【論証】刑訴2公訴⑶訴訟条件
裁判所が実体審判を行うための手続的要件のことを訴訟条件といいます。ここでは、その中でも、訴訟条件(告訴を例に)の追完、不適法訴因への訴因変更の可否、また、訴因と心証とで訴訟条件を異にする場合の措置として訴訟条件の判断基準、形式裁判を導く縮小認定の可否について検討します。
訴訟条件の追完
たとえば、親告罪について告訴を得ずに公訴提起がなされたが、事後的に告訴が得られた場合にかかる公訴提起を適法なものとして認めてよいか、という問題です。
【論証:訴訟条件の追完】
親告罪につき、告訴を得ずになされた公訴の提起は違法かつ無効であるが、後に告訴が得られた場合に、追完を認めるべきか。
ここで、訴訟経済の観点から、被告人の同意があれば告訴の追完が認められ、公訴提起が適法かつ有効になるとする見解もある。
しかし、告訴を欠くことは起訴の重大な瑕疵であるから、かかる瑕疵を明らかにする必要がある。したがって、被告人の同意があると否とにかかわらず、追完は認められないと解すべきである。*1
非親告罪への訴因変更による瑕疵の治癒についても同様に論じれば足ります。
これに対し、判例は、不特定訴因の補正については、訴因変更による訴因の不特定の瑕疵の治癒を認めています。*2これは、訴訟経済の観点から望ましいこと、訴因の特定の要請は満たしており、256条3項に反するに過ぎないこと、被告人の利益にもなることによると考えられます。
不適法訴因への訴因変更の可否
【論証:不適法訴因への訴因変更の可否】
訴因変更制度は、訴因と心証にずれが生じた場合に、検察官に当該手続きで有罪判決を確保する手段を与えるために設けられた制度であるから、形式裁判を導く不適法訴因への訴因変更は許されないとする見解もある。
しかし、法が当事者主義的訴訟構造(256条6項、312条1項、318条1項)を採用している以上、訴因変更制度は訴訟対象の設定変更を訴追機関に専権的に許す制度であると解すべきであり、訴因変更の結果実体審理を行うことができることになるか否かは別問題である。したがって、かかる訴因変更も認められると解する。*3
訴訟条件の判断基準
起訴状記載の訴因と裁判所の心証との間に差異がある場合(そして、一方によれば訴訟条件を具備しており、他方では訴訟条件を欠いている場合)、訴訟条件の存否は訴因を基準として判断されるべきか(訴因記載の犯罪事実を基準に訴訟条件が具備されていれば公訴提起が適法)、心証を基準として判断されるべきか(心証を基準に訴訟条件が具備されていなければ公訴提起は違法・無効)が問題となります。
【論証:訴訟条件の判断基準】
訴訟条件は実体審判の要件であるところ、当事者主義的訴訟構造(256条6項、312条1項、318条1項)のもと、審判対象は訴因であると解する。したがって、訴訟条件の有無の判断も心証ではなく訴因を基準とすべきである。*4
公訴事実対象説からは心証基準説が導かれますが、通説である訴因対象説からは訴因基準説が導かれます。
形式裁判を導く縮小認定の可否
訴因を基準とすれば公訴時効が完成していない(あるいは非親告罪であるため告訴が必要ない)が、心証を基準とすれば公訴時効が完成している(あるいは親告罪であるため告訴が必要であるにもかかわらずそれを欠いている)ような場合、裁判所はいかなる措置を採るべきかが問題となります。
このとき、まず、訴訟条件は訴因と心証のどちらを基準に判断するべきかを論じ、訴因基準説を展開してから、縮小認定の可否を論じます(心証基準説に立つ場合には、訴因変更または包含関係の有無にかかわらず、裁判所は最初から心証を基準に免訴(公訴棄却)を言い渡すことができます)。
【論証:形式裁判を導く縮小認定の可否】
【論証:訴訟条件の判断基準】
したがって、かかる公訴は訴訟条件を欠くことになる。そこで、裁判所は検察官に心証に沿った形での訴因変更の請求をするよう求釈明をすべきである。そして、検察官がこれに従わず、訴因変更請求をしないときは、原則として無罪判決をすべきである。
もっとも、訴因事実と心証にかかる認定事実の間に包含関係が認められる場合には、訴因事実の主張の中で認定事実が黙示的・予備的に主張されているとみることができるから、裁判所は訴因変更手続を経ることなく縮小認定をした上で免訴(公訴棄却)を言い渡すことができると解する。*5
告訴等を欠く公訴のとき(公訴棄却の場合)には、訴訟条件を備えた訴因について実体審判を求める検察官の訴追意思に、訴訟条件を欠く事実について形式裁判を求める意思が当然に含まれるとするのは無理であるから、縮小認定は認められないとしてもよいと考えられます。*6