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【再現答案】令和元年司法試験民訴

評価A 民事系 220.37 25位

 

第1 設問1

1 課題1

 ⑴ Yは、本件定めが専属管轄の合意(民事訴訟法(以下、法名省略)11条1項)であり、B地方裁判所以外の裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内容とするものであると解釈している。

  契約において管轄の合意がなされた場合、専属管轄の合意であるか、当該裁判所も管轄裁判所として付け加える付属管轄の合意であるかが問題となるが、あえて管轄の合意が定められた以上、当該定めは専属管轄の合意であると解釈すべきであるのが原則である。

  本件契約においても、あえて管轄の合意である本件定めが置かれたのであるから、専属管轄の合意であると解釈すべきである。

  以上がYの解釈の根拠である。

 ⑵ しかし、Xは本件車両の買主であり、一般消費者である一方、Yは本件車両の売り主で、企業であるのだから、両者の間には大きな交渉力の格差がある。本件契約の契約書はYが用意したものであり、本件定めもかかる契約書に記載されたものである。すなわち、本件定めはYの側が本件契約に一方的に置いた条項である。そして、上記のようにXY間には交渉力の格差があるから、Xの側から契約内容を変更させることは不可能に近い。

  また、本件定めはYの本店のあるB市にあるB地方裁判所を管轄裁判所とするものであり、Yには有利であるが、A市に住むXにとっては距離にして600km、時間にして4時間と著しく離れたB地方裁判所が管轄裁判所とされることは大きな負担である。

したがって、本件定めはYが強い交渉力を背景に自己に有利な条項を一方的に置いたものであるから、公平の観点から専属管轄の合意と解するべきではなく、付属管轄の合意であると解すべきである。

 ⑶ そして、本件訴訟は本件契約の解除に基づく原状回復を求める財産上の訴えであるところ、義務履行地であるXの住所(民法484条後段)を管轄するA地方裁判所(5条1号)も管轄裁判所となる。そこで、本件定めはA地方裁判所に加えてB地方裁判所も管轄裁判所とする旨の定めにすぎず、A地方裁判所を管轄裁判所から排除することを内容とするものではないと解すべきである。

2 課題2

 ⑴ Yの解釈を前提とした場合、上記のように本件定めは専属管轄の合意と解釈されるから、A地方裁判所は管轄裁判所でなく、16条1項によって本件訴訟を管轄裁判所であるB地方裁判所に移送しなくてはならないのが原則である。

 ⑵ しかし、17条は訴訟が当該裁判所の管轄に属する場合であっても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときには訴訟を他の管轄裁判所に移送することができると定めている。

  そして、かかる移送は当事者の合意により専属管轄が定められていたとしても行うことができる(20条1項かっこ書き)。

  そうだとすれば、合意により定められた専属管轄裁判所以外の裁判所も、専属管轄の合意がなければ管轄を有していたのであれば、上記のような事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときには、16条1項の移送の申立てを却下し、当該訴訟を審理すべきとするのが17条の趣旨に合致すると解する。

 ⑶ 本件訴訟は上記のように専属管轄の合意がなければA地方裁判所の管轄に属するものである。当事者であるXはA市に居住しており、Xの訴訟代理人であるLもA市に居住している。本件訴訟の証人としてはYのA支店の従業員等が考えられるが、A支店もA市に存在するため、これらの者もA市近郊に居住していると考えられる。また、使用すべき検証物としては本件契約に係る契約書、本件車両等が考えられるが、本件契約の契約書はA支店に保存してあると考えられ、本件車両はXが自宅に保管しているのであるからいずれもA市に存在する。そして、上記のようにA市とB市は極めて遠く離れているから、公判期日等のたびにXらがB地方裁判所に出廷したり、証拠物を持参したりすることは大きな負担となり、訴訟の遅延を招くことにもなり得る。また、Yの本店はB市にあるところ、B地方裁判所で審理を行うとすればXらに著しく不利である一方Yに著しく有利となる。

  したがって、訴訟の著しい遅滞を避け、当事者の公平を図るためA地方裁判所で審理を行う必要があるといえる。

 ⑷ よって、A地方裁判所は16条1項の移送の申立てを却下し、本件訴訟の審理を行うべきである。

第2 設問2

1 Yは第一回口頭弁論期日において、④の事実を認める陳述をしている。そこで、かかる陳述が裁判上の自白にあたり、④の事実に対する認否を撤回することは自白の撤回にあたり、許されないのではないか。

 ⑴ア 裁判上の自白とは、口頭弁論期日又は弁論準備手続における弁論として行われる、相手方の主張と一致する、自己に不利益な事実の陳述をいう。

  ここで、裁判上の自白の対象となる事実は、法律効果の発生要件たる事実に該当する具体的事実たる主要事実に限られると解する。なぜなら、間接事実や補助事実は主要事実の存否を推認させるという点で証拠と同様の働きをするところ、これらの事実についても裁判上の自白が成立し、裁判所がこれに拘束されるとしては裁判所の自由心証主義(247条)が著しく害されることになるからである。

  また、自己に不利益な、とは、基準の明確性の観点から、相手方が証明責任を負う事実をいうと解する。

  すなわち、相手方の証明責任を負う主要事実についてのみ、裁判上の自白は成立し得る。

 イ 本件訴訟における元の請求は本件契約の解除に基づく原状回復請求権であるところ、かかる請求の請求原因事実は債務の不完全履行、反対給付の履行の提供、催告、相当期間経過後の解除の意思表示にあたる具体的事実である。そして、かかる請求との関係では④の事実は債務の不完全履行にあたる具体的事実たる本件車両が本件仕様を有していなかった事実(⑤)を推認させる間接事実である。したがって、元の請求との関係では、Yが④の事実を認める旨の陳述をしても裁判上の自白は成立しない。

