司法試験・予備試験実践論証

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【論証】刑訴1捜査⑶逮捕・勾留Ⅱ

ここでは、逮捕・勾留にかかわる問題として、逮捕前置主義(違法逮捕後の勾留請求も含む)、事件単位の原則、一罪一逮捕一勾留の原則(再逮捕・再勾留も含む)、別件逮捕・勾留について検討します。

 

 

 

逮捕前置主義

 

刑訴法は、「被疑者の」勾留請求時にすでに逮捕がなされていることを前提としています(207条1項、この条文は読み方が難しいですが、「前三条の規定」である204条~206条が逮捕後の勾留請求を規定しており、被疑者についてそれ以外勾留の規定がないことから、被疑者勾留は逮捕後に行われるもののみ許容されるものと考えられます)。これを逮捕前置主義といいます。

 

【論証:逮捕前置主義】

 法が逮捕前置主義(207条1項)を採用している趣旨は、身柄拘束の当初は事情変更が生じやすく、身柄拘束の必要性の判断が流動的であるため、まず短期間の拘束である逮捕を先行させ、その間に捜査を尽くさせ、なお身柄拘束の必要性がある場合に初めて長期間の拘束である勾留を認めるという慎重な方法をとることにより、不当な身柄拘束を防止し、被疑者の人権を保護する点にある。

 【論証:事件単位の原則】(後述)

 したがって、逮捕が前置されているか否かは、被疑事実を基準に判断すべきである。

 そして、逮捕・勾留も最終的には刑罰権の確保を目的とする手続きであるから、被疑事実の同一性については刑罰権の及びうる範囲と同様の基準、すなわち「公訴事実の同一性」(312条1項)を基準に判断すべきと解する。

 もっとも、被疑事実が同一といえなくても、一定の密接な関係にある場合には、必ずしも逮捕前置主義の趣旨に反しないといえるため、一方の被疑事実に基づく逮捕に引き続く他方被疑事実に基づく勾留も許されてよい。*1

 

逮捕前置主義の趣旨を二重の司法審査に求める見解*2もありますが、逮捕の際に司法審査を経ない現行犯逮捕の場合を説明できない*3ことに加え、逮捕と勾留の期間の長短を説明できない*4ので、不十分であると考えられます。

 

逮捕前置主義については、勾留に逮捕が先行していないために違法となり得る場合の他、違法逮捕後の勾留が許容されるか、などの論点の前提として論じることがあります。

 

 

違法逮捕後の勾留請求

 

逮捕に違法がある場合にも勾留請求が認められるかが問題になります。逮捕前置主義との関係でこの論点を展開する見解もありますが、論証で述べるように疑問があります。

 

【論証:違法逮捕後の勾留請求】

 逮捕前置主義(207条1項)は適法な逮捕を前提としているため、違法な逮捕に引き続く勾留請求は認められないとする見解もある。

 しかし、逮捕前置主義の趣旨は、身体拘束の当初は事情変更が生じやすく、犯罪の嫌疑や拘束の必要性の判断が流動的であるため、まず短期間の拘束である逮捕を先行させ、被疑者の人身保護を図る点にあるところ、逮捕手続が違法であってもかかる趣旨は満たされうるから、上記のような理由づけは妥当でない。

 逮捕について不服申立て手続がないこと、及び司法の廉潔性保持の要請将来の違法捜査抑止の要請から、先行する逮捕手続に違法がある場合の勾留請求は認められないと解すべきである。

 もっとも、逮捕手続に些細な違法がある場合にも勾留請求が認められないとするのは捜査の必要性を害し、妥当でない。そこで、勾留請求が認められないのは明文のある身柄拘束時間制限超過(207条5項但書き、206条2項)に匹敵するような重大な違法が認められる場合に限られると解する。*5

 

丁寧に書くときは反対説紹介をしてもいいと思いますが、簡単に書くときは第3段落以降だけで十分であると考えます。

 

 

事件単位の原則

 

【論証:事件単位の原則】

 逮捕・勾留に関して法は被疑事実を単位としている(200条1項、207条1項・64条1項)こと、裁判官が個別具体的な「理由」を審査して初めて逮捕・勾留を認めるという令状主義の趣旨に照らせば、逮捕・勾留の効力の及ぶ範囲は「理由」とされた当該被疑事実に限定されるべきであることから、逮捕・勾留は事件単位、すなわち被疑事実単位で行われる。*6

 

かつては人単位説もありましたが、現在は事件単位説が支配的なので、反対説紹介をするまでもないと思います。

 

