司法試験・予備試験実践論証

予備試験合格・司法試験総合42位合格者作成の論証集。予備校講座の一歩先へ。

【論証】刑法総論2違法性⑴正当防衛

正当防衛の要件は、①侵害の急迫性②侵害の不正性(①②は「急迫不正の侵害」にあたるかの要件)③反撃行為性(「…に対して」)④自己又は他人の権利を防衛する行為であること(「自己又は他人の権利を防衛するため」)⑤防衛行為としての正当性(「やむを得ずにした」)の5つです。*1もちろんほかの整理の仕方もあるとは思われますが、ここでは上記の整理の下で解説します。

 

答案では、④をさらに展開して、「自己又は他人の権利」と「防衛するため」に分断し、後者の中で防衛効果、防衛意思の要否を書くこともできます。

 

上記の要件の下で、侵害の急迫性(①)、対物防衛(②)、反撃結果が第三者に生じた場合(③(正当防衛の範囲を超えますが))、防衛効果の要否・防衛の意思(④)、防衛行為の必要性・相当性(⑤)などが問題となります。また、各要件の前提として、緊急行為性が必要となりますが、これを失わせしめ得るものとして自招侵害の問題があります。

 

自招侵害については、正当防衛の要件該当性を否定する見解もありますが、判例は36条の各要件該当性の検討をする前段階で「反撃に出ることが正当とされる状況」を否定しているので、上記のように各要件の前提としての緊急行為性を否定したとみてよいでしょう。*2

 

さらに、急迫不正の侵害が存在しているときに対抗行為を開始したが、それを必要以上に継続した場合には、行為の一体性が問題となります。

 

 

 

侵害の急迫性

 

ここでは、侵害を予期していながら対抗行為を行った場合、侵害の急迫性が認められないのではないかが問題となります。このような事例を意図的自招事例と呼ぶこともあります。

 

【論証:侵害の急迫性】

 刑法36条の趣旨は急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容する点にある。そうだとすれば、同条が急迫性を要件としているのも、上記のような緊急状況であることを要求する趣旨であり、予期された侵害を避けるべき義務を課する趣旨ではないから、侵害を確実に予期していたとしても直ちに急迫性が失われると解するのは妥当でなく、対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきである。

 具体的には、行為者と相手方との従前の関係予期された侵害の内容、侵害の予期の程度侵害回避の容易性侵害場所に出向く必要性侵害場所にとどまる相当性対抗行為の準備の状況(特に、凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等)、実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮して、上記の36条の趣旨に照らし、対抗行為として許容されるものとはいえない場合には急迫性が否定されると解する。*3

 

従来は予期+積極的加害意思によって急迫性が否定されるという理解が一般的でしたが、最決平成29年4月26日判例によって、予期+積極的加害意思が認められる場合は急迫性が否定される一つの場合にすぎないという理解が示されました。最高裁判例が出た以上、一般論としてはこの判例に則って記述することが望ましいと考えられます。ただし、以前までの通説のように積極的加害意思が必要として、積極的加害意思の認定において上記のような要素を考慮することも答案上許容されるとは思われます。

 

考慮要素に関しては全て答案に記載する必要はないと考えられます。イメージは持っておいた上で、答案上は問題文から事実を抽出、抽象化してあてはめと対応するように書けば十分でしょう。

 

 

対物防衛

 

物・動物による侵害は、「不正」とはいえないのではないかが問題となります。ただし、犬に襲われた事例を例にとると、犬が野良犬であった場合にこの犬に対する攻撃は何らの構成要件に該当しません(少なくとも刑法典上は)から、そもそも正当防衛の話になりません。また、飼い犬であった場合、器物損壊罪の構成要件に該当しますから、正当防衛の成否が問題となりますが、犬による侵害について飼い主に故意又は過失が認められる場合には、飼い犬に対してではなく、飼い主に対する正当防衛となるため、やはり対物防衛の問題にはなりません。

したがって、対物防衛が問題となるのは、飼い犬が飼い主の故意過失なく侵害を行った場合に限られます。

 

【論証:対物防衛】

 ここで、「不正な侵害」とは、「違法」な行為、すなわち規範違反の行為であるところ、人間以外の物には規範は向けられていないため、物による侵害は規範に違反する意思を欠くから、「不正の侵害」たり得ず、対物防衛は認められないとする見解もある。

 しかし、物による侵害の背後に人間の故意・過失が存在するときは正当防衛が可能であるのにそうでないときには緊急避難しか認めないのは、被侵害者の保護に欠け、妥当でない。

