司法試験・予備試験実践論証

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【論証】会社法3株式⑴総則Ⅰ-株式の共有-

株式の共有(正確には準共有(民法264条)ですが、会社法も「共有」としている(106条参照)ので「共有」で構いません。)については、権利行使者(106条本文)の指定方法、会社の同意(106条但書)、共有株主の原告適格、権利行使者による議決権の不統一行使などの論点があります。

 

司法試験、予備試験でも既出の分野ですので、正確な理解が求められます。

 

 

 

権利行使者の指定

 

学説上は全員一致説も有力*1ですが、判例過半数説に立っているので、過半数説でよいでしょう。

 

【論証:権利行使者の指定】

 全員の同意が必要とすると共有者の一人でも反対すれば全員の株主権の行使が不可能となり、会社の運営にも支障をきたしうるため、妥当でない。

 そこで、権利行使者の指定は共有物の管理に関する事項として共有持分の過半数によってすることができる(民法252条)と解する。*2

 

 

会社の同意

 

106条但書は、会社の同意があれば権利行使者を通じた議決権行使でなくても有効となると定めています。これはいかなる意味なのか、特に会社の同意の前提として共有持分の過半数の決定が必要か否かは議論が分かれています。

 

ここに関しては、いずれの立場に立ってもよいと思います。しかし、判例は①説に立っているので、②説をとる場合には説得的な論証が必要となるでしょう。

 

考えられる方法としては、判例の理論を正面から否定するほか、判例は共有株式の全部を行使する場合であったことを指摘して、共有者が自己の持分についてのみ議決権行使をする場合には判例の射程が及ばない、とすることなどがあります。*3

 

【論証:会社の同意(①説)】

 株式の共有も共有の一種であるから、その内部関係は民法の共有の規律に服する。そして、共有株式の議決権の行使は、それをもって直ちに株式を処分することになるなど特段の事情がない限り、民法252条にいう管理行為にあたり、共有持分の過半数による決定を要する。そうだとすれば、共有物の管理についての決定は共有の内部関係上の問題であり、会社が勝手にその関係を変更することはできないと解されるから、106条但書は共有に関する民法の規定に従った議決権行使を前提とするものであり、民法の規定に反した議決権行使をも会社の同意により適法とする趣旨ではないと解すべきである。

 したがって、会社の同意があるとしても、共有持分の過半数の決定がなければ議決権行使は無効である。*4

 

この説に立った場合でも、株主訴権(828条、831条等)は保存行為であり、本来個別にできるのに会社の事務処理の便宜のために権利行使者を通じた権利行使が求められているにすぎないと解されることに注意が必要です。したがって、会社が同意すれば(過半数の決定がなくても)各共有者は訴えを提起できることになります。*5

 

【論証:会社の同意(②説)】

 共有者が持分に応じた議決権を行使することは、共有者が本来的に享受する権利である(民法249条参照)。したがって、共有者は本来、各自で共有持分に応じた議決権行使ができるはずであるところ、106条は会社の事務処理の便宜のために権利行使者を通じた権利行使を求めているに過ぎないと解される。そうだとすれば、会社が同意すればそのような煩瑣な手続きを踏む必要はないから、106条但書の前提として共有持分の過半数の決定は不要であると解する。

 したがって、共有持分の過半数の決定がなくても、会社の同意がある以上、議決権行使は有効である。*6

 

 

共有株主の原告適格

 

上述の会社の同意がある場合の株主訴権を論じる前提として、そもそも共有株主の株主訴権の行使も権利行使者を通じて行わなければならないのかが問題となります。

 

【論証:共有株主の原告適格

 訴訟の提起も株主の権利の行使である以上、原則として権利行使者を通じてなされる必要があるが(106条本文)、会社が原告適格を争うことが信義に反するような特段の事情が認められる場合には、共有者が単独で取消訴訟を提起することも認められると解する。*7

 

会社が一方において、権利行使者の指定・通知をしなければ成立し得ない総会決議の成立を主張しつつ、他方において、権利行使者の指定・通知がないことを理由に共有者が当該総会決議の瑕疵を争う原告適格を否定するというような矛盾した主張をしている場合に「特段の事情」が肯定されます。

