が義務付けられ、また削除命令が出され得るのは選挙期間中及び選挙当日に限られ、他の日であれば表現は自由に行うことができるから、制約が弱いとの主張も考えられる。しかし、政治的表現の自由が真に価値を持つのはまさに選挙期間中や選挙の当日であり、この期間に表現をすることが極めて重要といえるから、期間が限定されているために制約が弱いとはいえない。

  そして、特定虚偽表現にあたるとして表現が削除された場合にはSNS事業者による賠償も受けられず(法案13条前段)、これは特定虚偽表現でなかったにもかかわらず削除された場合であっても、SNS事業者に重過失がない限り同様である(同条後段)から、制約は強いといえる。

  しかし、削除、削除命令の対象となる表現は法案9条1項各号により悪質性が高いものに限定されており、「特定虚偽表現」に該当するような表現のもつ選挙の公正に対する悪影響の大きさにかんがみれば、ある程度の制約もやむを得ないから、「特定虚偽表現」に対する規制は、目的が重要で手段が目的達成と実質的関連性を有する場合に許容されると解する。

 ⑵ 法案9条1項2項の目的は選挙の公正確保である(法案1条後段)。選挙は民主制の根幹をなすものであるから、かかる目的は重要なものといえる。

  上記のように虚偽の表現により選挙の公正が害され得ることは、外国の選挙の例等から明らかであるから、特定虚偽表現の削除をSNS事業者に強制することは選挙の公正確保のために有効である。

  ここで、特定虚偽表現に対して、削除ではなく、訂正情報を報道することによって目的は達成し得るから、法案9条1項2項は目的達成のための必要性に欠けるという反論が考えられる。

  しかし、SNSにおいてフェイク・ニュースは強い拡散力を持ち、訂正情報以上に拡散されてしまうことは一般的に明らかになっている。したがって、特定虚偽表現に対して訂正情報を報道したとしても、特定虚偽表現が拡散されてしまうことは防ぐことができず、十分に選挙の公正という目的を達成することはできない。よって、特定虚偽表現に対しては、SNS事業者に削除を強制するという手段をとることもやむを得ないものといえる。

 ⑶ 以上より、法案9条1項2項は21条1項には反しない。

4 したがって、立法措置②は、22条1項、21条1項には反しないものの、31条に反するため、違憲である。

                            以上