司法試験・予備試験実践論証

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【論証】刑訴1捜査⑷証拠収集Ⅰ

犯罪捜査のために証拠を収集する手段として、刑訴法は「差押え」「捜索」「検証」(218条~220条)「領置」(221条)「鑑定」(223条以下)「取調べ」(198条、223条)等を定めています。

 

ここでは、令状によって行われる捜索・差押え(検証)についてみていきます。

 

令状によって行われる捜索・差押えの適法要件は「正当な理由」(憲法35条1項)によって発せられた有効な令状の効力が及んでいること、手続が遵守されていることです。

 

「有効な」令状といえるためには、まず、「正当な理由」が認められる必要があります。「正当な理由」とは、第一に、捜査・差押えの対象とされている具体的な犯罪事実が存在する蓋然性、すなわち犯罪の嫌疑、第二に、そのような犯罪に関連する特定の証拠物等が特定の場所等に存在する蓋然性です。*1また、明らかに捜索・差押えの必要性が欠ける場合にも、令状は不適法となります(必要性・相当性を「正当な理由」の要件とする見解もあります)。

次に、捜索場所・押収物が特定、明示されていることも必要です。罪名の記載についても、219条1項は要求していますが、罰条や被疑事実を記載する必要はないのか、という点も問題になります。

 

令状の効力が「及んでいる」といえるためには、現に捜索・差押えを行った対象が令状の効力の範囲内にあることが必要です。差押えのときには、対象物の品目該当性及び関連性(公判廷における関連性とは意味が異なることに注意。論証参照)が問題となり、捜索のときには令状の場所的な効力範囲が問題となります。

 

「手続が遵守されている」といえるか否かで主に問題となるのは、令状の呈示時期です。

 

捜索・差押え時に行われた、捜索・差押え自体とは異なる行為については、捜索・差押のための行為として許容されるかが問題となります(「必要な処分」(222条1項、111条1項)、出入禁止措置(222条1項、112条)など)。

 

また、本件の捜査を行うことを目的として別件の捜査を利用する、別件捜索・差押えが許されるかも問題となります。

 

 

 

令状の有効性

「正当な理由」

 

令状発付の「正当な理由」については、捜索の関連性として「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合」(222条1項、102条2項)を検討することがあります。被疑者については明文で規定されていませんが、これは、被疑者については一般的には「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が認められるためにすぎず、明らかに証拠物等の存在する蓋然性が認められない場合には、当然に「正当な理由」を欠くことになります。*2

 

 

罪名の記載

 

 

令状に記載すべき「罪名」として、罰条や被疑事実まで記載することが必要であるかが問題となります。特に、特別法違反の場合には実務上「覚せい剤取締法違反」というように、法令名のみしか記載されないため、このような記載が適法といえるかがよく出題されます。

 

【論証:罪名の記載】

 憲法35条は、33条とは異なり「犯罪を明示する令状」であることを要求していないことから、同条は、令状に「正当な理由に基づいて発せられ」たことを明示することまで要求する趣旨ではないことは明らかである。したがって、令状に罪名を記載することは憲法35条の要請ではなく、刑訴法219条1項の要請に基づくものである。よって、罪名としていかなる程度の記載が必要であるかは同項の解釈問題といえる。

 同項により罪名の記載が要求されるのは、処分の理由とされている事件を特定することを通じて、処分の対象となる場所や物の特定に資する趣旨である。事件を特定するためには、犯罪の名称のみを示せば足り、罰条等を記載する必要性は低い。また、捜索・差押え処分は被疑者以外の者に対しても実行されることがあるので、捜査の秘密保持の必要被疑者の名誉等に配慮する必要がある。逮捕状とは異なり、「被疑事実の要旨」の記載が要求されていないのもかかる趣旨からである。

 したがって、罪名としては、犯罪の名称のみを示せば足り、罰条等の記載は不要である。*3

 

差押対象の特定・明示

 

