司法試験・予備試験実践論証

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【論証】刑訴1捜査⑸被疑者の防御

この分野において論文で出題可能性が高いのは接見交通権だと考えられます。ここでは、秘密交通権、面会接見、接見指定について検討します。

 

 

秘密交通権

 

39条1項は、被疑者に弁護人等と立会人なく接見することを認めています(秘密交通権)。したがって、検察官等が接見に立ち会った場合には原則として違法となります(例外的に後述の面会接見においては立会いが許されます。)。問題となるのは、検察官等が立会いこそしなかったものの、取調べで被疑者に対して接見内容を聴取することが許されるか否かです。

 

【論証:秘密交通権】

 PがAから弁護士Xとの接見内容を聴取したことは適法か。

 39条1項は憲法34条の弁護人依頼権の保障に由来する規定であり、弁護人と被疑者等が立会人なく接見できるという秘密交通権を定めている。かかる秘密交通権の趣旨は、接見の内容が捜査機関に知られてしまえば被疑者等と弁護人との意思疎通に萎縮効果が生じうるところ、かかる萎縮効果を生じさせることなく、自由な意思疎通を図ることによって、被疑者等が弁護人から有効かつ適切な助言を得られるようにする点にある。そして、かかる趣旨からすれば、秘密交通権は「立会人なくして」という文言を超えて、接見終了後においても接見内容を知られない権利まで保障していると解すべきである。

 そして、捜査権との調和の観点から一定の制約がありうるとしても、捜査機関は39条1項の趣旨を損なうような接見内容の聴取を控えるべき義務を負い、原則として弁護人との接見における供述について聴取することは禁止されており、かかる義務に違反して行われた聴取は違法となると解する。*1

 

報道機関により公表された事実について聴取した場合には、かかる事実は秘密性を消失していたといえるから、当該事実の有無を確認したことは萎縮効果をもたらすとはいえず、義務違反は認められません。

 

弁護人に対して捜査機関に対する供述と異なる供述をした理由について尋ねた場合についても、Aと弁護人の意思疎通の内容自体を尋ねたわけではないから、適法といえます。

 

殺意を認めると罪が重くなるというのは弁護人から言われて分かったことかと確認した場合、「死んだと思った」という供述が虚偽であると弁護人に伝えているかを確認した場合については、いまだ秘密性の消失していない意思疎通の過程を聴取するものであるから、39条1項の趣旨を損なうような聴取を控えるべき義務に違反したといえ、かかる聴取は違法となります。

 

 

面会接見

 

【論証:面会接見】

 接見交通権は憲法34条の弁護人依頼権に由来する被疑者の重要な権利ではあるが、接見交通権が身体拘束の存在を前提に認められるものである以上、被疑者の逃亡・罪証隠滅や戒護上の支障発生の防止といった観点からの制約がある。

 そこで、立会人なしの接見を認めても被疑者の逃亡・罪証隠滅や戒護上の支障発生を防止できるような設備のある部屋等検察庁舎内に存在しない(部屋等の存在に容易に思い至らない)場合には、検察官が接見を拒否することが許されると解する。

かかる場合であってもなお弁護人が即時の接見を求め、その必要性が認められる場合には、検察官は秘密交通権が十分に保障されないような態様の短時間の接見(面会接見)でもよいか弁護人の意向を確かめ、異存がなければそのような面会接見ができるよう特別の配慮をすべき義務を負うと解する。*2

 

立会人なしの接見を認めても被疑者の逃亡・罪証隠滅や戒護上の支障発生を防止できるような設備のある部屋があるといえるためには、検察官にそのような部屋であると容易に判断できるものである必要があります。*3

 

被疑事件の捜査を担当する検察官等が立ち会うことは直ちに違法とはいえませんが、そのような事態はできる限り避けるべきであり、検察官がそのような事態を避けるために必要な配慮を怠った場合には違法になり得ます。*4

 

 

接見指定

 

接見交通権(秘密交通権)は無制限に保障されるものではなく、捜査の必要との関係で制約に服することがあります。特に重要なのが捜査機関の行う接見指定(39条3項)です。接見指定の適法性審査はまず要件該当性(39条3項本文)審査、次に、指定内容(39条3項但書)審査と二段階で進んでいきます。

 

 

要件該当性

 

「捜査の必要があるとき」

 

【論証:接見指定 「捜査のため必要があるとき」】

 接見指定が認められる趣旨は、捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る点にあるところ、接見交通権は憲法34条の弁護人依頼権に由来する被疑者の重要な権利であるから、「捜査のため必要があるとき」(39条3項本文)とは、弁護士等の申出に沿った接見等を認めると捜査に顕著な支障が生ずる場合に限定されるものと解する。そして、現に被疑者を取調べ中である場合や、間近い時に被疑者の身柄を利用する取調べ等を行う確実な予定がある場合などは原則として捜査に顕著な支障が生じる場合にあたる。*5

 

現に取調べ中、間近い確実な予定がある場合であっても、「原則として」捜査のために必要があるときにあたるに過ぎないことに注意してください。このような場合であっても、捜査に顕著な支障が生じないときには要件を充足しません。あてはめでしっかり認定するようにしてください。

 