事件単位の原則は様々な論点の前提として書くことがあります。

 

 

一罪一逮捕一勾留の原則

 

一罪一逮捕一勾留の原則とは、同一の事件について複数の逮捕・勾留を同時に重複して行うことができないという重複逮捕禁止の原則と同一の事件について逮捕・勾留を繰り返すことができないという再逮捕・再勾留禁止の原則を含むものです。*7

 

重複逮捕禁止の原則

 

当該逮捕が重複逮捕として一罪一逮捕一勾留の原則(重複逮捕禁止の原則)により禁止されるか否かは、一罪一逮捕一勾留の原則の適用があるか、適用があったとして例外的に許容されないか、という二段階で審査されます。*8

 

【論証:重複逮捕禁止の原則】

 XはA事実を原因として逮捕・勾留の上、起訴されたが、保釈された。しかし、保釈後にA事実前の、A事実と包括一罪関係にあるB事実が発覚した。かかる場合に捜査機関はB事実によりXを逮捕・勾留することができるか。

 事件単位の原則から、同一の事件について複数の逮捕・勾留を重複して行うことは原則として許されない(一罪一逮捕一勾留の原則)。そこで、B事実による逮捕がかかる重複逮捕にあたるか。本件逮捕に一罪一逮捕一勾留の原則の適用があるかが問題となる。

 一罪一逮捕一勾留の原則にいう「一罪」とは、基準の明確性という観点及び逮捕・勾留の蒸し返しの可能性をあらかじめ封じておくという観点から実体法上の一罪を指すと解すべきである。もっとも、実体法上一罪の関係にあったとしても、一罪一逮捕一勾留の原則は逮捕・勾留の蒸し返しを防ぐため、一罪の関係にある被疑事実の全部について一回の身柄拘束の中で同時に捜査することを捜査機関に対して要求するものであるから、観念的な同時処理可能性が認められない場合には、例外的に一罪一逮捕一勾留の原則は適用されないと解する。

 本件についてみると、A事実とB事実は包括一罪の関係にあるから、実体法上一罪であるといえる。そして、B事実はA事実による逮捕前に生じているのであるから、捜査機関に発覚していなかったとしても観念的な同時処理可能性は認められる。

 したがって、本件逮捕は重複逮捕にあたり、原則として許されない。

 もっとも、一罪一逮捕一勾留の原則が逮捕・勾留の蒸し返しを防ぐ趣旨に出たものであることから、重複逮捕に合理的な理由が認められ、不当な蒸し返しといえない場合には、例外的に重複逮捕も許容されると解する。具体的には、事情の変更が認められ、かつ、事案の重大性重複逮捕の必要性、先行逮捕・勾留の身柄拘束期間等諸般の事情を勘案して、被逮捕者の利益と比較してみても重複逮捕がやむを得ないと認められることが必要であると解する。*9

 

実体法上一罪説の理由付けとして、「実体法上の一罪に対して刑罰権は一個しか発生しないから、刑事実体法の実現手続である刑事訴訟手続においてもこれを一個のものとして取り扱うことが要請されるため」という見解もあり、これに対しては批判もあるものの、答案ではこちらを用いても構わないと考えられます。

 

同時処理可能性について、現実的同時処理可能性を求める見解*10もありますが、基準としてあいまいさが残るため、身柄拘束と犯罪事実の発生の前後により同時処理可能性を形式的に判断する観念的同時処理可能説が有力です。*11

 

 

再逮捕・再勾留禁止の原則

 

身柄拘束が同時に重複するのではなく、先行する身柄拘束が一旦終了している場合が再逮捕・再勾留禁止の原則の問題です。

 

【論証:再逮捕・再勾留禁止の原則】

 再逮捕が許されるとすると法が厳格な身柄拘束期間を定めた趣旨を没却することになってしまうため、再逮捕は原則として許されない。もっとも、捜査の流動性から、一切再逮捕が許されないとするのは妥当でない。また、199条3項(規則142条1項8号)は再逮捕を前提とした規定である。

 そこで、先の逮捕後に事情変更があり、かつ、事案の重大性再逮捕の必要性、先行逮捕・勾留の身柄拘束期間等諸般の事情を勘案して、被逮捕者の不利益と対比してみても再逮捕が真にやむを得ないといえる場合には、不当な蒸し返しではなく、合理的な理由があるといえ、再逮捕も許容されると解する。

 また、再勾留を前提とした規定はないが、勾留は逮捕と相互に密接不可分の関係にある手続であるから、再逮捕が許される場合には再勾留も許されると解すべきである。*12

 