差押えの対象は「差し押さえるべき物」(219条1項)であり、これを令状に明示する必要がありますが、令状における「差し押さえるべき物」の記載として、いかなる程度に特定されている必要があるかが問題となります。

 

【論証:「差し押さえるべき物」の特定】

 「差し押さえるべき物」(219条1項)の特定は、一般令状を禁止する憲法35条から要請されるものである。同条の趣旨は、裁判官に捜索等の対象を特定して「正当な理由」の有無の判断の確実性を担保し、捜査機関に差押え等の範囲を明示して令状執行の際の逸脱を防止し、もって「正当な理由」なき差押え等を防ぐことにある。

 したがって、「差し押さえるべき物」の記載はできる限り個別・具体的に特定してなされることが望ましい。しかし、令状発付段階では対象物の性質等が詳細に判明しておらず、具体的な記載が困難な場合もある。

そこで、判例は①「本件」すなわち被疑事実との関連性があり、かつ②具体的例示を伴っている限り、「本件に関係ありと思料せられる一切の物件」といった概括的な記載であっても「差し押さえるべき物」の特定に欠けることはないとする。もっとも、「本件」の内容が明確でなければ限定が有効でないため、物の表示が概括的である場合には、①②に加えて③罰条及び被疑事実の要旨を記載して「本件」の内容を明確にすることが必要であると解すべきである。*4

 

「一切」といっても、②の具体的例示を要求した趣旨から、差押えの対象は例示物件に準じるものに限定されます。*5

 

簡単に書くときは判例の立場でも構わないと考えられます。

 

 

捜索対象の特定・明示

 

【論証:捜索すべき場所の特定】

 令状主義が令状について捜索すべき場所の特定を要請している趣旨は、裁判官の令状審査にあたり、「正当な理由」すなわち当該場所が、被疑事実と関連性を有する物がそこに存在する蓋然性のある場所であることの判断を確保すること、及び、捜索の実施において、捜査機関による一般的捜索を防止すること、によって「正当な理由」なき捜索を防止して対象者のプライバシー等の権利・利益を保護する点にある。

 そして、このようなプライバシー等の権利・利益は基本的に管理権の単一の範囲内で認められるから、捜索対象の特定・明示は管理権の単一の範囲を基準として行われなければならないと解する。*6

 

1棟の建物であっても、居住者の異なる複数の部屋がある場合には(管理権者が異なる)、部屋単位で特定することが必要です。

 

 

次に、捜索すべき場所を「○○に所在する者の身体及び所持品」とする令状が考えられますが、このように特定の場所に存在する人一般の身体を捜索対象とすることが許されるか(捜索すべき場所が特定されているといえるのか)が問題となります。

 

【論証:捜索すべき場所の特定-身体-】

 捜索場所を「○○に在所する者の身体及び所持品」とする令状は有効か。捜索すべき場所の特定性に欠けるとして令状主義(憲法35条1項)に反しないかが問題となる。

 令状主義が令状について捜索すべき場所の特定を要請している趣旨は、裁判官の令状審査にあたり、「正当な理由」すなわち当該場所が、被疑事実と関連性を有する物がそこに存在する蓋然性のある場所であることの判断を確保すること、及び、捜索の実施において、捜査機関による一般的捜索を防止すること、によって「正当な理由」なき捜索を防止して対象者のプライバシー等の権利・利益を保護する点にある。

 そうだとすれば、捜索場所を「○○に在所する者の身体及び所持品」という記載では、令状裁判官が「正当な理由」の有無を判断することができないため、原則としてかかる記載は許されない。

 もっとも、例外的に、その場所にいるすべての者が押収目的物を所持している蓋然性が認められる場合には、令状審査が可能であるから、かかる記載も特定性に欠けるとはいえない。*7

 

 

令状の効力範囲

差押えの範囲

 

差押えの範囲は、差押え時には捜査官にとって対象物が被疑事実と関連する(証拠価値を有する)ように見えたが、事後的に被疑事実とは全く関連のない物件であったことが発覚したような場合に問題となります。このような物件は「差し押さえるべき物」にあたらないため、差押えが違法になるのではないか、ということです。

