【論証】会社法5機関⑵役員の選解任・取締役Ⅰ
選解任における論点として、「正当な理由」の意味について検討します。次に、取締役の分野ですが、この分野は論点が非常に多いので、まず表見代表取締役について検討し、それ以外の論点については次回以降扱います。
「正当な理由」
正当な理由の意義を論じるにあたっては、339条1項において株主総会による役員の解任を可能としながら、2項において、解任された者に損害賠償請求権を認めている趣旨を考える必要があります。
【論証:339条2項 「正当な理由」】
339条2項が、解任に「正当な理由」がある場合を除き、解任された者は会社に対して、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるとしている趣旨は、株主総会の決議による解任を認めることで株主の監督機能を確保する一方で、不当な解任から取締役を保護して取締役の地位の安定を図る点にある。
同項による損害賠償責任を不法行為責任であると解すると、「正当な理由」が否定されるのは解任自体が不法行為を構成する場合に限られることになる。かく解すると損害賠償責任が成立する場合があまりに限定され、取締役の地位が不安定になってしまう。そこで、上記の趣旨に照らし、同項の責任は法定責任であると解すべきである。
そして、「正当な理由」は、上記の趣旨から、株主と取締役の利益の調和を考慮し、当該取締役に経営を行わせしめるにあたって障害となるべき状況が客観的に生じた場合に限り認められると解する。
取締役の経営判断の失敗については、経営判断の制約は避けるべきであるとして「正当な理由」該当性を否定する見解もある。しかし、経営に失敗した取締役に対する責任追及が経営判断の原則により制約されることが少なくないことから、株主にとって、解任は取締役に対する数少ない強力なサンクションの手段であるといえる。したがって、解任のサンクションとしての実効性を確保するため、経営判断の失敗についても上記の障害となるべき状況にあたるとして「正当な理由」に含まれると解すべきである。
また、取締役の地位の安定のためには任期に対する取締役の期待を保護すれば足りるから、原則として損害賠償の範囲は残存任期中に得られるはずであった報酬相当額に限られる。*1
他の正当な理由としては、病気で職務を続けられない場合や、職務執行における不正行為、法令・定款違反(解任の訴えの要件を満たすため、当然に該当します)などが考えられます。
一方、大株主との信頼関係が損なわれたというだけでは正当な理由に該当しないとした裁判例があります。*2
表見代表取締役
表見代表取締役の論点では、とにかく規定の趣旨から各文言の解釈を導き出すことが大事です。
第三者の意義
表見代表取締役の規定によって保護される「第三者」が取引の直接の相手方に限られるのか、それとも転得者をも含むのか、という論点です。
354条の趣旨は、虚偽の外観の作出につき帰責性のある会社の犠牲のもとで、代表取締役らしい外観に対する第三者の信頼を保護する点にある。
そうだとすれば、その者が代表取締役であるという信頼を有するのは取引の直接の相手方のみであるから、同条によって保護される「第三者」とは、取引の直接の相手方に限られ、転得者等は含まれないと解する。*3
この判例には異論も多いところですが、答案上は判例に従っておいて構わないと思います。
第三者の主観
354条の趣旨は、虚偽の外観の作出につき帰責性のある会社の犠牲のもとで、代表取締役らしい外観に対する第三者の信頼を保護する点にある。
そして、無権限取引であることを容易に知り得た場合にも保護されるとするのは妥当でなく、重過失ある者は悪意者と同視できるというべきであるから、かかる者は同条による保護に値しない。
使用人
取締役でない者が代表取締役のような外観を備えていた場合に表見代表取締役の規定の適用があるか否かの論点です。
【論証:表見代表取締役 使用人】
354条は「取締役」と規定しているところ、使用人にこれを直接適用することはできない。
しかし、同条の趣旨は、虚偽の外観の作出につき帰責性のある会社の犠牲のもとで、代表取締役らしい外観に対する第三者の信頼を保護する点にあるところ、使用人が代表取締役であると信頼した場合であっても、第三者のかかる信頼を保護する必要性には変わりはない。したがって、会社が使用人に代表取締役らしい名称を付した場合にも上記の趣旨が妥当し、同条の類推適用により第三者は保護され得ると解する。*5
使用人ですらない者(下請け業者など)の場合には、同条は類推適用はされないが、第三者は名板貸し責任の規定により保護され得る、とした裁判例があります。*6
「名称を付した」
会社側がいかなる行為をしていれば「名称を付した」といえるかという問題です。これも趣旨から導きます。
【論証:表見代表取締役 「名称を付した」】
354条の趣旨は、虚偽の外観の作出につき帰責性のある会社の犠牲のもとで、代表取締役らしい外観に対する第三者の信頼を保護する点にある。そうだとすれば、「名称を付した」といえるためには、虚偽の外観の作出についての会社の帰責性を基礎づける事情があれば足りると解する。
したがって、会社が名称使用を認識しながらあえてそれを黙認して放置していた場合には、会社の帰責性が認められるといえるから、「名称を付した」といえると解する。*7
他の取締役が一人でも知っていてこれを放置していれば会社が黙認していたとしてよいとする見解が有力です。*8
判例は、代表取締役の選定が無効である場合も354条の類推適用が可能としています。*9
瑕疵ある株主総会決議によって選定された取締役が代表取締役となったのち、選任決議の効力がさかのぼって否定された場合も同様と考えられます。*10
908条1項との関係
そもそも、908条1項が存在する関係で、354条は適用の余地がなくなってしまうのではないか、という問題です。908条1項により、代表取締役の氏名については悪意擬制が生じるため、上記のような問題意識が生じます。少なくとも答案上は結論は明らかなので、それほど厚く論じる必要はないのではないかと考えられます。
【論証:表見代表取締役 908条1項】
代表取締役の氏名は登記事項である(911条3項14号)から、908条1項前段により、悪意擬制が生じ、354条の適用の余地はないとも考えられる。
しかし、会社と取引をする者に常に登記簿の閲覧を要求することは商取引の大量・迅速性に反し妥当ではない。そこで、354条は908条1項の例外規定であり、同条の適用があると解すべきである。*11