司法試験・予備試験実践論証

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【再現答案】令和元年司法試験刑訴

別件逮捕はヤマを張っていましたが、結論の分かれる二つの構成で書け、というのは予想外でした。別件基準説はあまり詳しく知らなかったので論述もそれなり、という感じです。

 

評価A 刑事系 136.36 113~131位

 

第1 設問1

1 小問1

 ⑴ 法が逮捕、勾留について被疑事実を単位としている(刑事訴訟法(以下、法名省略)200条、60条等)こと、裁判官が「正当な理由」(憲法34条)の有無を審査して初めて身柄拘束が認められるという令状主義の趣旨に照らし、逮捕、勾留は事件単位に行われるべきである。

  そうだとすると、Rらは①の逮捕、勾留及びそれに引き続く甲の身柄拘束期間中、逮捕の原因となった被疑事実たる本件業務上横領事件(別件)以外にも、本件強盗致死事件(本件)についても捜査を行っている、すなわち①の逮捕はいわゆる別件逮捕にあたるところ、かかる逮捕を含め、甲の身柄拘束は、本件についての司法審査を経ていないため、令状主義に反し違法とならないか。

 ⑵ ここで、起訴前の身柄拘束期間の趣旨は、被疑者の身柄を拘束し、逃亡や罪証隠滅を防止した状態で、当該身柄拘束の原因となった被疑事実について、起訴不起訴の決定に向けた捜査を行うことにある。そこで、かかる身柄拘束の期間が、主として本件の捜査に用いられるに至った場合には、別件についての身柄拘束という実体を喪失し、すでに本件についての身柄拘束になっているというべきであり、本件についての身柄拘束の要件を欠き、令状主義に反するため、かかる状態に至った以降の身柄拘束は違法となると解する。

  そして、上記のような状態に至っているといえるか否かは別件と本件について捜査が行われた時間、別件と本件についての捜査の進捗状況、捜査の態様、捜査機関の意図等を総合的に考慮して決すべきである。

 ⑶ 甲の身柄拘束期間中には、別件についても7日間にわたり20時間の取調べが行われているが、本件については身柄拘束期間18日間中の大半にあたる12日間にわたってその倍の40時間という長時間の取調べが行われている。

また、別件は被害額が3万円と僅少な、軽微犯罪であり、被害者であるX社の社長も処罰を望んでいなかった。また、別件についてはX社社長から提出された被害届、甲に3万円を渡した旨のAの供述調書、Aから集金した3万円がX社に入金されたことを裏付ける帳簿がなかった旨の捜査報告書等の証拠がそろっており、捜査は相当程度進んでおり、捜査を行う必要性は低かったといえる。一方で、本件は強盗致死事件という重大事件であり、被害者のVが目撃したものと同じナンバー、色の原付を甲が所有していたこと、犯行直後、口座に30万円が振り込まれたこと程度しか明らかになっておらず、捜査はあまり進んでいないため、捜査を行う必要性が高かったといえる。したがって、捜査機関としては、本件についての捜査を行うために甲の身柄拘束期間を利用したのではないかと推認される。

  捜査機関は、別件固有のH店、I店への裏付け調査、パソコンデータ精査といった捜査も行っているが、むしろ甲の身柄拘束期間中は本件についての捜査でもあるスマートフォンのデータ精査、周辺者への聞き込み、Yの取調べや、専ら本件のための大家の取調べ、原付に関する捜査を主に行っているといえる。そして、現にYの取調べにおいては本件についての証拠となり得る供述である「平成31年2月初め頃、『臨時収入があったから金を返す』と電話があり、甲から7万円の返済を受けた」旨の供述調書を作成し、手帳を確認してその旨の供述調書を作成している。また、大家からも、「平成31年2月2日に2か月分の家賃として10万円を支払った」旨の供述を得て、その旨の供述調書を作成している。そして、本件について甲の取調べを行う際には、任意の取調べとして行う旨を説明しているが、特に平成31年3月8日以降は連日長時間本件について取調べを行っているから、かかる取調べは甲の身柄拘束状態を利用して行われているものといえる。

  また、別件の逮捕に至った経緯は、Pが本件で甲を逮捕するには証拠が不十分であると考え、他の犯罪の嫌疑を探って、X社社長から別件についての情報を聞き出し、X社社長は被害額が僅少であること、世間体から甲の処罰を望まなかったにもかかわらず、Pが繰り返し説得したことで、被害届を提出させたものである。かかる経緯から、Pらは当初から本件の捜査のための建前として別件を利用する意図を有していたものと推認される。

  これらの事情を総合的に考慮すれば、少なくとも連日長時間本件についての取調べが行われるに至った3月8日以降は、甲の身柄拘束期間は主として本件の捜査のために利用されたというべきである。

 ⑷ したがって、少なくとも同日以降の身柄拘束は、令状主義に反し、違法となる。

2 小問2

 ⑴ 別件逮捕及びその後に引き続く身柄拘束は、たとえ身柄拘束期間中に本件についての捜査が行われようとも、別件についての身柄拘束の要件が備わっている限り、別件逮捕であるからとして違法となるものではないとする見解がある。

 ⑵ かかる見解によれば、①の逮捕及びそれに引き続く身柄拘束も、身柄拘束の要件を満たしている限り、違法となるものではない。

 ア ①の逮捕は要件を満たすか。

  甲が3万円の着服をしたことは、被害者であるX社社長の供述、上記のAの供述調書、捜査報告書等から相当程度明らかになっているといえ、業務上横領の嫌疑は濃厚であるから、甲には「罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由」がある(199条1項)。また、甲は無職で、アパートで単身生活をしていることから、逃亡のおそれがないとはいえない。また、X社の書類や自己の銀行口座等について証拠隠滅を図るおそれがないとはいえない。したがって、逮捕の必要性(刑事訴訟規則143条の3)がないとはいえない。