 

【論証:差押えの範囲(「差し押さえるべき物」該当性)】

 差押令状によって差押えできる物は、令状に記載された「差し押さえるべき物」に該当するものに限られる。ここで、「差し押さえるべき物」に該当すると認められるためには、①令状に明記された物件(品目)に該当し、かつ②被疑事実との関連性を有することが必要であると解する。

 ②の関連性が認められる物件を、現実に被疑事実と関連する(証拠価値を有する)物件に限定する見解もあるが、捜索は捜査の初期段階で行われることが多く、捜査の流動性を考慮すべきであること、捜査機関は被疑事実と関連する可能性のある物を広く差押え、分析を行う必要があること、関連性の判断は捜索の現場で行われるところ、厳格かつ客観的なものを要求すべきでないことから、差押えの際に要求される関連性とは、公判立証段階における関連性とは異なり、当該物件が被疑事実と関連する蓋然性として理解すべきである。99条1項が「思料する」としているのもかかる趣旨である。

 もっとも、差押えの関連性は令状主義を定める憲法35条から要請されるものであるから、上記の蓋然性は外部的事情から合理的に推認されたものである必要がある。*8

 

したがって、事後的に被疑事実に関連しないことが発覚した物件であっても、被疑事実と関連する蓋然性が認められるならば、「差し押さえるべき物」にあたり、差押えも適法となるのです。

 

もっとも、捜査官による蓋然性判断は合理的に行われなければなりません(包括的差押えの論証参照)。

 

 

判例は、可視性・可読性のない物について、内容を確認することなく差し押さえる(これを差押えにあたるとするかについても見解は分かれますが)ことも一定の場合には適法となるとしました。*9この判例については学説上でも理解が非常に多岐にわたっており、また、「関連性」の理解とも絡んで難解な問題となっています。

 

ここでは、私が個人的に最も納得できた見解を採用しています。他の見解で答案作成をすることも十分に可能です。

 

【論証:包括的差押え】

 フロッピーディスク(以下FD)の内容を確認せずに差し押さえた行為は適法か。

 まず、差押令状によって差押えできる物は、令状に記載された「差し押さえるべき物」に該当するものに限られる。ここで、「差し押さえるべき物」に該当すると認められるためには、①令状に明記された物件(品目)に該当し、かつ②被疑事実との関連性を有することが必要であると解する。

 本件FDは「差し押さえるべき物」に明示された「FD」に該当する(①)。

 ②の関連性を有する物件につき、被疑事実と関連する(証拠価値を有する)物件に限定する見解もある。この見解からは、内容を確認して関連性の有無を判断せずに差し押さえることはできず、FDの持ち去りは、他所で関連性の有無を判断するために行われる差押えに付随する「必要な処分」としてのみ許容されることになる。

 しかし、かく解しては処分に対する不服申し立てが困難であり、かえって被処分者の権利保護に欠ける。また、当該物件が被疑事実と関連するか否かの判断には長期間を要することもあり、かかる長期間の占有侵奪を「差押え」でないとするのは無理がある。

 捜索は捜査の初期段階で行われることが多く、捜査の流動性を考慮すべきであること、捜査機関は被疑事実と関連する可能性のある物を広く差押え、分析を行う必要があること、関連性の判断は捜索の現場で行われるところ、厳格かつ客観的なものを要求すべきでないことから、差押えの際に要求される関連性とは、公判立証段階における関連性とは異なり、当該物件が被疑事実と関連する蓋然性として理解すべきである。99条1項が「思料する」としているのもかかる趣旨である。

 もっとも、差押えの関連性は令状主義を定める憲法35条から要請されるものであるから、上記の蓋然性は外部的事情から合理的に推認されたものである必要がある。

 可視性、可読性のないFDの差押えについては、外部的事情から関連性があると一応推認されたとしても、内容を確認すれば直ちに被疑事実と関連する可能性がないものであることが認識できる場合には、内容を確認せずに関連性があると判断することは合理的な推認とはいえず、関連性要件を満たさないと解すべきである。