  一方、新請求は不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)であるところ、かかる請求の請求原因事実は権利侵害、故意又は過失行為、損害、故意又は過失行為と権利侵害・権利侵害と損害との間の因果関係にあたる具体的事実である。そして、かかる請求との関係では④の事実は故意または過失行為と権利侵害との間の因果関係を証明する主要事実である。そして、かかる事実は請求原因事実であるから、Xが証明責任を負う事実である。そして、訴えの追加的変更(143条)が行われた場合、従前の訴訟資料は特に援用がなくても新請求についての訴訟資料となるから、Yが④の事実を認めた陳述も新請求との関係で効力を有する。したがって、Yのかかる陳述は新請求との関係では裁判上の自白となる。

 ウ そして、一つの事実について裁判上の自白が成立したりしなかったりするのは不自然であるから、新請求との関係で裁判上の自白が成立する以上、④の事実については裁判上の自白が成立するものと解すべきである。

 ⑵ 裁判上の自白が成立すると、当事者間に争いのない事実は判決の基礎としなければならないという弁論主義の第2テーゼから、裁判所はかかる自白に拘束され、それゆえに当事者は当該事実について証明することを要しない(179条)。そして、審判排除効とそれゆえの不要証効が生ずるため、相手方当事者は当該事実については不要証であると信頼する。かかる信頼は保護に値するから、裁判上の自白をした当事者は禁反言の原則から自白を撤回することが禁じられる。

  そうだとすれば、Yについて裁判上の自白が成立している以上、撤回は許されないとも考えられる。

 ⑶ しかし、上記のように撤回禁止効の根拠が禁反言の原則にあるところ、相手方の信頼が保護に値するものではないとすれば、裁判上の自白が生じていたとしても撤回禁止効は生じないと解するべきである。

  本件訴訟においては、上記のように元の請求との関係ではYの陳述は裁判上の自白にあたらないのであるから、第一回口頭弁論期日においてYが④の事実を認める陳述をした時点では、裁判上の自白は成立していなかったといえる。そして、事後的にXが新請求を追加したためにYの上記陳述が裁判上の自白として評価されることになったのである。そうだとすれば、Yは新請求との関係で④の事実を争わないとの陳述をしたわけではないのであるから、Xには④の事実について不要証であるとの信頼は生じるとはいえない。また、この場合に撤回禁止効が生じるとしては、一旦本来請求したい請求の請求原因事実を間接事実とする他の請求を係属させることで相手方の当該事実を争わない旨の陳述を引き出し、事後的に本来請求したい請求を追加することで、裁判上の自白を成立させ、有利に訴訟を追行するという訴訟戦略を許容することになってしまうが、かかる戦略は許されるべきではない。

  したがって、Xには保護すべき信頼が生じるとはいえないため、裁判上の自白が成立するとしても撤回禁止効は生じない。

2 よって、Yは④の事実を認める旨の陳述を自由に撤回することができる。

第3 設問3

1 Zが本件日記の文書提出義務(220条)を負うかどうかの判断においていかなる観点から、いかなる事項を考慮すべきか。文書提出義務を負う場合は220条各号に掲げられているが、本件日記は同条1号2号3号には該当しないことが明らかである。また、同条4号は一般的な文書提出義務を定めているが、本件日記が同号イ、ロ、ハに該当しないことは明らかである。したがって、Zが本件日記の文書提出義務を負うかどうかは本件日記が同号ニにあたるか否かによって決せられる。

2 同号ニは自己使用文書について文書提出義務を排除しているが、自己使用文書とは、専ら自己の利用のために作成された文書であり、外部に公開されることが予定されていないものをいう。本件日記は専らTの日記として、Tのみが読むために作成されたものであり、外部へ公開されることは予定されていない。したがって、本件日記は同号ニにあたりそうである。

 もっとも、自己使用文書として文書提出義務が排除されるというためには、上記の文書にあたることに加えて、文書提出義務を排除することによって得られる利益と文書を提出させることによって得られる利益との比較衡量をした上で、なお文書提出義務を排除する必要があると認められる場合であることが必要であると解する。

3 したがって、Zが本件日記の文書提出義務を負うかどうかの判断においては上記のような比較衡量という観点からの考慮が必要である。そして、文書提出義務を排除することによって得られる利益としてはT,Zのプライバシーの利益が考えられる。そこで、裁判所としては、必要に応じて223条6項の手続を行い、本件日記の記載内容から、これを裁判において公開することでどの程度T,Zのプライバシーが害されるおそれがあるかを考慮すべきである。本件日記の必要な一部のみを証拠として用いることでプライバシー侵害を防げないかも考慮すべきである。また、このとき、Tがすでに死亡しておりプライバシーの要保護性が多少減少していることも考慮すべきである。そして、文書を提出させることによって得られる利益としては、甲シリーズの車両の設計上の無理が存在し、またそれが本件事故の原因となったのか否かを明らかにすることができ、紛争解決につながる可能性があることが考えられる。そこで、他の証拠の存否や本件日記の記載の真実性等から、紛争解決のために本件日記を提出させることがどの程度必要であるかを考慮すべきである。

                                以上