  よって、①逮捕は要件を満たす。

 イ 逮捕後の勾留は要件を満たすか。

  上記のように、甲の嫌疑は濃厚であるから、「罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由」がある(207条1項、60条1項柱書)。また、上記のように、逃亡のおそれ、罪証隠滅のおそれが認められる(207条1項、60条1項2号3号)。したがって、勾留の理由が認められる。

  また、甲は無職であり、身柄拘束により特段の社会生活上の不利益を被るわけではないから、起訴不起訴の決定に向けた捜査を行う必要性がなお認められることに照らせば、勾留を行うことも相当であるといえ、勾留の必要性(87条1項)も認められる。

  そして、甲は2月28日に逮捕され、翌日勾留されているから、時間制限も遵守されている(203条1項、205条1項)。

  したがって、勾留も要件を満たす。

 ウ よって、①の逮捕及びその後の身柄拘束は適法となる。

 ⑶ かかる見解に立ったとしても、被疑者には取調べ受忍義務が認められないことから、取調べは限界がないのが原則であるが、身柄拘束を違法とさせるような余罪取調べは違法となり得る。しかし、上記のように身柄拘束は適法であるから、余罪取調べが違法となることもない。

 ⑷ かかる見解は、別件逮捕及びその後の身柄拘束は逮捕権ないし捜査権限の範囲内であることを前提として、これらの権限の濫用なのではないかという問題の本質を看過している点で妥当でなく、採用することはできない。

第2 設問2

1 公訴事実1記載の訴因(旧訴因)は、平成30年11月20日、A方にてAから受け取った3万円を着服したという業務上横領に係るものであるが、公訴事実2記載の訴因(新訴因)は、同日同所において、集金権限があるように偽りAから3万円を詐取したという詐欺に係るものである。

2 それでは、裁判所は旧訴因から新訴因への訴因変更請求を許可すべきか。

⑴「公訴事実の同一性」が認められる場合には訴因変更を許可しなければならない(312条1項)とされているところ、まず、新旧訴因間に「公訴事実の同一性」が認められるかが問題となる。

 ア ここで、訴因変更が「公訴事実の同一性」の認められる範囲内に限定されたのは、被告人の刑事責任の渉猟的追求を禁止する趣旨である。したがって、「公訴事実の同一性」が認められるのは、新旧訴因間に被告人に対する刑事責任追及原因としての同一性が認められる場合であると解する。

  そして、検察官が新旧訴因を被告人に対する刑事責任追及原因として両立しないものとして訴因変更を請求してきた場合には、新旧訴因間の狭義の同一性の有無が問題となる。新旧訴因間の基本的事実関係が同一といえる場合には、新旧訴因のいずれか一方しか、被告人に対する刑事責任追及原因として法律上または事実上存在し得ないといえるため、かかる場合には「公訴事実の同一性」が認められると解する。基本的事実関係が同一といえるかは、第一次的には新旧訴因の共通性から判断し、補充的に両者の非両立性を考慮すべきであると解する。

 イ 新旧訴因は上記のように日時、場所、領得された金銭を同一にしており、大部分の事実が共通しているといえる。両者で異なるのは、犯行当時に甲にX社を代表して集金を行う権限があったか否かだけである。そして、甲は当事権限を有していたかいなかったかのいずれかであり、両者は論理的に択一的な関係にあるから、新旧訴因は事実上非両立であるといえる。

 ウ したがって、新旧訴因は基本的事実関係が同一といえるから、新旧訴因間には狭義の同一性、ひいては「公訴事実の同一性」が認められる。

 ⑵ もっとも、本件では公判前整理手続が行われている。公判前整理手続において検察官は訴因変更請求を行うこともできる(316条の5第2号)ところ、公判整理手続を経た後には訴因変更は許されないのではないか(316条の32参照)が問題となる。

  ここで、公判前整理手続が行われる趣旨は争点及び証拠の整理であるところ、かかる趣旨を没却する場合には訴因変更は許されないと解する。

  本件では、公判前整理手続の結果、公訴事実1の事実については争いがなく、量刑のみが争点となった。また、公判前整理手続において、弁護人から甲の集金権限に関する主張はなかった。にもかかわらず、公判期日において、X社社長が甲には集金権限がなかったと供述したところ、甲がこれを認めたものである。このように被告人側が公判前整理手続で事実を明らかにせず、公判期日において供述を変遷させた場合に訴因変更を許さないとすれば、甲に集金権限がなかった場合、裁判所としては甲を無罪にせざるを得ないが、無罪判決には一事不再理効(337条1号)が生じてしまうため、甲に不当な利益を与えることになる。また、訴因変更が認められれば有罪となることが明らかであるのにもかかわらず、無罪とすることは私法に対する国民の信頼を害することにもなる。

  そして、上記のように、甲が集金権限を有していなかったという事実は公判前整理手続では顕出されておらず、公判期日になって初めて明らかになったものであるから、検察官としてもこれを把握できず、公判前整理手続終了後に訴因変更をせざるを得ない「やむを得ない事由」があるといえる。

  したがって、訴因変更を認めることが公平に合致するといえ、これを認めても上記の趣旨を没却することにはならない。

3 よって、「公訴事実の同一性」が認められる以上、本件においては公判前整理手続を経ていても、訴因変更を許可すべきである。

                          以上