 したがって、内容を確認することが困難といえる事情がある場合には、外部的事情のみから関連性があると推認することも合理的といえ、関連性要件を満たすと解する。*10

 

この立場からは、判例の事案のように情報の損壊の危険がある場合だけでなく、内容の確認に長時間がかかる場合、確認が技術的に困難である場合などにも関連性が認められる余地があることになります。

 

この論証は、関連性について、あてはめの中で論じていますが、上記の【論証:差押えの範囲】を用いて、それにあてはめを行うという形でももちろん良いです。

 

 

捜索の範囲

 

上記のように捜索すべき場所は管理権の単一の範囲を基準として特定されていますから、捜索の範囲も令状に記載された場所と同一の管理権に属する範囲で画されることになります。

 

【論証:捜索令状の効力範囲】

 令状主義の趣旨は、対象となる場所や物について捜索・押収を行う根拠(「正当な理由」(憲法35条))をあらかじめ裁判官に確認させ、場所や目的物を令状に明示させて、捜査機関の恣意や裁量の濫用・逸脱による不当な権利侵害の余地を封じようとするものである。

 この趣旨に照らすと、裁判官は住居の平穏やプライバシーの侵害を正当化する理由が存在することを確認するものであるから、令状の効力が及ぶ対象の限界は、住居の管理権を単位として判断されると解すべきである。*11

 

 

これが基本となる考え方ですが、場所に対する令状で物、身体の捜索をすることが許されるのか、という問題も生じてきます。

 

【論証:場所に対する令状に基づく物の捜索】

 【論証:捜索令状の効力範囲】

 そして、「場所」について保護されるべき利益とは、住居の管理権の及ぶ範囲における居住者等の定常的利用者のプライバシー等に係る権利・利益の総体であるところ、居住者等の定常的利用者が当該「場所」で通常利用する物は、住居の管理権に属するため、当該物についてのプライバシーの権利等は「場所」の権利・利益に包摂されているといえる。

 したがって、かかる物については、裁判官の令状審査が及んでおり、「場所」に対する令状で捜索を行うことができる。

 もっとも、ある物に被疑者以外の者の排他的支配が及んでおり、令状の名宛人の管理権とは別個の保護に値するプライバシーの権利等が特に認められる場合には、その物についてのプライバシーの権利等は「場所」の権利・利益に包摂されているとはいえず、「場所」に対する令状での捜索は許されないと解する。*12

 

定常的利用者でない第三者の物については管理権の単一の範囲外であるので、原則として令状の効力は及びません。論証の立場では、同居している者などが第三者にあたらず、このような者の権利・利益は定常的利用者のそれとして場所の管理権に包摂されることに注意してください。*13

 

三者の物でっても、後述する身体への捜索が許容される場合のような場合には、「必要な処分」として捜索が許容されます。この場合の論証は【論証:場所に対する令状に基づく身体の捜索】の第2段落と同様です。

 

令状の効力が及ぶ物について、当該物件が床に置かれているか何者かの手に持たれていたかは偶然の事情にすぎないので、当然いずれであっても令状の効力が及ぶことには変わりがなく、捜索が許されます。*14

 

 

【論証:場所に対する令状に基づく身体の捜索】

 人の「身体」についてのプライバシー等の権利利益は「場所」についてのそれとは異質であり、前者の方がより重要性が高いのであるから、「身体」についての権利利益が「場所」についてのそれに包摂され、一体化しているということはできない。したがって、原則として「場所」に対する令状によって人の「身体」を捜索することは許されない。

 もっとも、捜索場所にいる者が差押対象物を隠匿したと疑われる十分な状況がある場合には、本来行えたはずの捜索・差押え処分に対する妨害行為を排除する(ないし原状回復する)ための付随的措置「必要な処分」(222条1項本文前段、111条1項))として、その者の身体の捜索を行うことも許されると解する。*15