捜査の必要について、接見指定の根拠が被疑者の身体を直接利用した捜査の必要との調整にあることから、罪証隠滅のおそれ等による捜査への支障がある場合は含まれず、取調べ等の被疑者の身体を直接利用した捜査の必要に限られると解されます。*6

 

 

「公訴の提起前に限り」

 

「公訴の提起前に限り」という要件については、通常の被疑者の場合は単純に当てはめれば足ります。この要件が問題になるのは、被疑者が被告人でもある場合です。

 

【論証:接見指定 「公訴の提起前に限り」】

 被疑者が他の事件で起訴されており、被告人たる地位をも有している場合には、「公訴の提起前」とはいえないため、接見指定を行うことが許されないのではないか。

 まず、公訴提起後の被告事件についての接見交通権が絶対的に保障されることから、被告人の地位と抵触する接見指定権の行使を許さないとする見解もある。しかし、接見交通権は身体拘束を前提とすることから、被告人が余罪である被疑事件で逮捕・勾留されていることは必要であるとしても、そのような場合には、被告人は身体拘束された被疑者としての地位にもある以上、余罪捜査の必要があるといえ、接見指定が一切認められないとすべきではない。

 したがって、「公訴の提起前」という要件は満たす。

 そして、被疑者の身柄の現実的な必要性から接見指定がなされるのであるから、接見指定の効果は被疑事件についての接見交通権のみならず、被告事件についての接見交通権に対しても及ぶ。(したがって、被疑事件の弁護人等とはなっていない被告事件のみの弁護人等に対しても接見指定をすることができる。)()内は被告事件のみの弁護人の場合

 もっとも、公訴提起後の被告人は当事者たる地位を有し、その防禦の準備の機会は十分に保障される必要があるから、検察官は接見指定をすることができるとしても、その接見指定は「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなもの」(39条3項但書)であってはならないだけではなく、被告事件について防御権の不当な制限にわたらない場合にのみ許されると解すべきである。*7

 

判例が加重した、被告事件について防御権の不当な制限にわたらない、という要件は、指定の内容についての要件であることから、39条3項但書の要件に一層の枠付けをしたものと理解されます。*8

 

被告人の当事者たる地位から、被告事件について防御権の不当な制限にわたらないといえるためには、余罪である被疑事件について被告人の身柄を利用した捜査を行う緊急の必要性が現実に極めて高いなどのよほどの理由がなければなりません。*9

 

 

指定内容

 

上記の要件を充足した場合には接見指定を行うこと自体は許されますが、その場合であっても、指定内容が不当なものであっては違法となります。このように指定内容を規律するのが39条3項但書の「その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない」という定めです。

 

基本的には、捜査の顕著な支障が生じるのを避けるために必要かつ合理的な内容といえるか否かを審査します。*10

 

この要件が特に問題となるのは、初回接見の場合です。

 

【論証:接見指定 指定内容(初回接見)】

 【論証:接見指定 「捜査のために必要があるとき」「公訴の提起前に限り」】

 したがって、接見指定の要件は満たす。もっとも、要件を満たす場合であっても、接見指定の内容は「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない」(39条3項但書)。そこで、接見指定が同項但書に反して違法となるのではないか。

 そして、弁護人となろうとする者との初回の接見は、弁護人の選任を目的とし、助言を得るための最初の機会であって、憲法上の保障の出発点をなすものであり、被疑者にとっては特に重要である。そこで、初回の接見においては、接見指定の要件が具備された場合でも、捜査機関は、弁護人と協議して、即時または近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生ずるのを避けることが可能かどうか検討し、これが可能なときは、特段の事情のない限り、比較的短時間ではあっても、時間を指定した上で即時または近接した時点での接見を認めるべき義務を負い、かかる義務を果たしていない場合には、同項但書に反すると解する。*11

 

たとえば、重大事件につき被疑者が自白を始めた場合などは、初回接見であっても供述調書作成まで接見開始を遅らせることが許されるとする見解もあります。*12しかし、このような場合はまさに弁護人の助言が必要とされる場合といえます。また、弁護人等から助言を受けることで被疑者の供述が変わってしまうのを防止したいという事情を初回接見の必要性より優先させることは判例の趣旨に反するといえます。*13したがって、このような場合に即時または近接した時点での接見を認めないことは但書に反すると考えられます。*14

 

 

*1:福岡高決平成23・7・1〈百選36〉

*2:リークエp.193、最判平成17年4月19日〈百選A11〉

*3:前掲最判平成17年4月19日

*4:広島高判平成24年2月22日

*5:リークエp.196~198、最判平成11年3月24日〈百選33〉

*6:リークエp.197

*7:最決昭和55年4月28日〈百選35〉、()について最決平成13年2月7日

*8:高倉新喜・百選35解説

*9:高倉新喜・百選35解説、井上正仁「起訴後の余罪捜査と接見指定」研修450号(1985年)p.11

*10:リークエp.200

*11:最判平成12年6月13日〈百選34〉

*12:山本和昭「初回接見の申出に対する捜査機関の指定が違法とされた事例」現代刑事法26号p.95

*13:川出敏裕・百選[第8版]p.78

*14:宮村啓太・百選34解説