 

 

権利行使者による議決権の不統一行使

 

ここでは、①権利行使者が議決権の不統一行使を申し出たときに、会社が不統一行使を拒めるのか、②権利行使者は各共有者の指示に従った議決権行使を行う義務(指示が異なるときは不統一行使をする義務)を負うか、③権利行使者が不統一行使をする義務を負うとしても、権利行使者が指示に反して議決権行使をしたことが決議取消事由になるのかということが問題となります。

 

①会社は不統一行使を拒めるのか

 

【論証:会社が権利行使者による不統一行使を拒めるか】

 ここで、権利行使者は「他人のために株式を有する者」(313条3項)とはいえないとして、会社は不統一行使を拒めるとする見解もある。しかし、同項の趣旨は、他人のために株式を有する者が当該他人の意向を反映した議決権行使をすることを会社も認めるべきであるという点にあるところ、共有者も株式保有のリスクを負担しているのであるから、権利行使者は他の共有者のために権利行使をしているといえ、「他人のために株式を有する者」にあたると解すべきである。

 したがって、会社は不統一行使を拒めないと解する。*8

 

②権利行使者が不統一行使をする義務を負うか

 

ここは、株式の共有関係をどう捉えるかにより結論が分かれます。共有関係については上述の論証と同じです。

 

【論証:権利行使者の議決権行使義務(①説)】

 株式の共有も共有の一種であるから、株式の共有の内部関係は民法の共有の規律に服する。そして、共有株式の議決権の行使は、それをもって直ちに株式を処分することになるなど特段の事情がない限り、民法252条にいう管理行為にあたり、共有持分の過半数による決定を要する。

 したがって、共有持分の過半数の決定があったときのみ、権利行使者は各共有者の指示に従い議決権行使をする義務を負うと解する。*9

 

【論証:権利行使者の議決権行使義務(②説)】

 共有者が持分に応じた議決権を行使することは、共有者が本来的に享受する権利である(民法249条参照)。したがって、共有者は本来、各自で共有持分に応じた議決権行使ができるはずであるところ、106条は会社の事務処理の便宜のために権利行使者を通じた権利行使を求めているに過ぎないと解される。

 したがって、各共有者は権利行使者に対し、自己の持分に対応する議決権については自己の指示に従って行使するよう請求する権利があり、指示がされれば権利行使者はこれに従う義務を負うと解する。*10

 

 

③権利行使者が指示に反して議決権行使をしたことは決議取消事由になるか

 

【論証:権利行使者が共有者の指示に反して議決権行使をした場合】

 判例は、権利行使者は自己の判断で株主としての権利を行使することができるとしている。これは、共有者間で権利行使者の権限を制約したとしても、そうした内部的制約をもって会社に対抗できないという趣旨であると解される。*11

 そうだとすれば、権利行使者が指示に反して議決権行使をしたとしても、決議方法に法令違反は認められず、決議取消事由は認められないとも考えられる。

 しかし、包括的代表権を有する代表取締役でさえ、悪意の相手方には内部的な権限の制約を対抗できる(349条5項)のであるから、権限について何らの規定のない権利行使者についても、権利行使者の議決権行使が共有者の指示に反していることにつき会社が悪意の場合には、会社に対して内部的制約を対抗できる、すなわち、当該議決権行使は違法となり、決議は取消事由を帯びると解すべきである。*12

 

 

①~③の問題点は当然全て論じる必要はありません。問いに応じて、会社が不統一行使を拒んだのか(①の問題)、権利行使者が共有者の指示に従わなかったのか(②,③の問題)により書き分けてください。

*1:江頭憲治郎『株式会社法[第6版]』(有斐閣、2015)等

*2:最判平成9年1月28日〈百選10〉

*3:事例p.133,134

*4:事例p.125,132,133、最判平成27年2月19日

*5:事例p.132注38

*6:事例p.125,133

*7:事例p.135、最判平成2年12月4日〈百選9〉

*8:事例p.124

*9:事例p.125、最判平成27年2月19日

*10:事例p.125

*11:最判昭和53年4月14日

*12:事例p.126