 

東京高判平成6年5月11日は、「場所に対する捜索差押許可状の効力は、当該捜索すべき場所に現存する者が当該差し押さえるべき物をその着衣・身体に隠匿所持していると疑うに足りる相当な理由があり、…差押えを有効に実現するためにはその者の着衣・身体を捜索する必要が認められる具体的な状況の下においては、その者の着衣・身体にも及ぶ」として、「必要な処分」説でなく、場所概念拡張説をとっています(場所の概念が人の身体にまで拡張される=令状の本来的な効力として身体の捜索が許容される)。しかし、隠匿所持の疑いという事実のみによって場所のプライバシーと身体のそれとの間の利益の異質性が解消されるわけではありませんから、この見解は妥当でないと考えられます。*16

 

「必要な処分」説をとった場合(論証の立場)には、「必要な処分」によって排除する必要のあるほどの妨害行為が認められなければなりませんから、隠匿所持している疑いがある、だけでは足りず、疑いが「十分に」認められる必要があります。*17

 

また、このような捜索は本体的処分に付随する処分として行うことができるにとどまるので、本体的処分にあたるような処分はできません。すなわち、捜索の被処分者、あるいは妨害行為者の権利・利益とはまったく別個の権利・利益を新たに侵害することになるような措置は「必要な処分」の限度を超え、許されないことになります。*18したがって、捜索場所にいた者が差押え目的物を隣家の庭に投げ込んだような場合にも、隣家の庭に立ち入って差し押さえることは許されません。

これは慶應大学法科大学院の平成30年度入試問題でも問われた論点です。

 

 

令状の効力範囲としては、時間的範囲も問題となり得ます。令状の執行着手前、あるいは執行中に搬入された物について令状による捜索が可能か否かという問題です。

 

まずは令状審査後、執行着手前に搬入された物についてです。

 

【論証:令状の効力の時間的範囲】

 令状の効力範囲は、令状審査の時点に固定され、令状の効力が及ぶのはその時点に捜索場所に存在した物に限られるとも考えられる。

 しかし、令状審査の判断は、その場所において目的物を捜索し押収する「正当な理由」があるか否かの判断であるから、捜索の時点においてその場所に目的物が存在する蓋然性があるという判断である。そして、令状には一般に有効期間が定められるところ、この期間内であればいつ執行するかについては捜査機関の裁量にゆだねられているといえる。

 したがって、令状審査後に搬入された物であっても、少なくとも執行着手時点において捜索場所に存在する物については令状の効力が及ぶと解する。*19

 

逆に、執行前に搬出された物については令状の効力は及ばないことになります。

 

 

次に、令状の執行中に搬入された物についてです。

 

【論証:令状執行中に搬入された物】

 【論証:令状の効力の時間的範囲】

 もっとも、令状執行開始の時点で捜索場所の管理状態は固定されそれ以降に搬入された物については令状の効力は及ばないとも考えられる。

 しかし、執行終了まではいつでも当該場所全体について捜索ができるのであるから、執行開始の時点で管理状態が固定されると解するのは困難である。そして、令状の名宛人自身が荷物を自己の支配下に置き、所持・管理するに至った場合には、当該荷物も場所に持ち込まれたといえるから、当該荷物にも場所に対する令状の効力が及び、これに対する捜索も許されると解する。*20

 

令状の名宛人が荷物の受領を拒否した場合については、判例の射程外です。この場合にも捜査機関が代わって受領したとすれば事実上捜索すべき場所に持ち込まれたことになるとして、令状の効力が及ぶとする見解*21もありますが、名宛人にその物に対する管理の意思がないと認定できるのであれば、管理権が及ぶとするのは困難であるので、当該物の捜索・差押えには別途令状が必要と解されます。*22

 

 

令状執行手続

 

執行手続きとして重要なのは、令状の呈示(222条1項、110条)です。 特に、執行着手後に令状を提示した場合に適法な捜索・差押えといえるかが問題となります。

 