 そこで、「不正」とは、犯罪成立要件としての「違法」とは異なり正当防衛が許されるか否かという見地から判断されるものと解すべきである。そして、物による侵害も被侵害者の法益を侵害するものであるから、「不正」の侵害に該当すると解する。*4

 

 

反撃結果が第三者に生じた場合

 

反撃結果が第三者に生じた場合に正当防衛が成立するのか、成立しないとしても、なんらかの法律構成によって反撃者が罪責を負わないと解することはできないかが問題となります。

 

ここは、緊急避難及び誤想防衛の理解が必要となるので、関連記事を参照してください。

 

この論点は令和元年の司法試験でも出題されているので、重要です。

 

【論証:反撃結果が第三者に生じた場合】

 不正な侵害を全く行っていない第三者の正当な法益の侵害を正当防衛とするのは妥当でない。そこで、第三者に危険を転嫁したことによって危難を回避したことを根拠に緊急避難が成立し得るとする見解がある。

 しかし、緊急避難の成立には、避難行為者と危難を転嫁される第三者との間に利益衝突状況(危難を受忍するか転嫁するかという二者択一状況)が存在することが前提となるところ、このような場合には利益衝突状況は認められないため、緊急避難の成立は困難である。

 したがって、Xの行為の違法性が阻却されることはない。

 もっとも、Xは主観的には正当防衛だと認識して行為しているため、誤想防衛の一種として責任故意が阻却されないか。

 【論証:誤想防衛】(場合によっては誤想過剰防衛)

 したがって、責任故意が阻却され、過失がある場合には過失犯が成立するにとどまると解する。*5

 

 

防衛効果の要否

 

【論証:防衛効果の要否】

 現実の防衛効果が発生しない限り正当防衛が認められないとすると、防衛行為の失敗を恐れて防衛行為に出ること自体を萎縮させることになり妥当でないため、現実の防衛効果が発生することまでは必要でないと解する。*6

 

論じるとしてもあっさりこのくらいで足りるでしょう。

 

 

防衛の意思

 

結果無価値論の立場から、防衛の意思不要説も有力ですが、判例は一貫して防衛の意思必要説を採用しているので、必要説でよいでしょう。

 

【論証:防衛の意思】

 刑法36条は急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関に保護を求めることが期待できないときに、私人の対抗行為を例外的に許容するものであるが、かかる緊急状況で対抗行為が許容され、違法性が阻却されるのは、対抗行為に社会的相当性が認められるためである。そして、行為者の主観も行為の社会的相当性に影響すること、条文が防衛する「ため」という文言を用いていること、防衛の意思を不要とすると、偶然防衛、口実防衛の場合に正当防衛が成立し得てしまい、妥当でないことから、防衛の意思は必要であると解すべきである。

 もっとも、防衛行為は緊急状況の下で反射的・本能的に行われることも多いから、防衛の意思の内容としては、急迫不正の侵害を認識しつつ侵害を避けようとする単純な心理状態をいうと解する。したがって、憤激又は逆上していたとしても、攻撃の意思と併存していたとしても、専ら攻撃の意思で行われたのではなく、上記の防衛の意思が存在する限り、防衛の意思は否定されないと解する。*7

 

防衛の意思は、客観的事実を認定し、そこから行為者の主観を推認するという方法により認定されることが多いです。

この際、防衛行為者と相手方との従前の関係、相手方の侵害の態様・程度、侵害を避けるための他の選択肢防衛行為の態様、防衛行為者の行為中・前後の言動等が重視されます。*8

 

口実防衛とは、相手方からの侵害があった場合に、この機会に相手方を攻撃しようと専ら攻撃の意思で反撃を行う場合のことをいいます。

 

 

防衛行為の必要性・相当性

 

【論証:防衛行為の必要性・相当性】

 「やむを得ずにした行為」とは、反撃行為が、防衛するために有効な行為であるだけでなく、自己又は他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち反撃行為が侵害に対する防衛手段として相当性を有するものであることをいうと解する。したがって、反撃行為によって侵害された法益と防衛しようとした法益が著しく均衡を失していなければ、前者が後者を上回っても相当性が失われることはない(37条参照)。*9

 そして、反撃行為が必要最小限度のものであるというためには、防衛行為者の能力、精神状態や周囲の具体的状況を考慮しつつ、侵害現場で選択し得た防衛手段のうち、確実に防衛効果が期待できる手段であって、かつ、侵害性が最も軽微な手段であるといえることが必要であると解する。

 