【論証:令状の呈示時期】

 捜索にあたり、「処分を受ける者」に令状を呈示することが要求される(222条1項本文前段、110条)趣旨は、手続の公正を担保することと対象者の人権に配慮することにある。

 かかる趣旨に照らせば、原則として令状呈示は令状の執行に着手するに行われる必要がある。しかし、捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないときには、短時分の令状執行が先行しても許容される場合があると解するべきである。*23

 

呈示前の令状執行の必要性が高いこと、不必要な遅延がないか否かが考慮要素となります。

 

被処分者の行為によって令状呈示が不可能になった場合には、呈示を受ける権利の放棄とみることができ、令状呈示そのものが不要となります。

 

 

捜索・差押え時に行われる行為

「必要な処分」

 

窓の破壊、欺罔的手段、有形力の行使など、捜査のために捜査機関は様々な行為を行います。これらの手段の適法性は「必要な処分」として許容されるかにより判断します。

 

【論証:「必要な処分」】

 捜索差押令状の執行にあたっては、その目的を達すため、「必要な処分」(222条1項本文前段、111条1項)をすることができる。かかる処分は、捜索・差押えという本体的処分に伴う付随的行為として裁判官も包括的に許可していると解されることから、本体的処分と一体のものとして当然に認められるものである。

 したがって、本体的処分と一体とは評価できないような態様の処分については、同項に基づいて行うことは許されない。

 また、「必要な処分」は、捜査比例の原則から、捜索・差押えの目的実現に必要かつ相当な限度にとどめられなければならない。具体的には、当該措置を行う具体的必要性とそれにより侵害される権利利益等を総合的に衡量して当該措置が「必要な処分」として許容されるかを判断すべきである。*24

 

 

写真撮影

 

捜索・差押え時には、写真撮影が行われることがあります。写真撮影は「検証」たる性質を有するため、これを検証令状なく行うことが許されるのかが問題となります。

 

【論証:捜索・差押え時の写真撮影】

 【論証:強制処分】 

 強制的に捜索場所や対象物の写真を撮影することは、対象者の意思に反してその私的領域におけるプライバシーの合理的期待を著しく害する行為であるから、強制処分にあたる。

 「検証」(218条)とは、一定の場所・物・人の身体につき、その存在や形状・状態・性質等を五官の作用によって認識する行為を強制的に行う処分をいう。そして、カメラを通すとはいえ、写真撮影も上記のような認識行為といえるから、対象を強制的に写真撮影することは検証たる性質を有するものといえる。そうだとすれば、捜索・差押え時の写真撮影は強制処分である検証にあたるといえ、強制処分法定主義には反しないが、これを無令状で行うことは令状主義に反するため許されないとも考えられる。

 しかし、捜索・差押え時には捜索場所や対象物を目視によって確認することは必要不可欠であるが、そのような行為も検証たる性質を有するところ、これは新たな法益侵害をもたらすものではないため、令状の効力として当然になし得る行為である。したがって、当該令状の効力として許される範囲の行為については、後に記録して保存する必要性がある限りにおいて、写真撮影によって記録することも捜索差押え手続きに付随する処分として同様に許されると解すべきである。

 たとえば、手続の適法性を担保するために執行状況を撮影すること、証拠価値を保存するために発見された場所・状態においてその物を撮影することは許容される。一方、差し押さえるべき物にあたらない対象物を殊更に撮影することは別途検証令状が必要である。*25

 

許容されるのは、たとえば、以下の場合に限られません。令状の効力として許される範囲の行為といえるか(新たな法益侵害があるか)、写真として保存する必要性があるかが判断基準です。

 

 

違法な写真撮影が行われた場合に、これを準抗告で争えるかが問題になります。

 

【論証:違法な写真撮影に対する準抗告の可否】

 では、違法な撮影が行われた場合、準抗告で争うことができるか。

 捜索差押許可状の執行に際して行われた写真撮影が準抗告の対象となるためには、それが「押収…に関する処分」にあたる必要がある。しかし、写真撮影は上記のように検証たる性質を有するのであるから、「押収…に関する処分」にはあたらない。したがって、写真撮影は原則として準抗告の対象とならない。もっとも、写真撮影することが実質的ないし価値的にみて当該対象物件を差し押さえるのに等しいといえる場合には、「押収…に関する処分」に準ずるもの(あたる)として、準抗告の対象となると解する。*26

 

このように実質的に準抗告の可否を判断する見解に対しては、基準としてあいまいであるという批判があります。いずれの説をとっても構わないと考えます。

 

 

別件捜索・差押え

 

捜索・差押えにおいても、別件を利用して本件の捜査を行うことが許されるのか、という別件逮捕と同様の問題があります。

 

ここでも別件基準説と本件基準説が対立しています。どちらの説をとっても構わないと考えられますが、論証では本件基準説を採用しました。

 

【論証:別件捜索・差押え】

 本件についての証拠を発見・収集する目的で、捜索・差押えの理由・必要性の欠けたないし乏しい事件の捜索・差押えの手続を行うことは、本件に関する司法審査を欠く点で令状主義に反するといえ、本件のために別件の捜索・差押え権限を利用する点で捜索・差押え権限の濫用であるため、違法となると解する。

 もっとも、本件についての証拠を発見・収集する目的で行われたか否かは捜査機関の主観の問題であり、容易に認定することはできないから、諸般の客観的事情から推認することになる。具体的には、別件についての捜索・差押えの必要性差押物の別件との関連性、別件と本件の重要性(別件が起訴されたか、重大事件か)、捜索・差押えの態様(本件捜索にかけた時間、綿密な捜索、本件の証拠収集完了後の捜索継続)等を考慮して判断する。*27

 

 

 

*1:酒巻匡「刑事手続法の諸問題⑼令状による捜索・差押え⑴」法学教室293号(2005)p.81

*2:前掲酒巻p.82

*3:最決昭和33年7月29日〈百選A5〉、最判解刑事篇昭和33年度p.555、酒巻匡「刑事手続法を学ぶ7捜査手続⑹捜索・押収(続)」法学教室363号(2010)p.56,57

*4:前掲百選A5、リークエp.124~126

*5:リークエp.126

*6:古江p.102、リークエp.126

*7:古江p.102,103

*8:石山宏樹「捜査段階における差押えの関連性について―最決平成10年5月1日刑集52巻4号275頁を中心に―」東京大学法科大学院ローレビュー2014年10月9巻p.120~131

*9:最決平成10年5月1日〈百選22〉

*10:前掲石山

*11:最決平成6年9月8日〈百選19〉、最決平成19年2月8日〈百選20〉、大久保隆志・百選20解説

*12:前掲最決平成6年9月8日、原田和往・同百選解説

*13:プライバシーの帰属主体が同一である限度にしか令状の効力が及ばないとする見解からは、定常的利用者も第三者とされます。(緑大輔『刑事訴訟法入門』(日本評論社、2012年)p.72)

*14:井上正仁『強制捜査と任意捜査[新版]』(有斐閣、2014年)p.318

*15:リークエp.132

*16:古江p.110,111、川出敏裕・百選[第7版]p.49

*17:古江p.112

*18:古江p.112、井上正仁「場所に対する捜索令状と人の身体・所持品の捜索」『松尾浩也先生古稀祝賀論文集(下)』(有斐閣、1999年)p.178,184

*19:前掲大久保百選解説

*20:前掲最決平成19年2月8日、前掲大久保百選解説

*21:入江猛・最判解刑事篇平成19年度p.10

*22:前掲大久保百選解説

*23:リークエp.127,128

*24:リークエp.128,129

*25:リークエp.135,147、上冨敏伸・百選32解説

*26:最決平成2年6月27日〈百選32〉、リークエp.135,136、後藤昭「捜索差押の際の写真撮影」法時58巻7号p.98、前掲上冨敏伸・百選解説

*27:リークエp.134、広島高判昭和56年11月26日