行為としての相当性判断の方法として、侵害行為と防衛行為の行為態様の危険性を比較衡量する見解も有力です。しかし、そのように解すると、他に選択肢がない状況において行為態様の危険性が高い防衛行為を選択した場合にも相当性が否定されてしまうため、被侵害者の利益保護に欠けるという批判が可能です。*10

 

必要性(防衛のために有効であること)は当然に肯定される場合がほとんどなので、あっさり認定してしまって構いません。問題は相当性ですが、武器対等の原則身体的条件侵害行為の態様防衛行為の態様代替手段の有無等を総合的に考慮して判断します。

 

 

自招侵害

 

ここでは、自招侵害について、上記のように、各要件の成否の前提としての緊急行為性として捉える考え方を採用します(急迫不正の侵害の存在は前提としていますが)。したがって、自招侵害が問題となる事例においては、まず自招侵害により「反撃行為に出ることが正当とされる状況」(正当防衛状況)が否定されるか否かを検討し、正当防衛状況が肯定された場合に初めて36条の各要件の成否を検討していく流れになります。

 

【論証:自招侵害】

 刑法36条は急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関に保護を求めることが期待できないときに、私人の対抗行為を例外的に許容するものであるが、かかる緊急状況で対抗行為が許容され、違法性が阻却されるのは、対抗行為に社会的相当性が認められるためである。

 そして、侵害者の攻撃が自らの違法な行為によって招来されたといえる場合には、原則として対抗行為に出ることが正当とされる状況(正当防衛状況)における行為とはいえないため、対抗行為の社会的相当性が否定され、正当防衛は成立しない。もっとも、例外的に対抗行為に社会的相当性が認められる場合には、なお正当防衛が成立し得ると解する。

 具体的には、①侵害行為が自らの違法な先行行為に触発された一連一体の事態といえ、②侵害行為が先行行為の程度を大きく超えないといえる場合に、自招侵害として正当防衛状況が否定されると解する。*11

 

 

行為の一体性

 

第一行為が正当防衛行為、第二行為が過剰防衛も成立しない完全な犯罪行為である場合(あるいは第一行為は正当防衛、第二行為が過剰防衛となるの場合)、第一行為と第二行為を分断して評価すると、第一行為は正当防衛が成立して不可罰となり、第二行為について犯罪が成立する(上記カッコ内の場合には過剰防衛)ことになります。一方、両行為を一体として評価すると、対抗行為が過剰になった(厳密にいえば、いわゆる量的過剰といえるのは第二行為時点で急迫不正の侵害が終了していた場合のみです)といえ、一個の過剰防衛が成立することになります。

そこで、両行為を分断して評価すべきか、全体的に考察して一連の行為とみるべきかが問題となります。

 

【論証:行為の一体性評価】

 二つの行為が客観的にみても主観的にみても関連性が強い場合には、一連の行為と評価すべきである。そして、客観的にみて行為態様が共通で、時間的・場所的近接性が認められ、主観的にも防衛の意思の連続性が認められる場合には、関連性が強く、一連の行為と評価できると解する。*12

 

第2暴行の時点で急迫不正の侵害が存在せず、防衛の意思も存在しなかった場合に、判例は両行為を分断して評価し(量的過剰の場合と認めず)、第1暴行は正当防衛として無罪、第2暴行は傷害罪としました。*13

 

 

 第2暴行の時点で急迫不正の侵害がなお存在し、防衛の意思が認められる場合には、判例は全体的に考察して過剰防衛の適用を認めました(この場合には、急迫不正の侵害が継続しているため、いわゆる量的過剰の場合とは厳密には異なります)。*14

この場合については、全体的に考察することに対し、第一暴行は単独で評価すれば正当防衛となるのに、第二暴行と一体性を認めることによって同じ傷害結果を違法と評価するのは被告人にとって不利益であり妥当でないという批判があります。

 

行為の一体性評価は、どのように行為を捉えるかの問題であり、後の罪責検討にも影響してくるため、一番初めに書くのがいいのではないかと思っています。

 

*1:基本p.169

*2:基本p.198、最決平成20年5月20日〈百選26〉

*3:基本p.174,175、最決昭和52年7月21日〈百選23〉、最決平成29年4月26日

*4:基本p.178,179

*5:基本p.182,183

*6:基本p.185

*7:基本p.186~189、最判昭和46年11月16日、最判昭和50年11月28日〈百選24〉

*8:基本p.189

*9:最判昭和44年12月4日、大判昭和3年6月19日

*10:基本p.192

*11:基本p.197,198、前掲最決平成20年5月20日

*12:基本p.201,202

*13:最決平成20年6月25日〈百選27〉

*14:最決平成21年2月24日