先行して勾留が行われていた場合(再勾留が問題となる場合)には、先行する身柄拘束期間が長いため、再逮捕・再勾留の適否の判断は厳格に行われることになります。

 

再勾留については、先行する勾留が勾留期間20日間を使い切っていた場合にも許されるかが問題となります。これについては、再逮捕だけが許され、再勾留は許されないとする見解*13と、そもそも再逮捕・再勾留の問題は先行逮捕・勾留で身柄拘束期間を使い切った場合であっても再逮捕・再勾留が許容されるかの問題なのであるから、勾留期間を使い切っていたからといって再勾留が許されないとするのは妥当ではなく、この場合も上記の基準から許容される場合には再勾留も許されるべきであるとする見解*14があります。

 

 

また、先行する身柄拘束に違法があった場合は、再逮捕が認められなくなるのではないかが問題となります。

 

【論証:違法逮捕後の再逮捕】

 再逮捕が許されるとすると法が厳格な身柄拘束期間を定めた趣旨を没却することになってしまうため、再逮捕は原則として許されない。もっとも、捜査の流動性から、一切再逮捕が許されないとするのは妥当でない。また、199条3項(規則142条1項8号)は再逮捕を前提とした規定である。

 もっとも、先行逮捕が違法な場合には、再逮捕は一切認められないとも思える。

 しかし、違法の程度を問うことなく一律に再逮捕が許されないとするのは実体的真実発見の見地から妥当でない。そこで、先行逮捕の違法の程度が極めて重大で、当該被疑者に対する身柄拘束処分の続行がおよそ相当でないと認められるような場合は格別、かかる場合以外であれば、事案の重大性、再逮捕の必要性等を勘案して再逮捕が真にやむを得ないときには、不当な蒸し返しではなく、合理的な理由があるといえ、再逮捕も許容されると解する。*15

 

違法逮捕後の再逮捕を許容する根拠を実体的真実発見の見地に求めることについては批判もありますが*16、多数説がこの理由付けを用いているので、答案ではこの理由付けでも構わないと考えられます。

 

 

別件逮捕・勾留

 

別件逮捕・勾留については、大きく分けて別件基準説、本件基準説、実体喪失説があります(修正別件基準説、修正本件基準説等もあり、学説は多岐にわたっています。)。論証では実体喪失説を採用していますが、いずれの見解で書いても構わないと考えられます。もっとも、令和元年の司法試験では異なる結論を導く二つの構成で書くことが求められていたので、反対説についてもある程度は書けるようにしておくことが望ましいといえます。

 

【論証:別件逮捕・勾留】

 【論証:事件単位の原則】

 したがって、被疑事実ごとに司法審査が必要となるが、Xの逮捕は本件について司法審査を経ていない。そこで、かかる逮捕・勾留は違法となるのではないか。いわゆる別件逮捕・勾留の可否が問題となる。

 ここで、別件について逮捕・勾留の要件を充足している限り、逮捕・勾留は適法であるとする見解(別件基準説)がある。かかる見解からは、別件による逮捕・勾留中に行われた取調べが余罪取調べとして違法となり得ることはあっても、別件についての要件を充足する限り身柄拘束自体が違法となることはないことになる。また、別件についての逮捕・勾留の要件を満たしていたとしても、捜査機関が別件での逮捕・勾留を実質的には専ら本件の取調べを含む捜査のために利用する意図・目的である場合には逮捕・勾留が違法となるとする見解(本件基準説)もある。かかる見解からは、捜査機関の意図によっては身柄拘束自体が違法となり得る。

 しかし、別件基準説は逮捕権の濫用という別件逮捕の脱法的本質を看過している点で妥当でないし、本件基準説のように、裁判官が捜査機関の目的を見抜いて逮捕・勾留請求を却下することは現実には不可能に近い。

 そして、起訴前の身柄拘束期間の趣旨は、被疑者の逃亡や罪証隠滅を阻止した状態で、身柄拘束の理由とされた被疑事実につき、起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うことにあるところ、その期間が主として本件の捜査のために利用されている場合には、別件による逮捕・勾留としての実体を失い、本件による逮捕・勾留となっていると評価すべきであるといえる。

 そこで、このような状態になった場合には、本件について身柄拘束の要件を欠き、令状主義に反するために、それ以降の身柄拘束が違法となると解する(実体喪失説)。

 かかる状態に至っているといえるか否かは、別件捜査の完了時期、別件・本件の取調べ状況、取調べの内容、別件と本件との関連性供述の自発性、捜査機関の意図等諸般の事情を総合的に考慮して判断する。*17

 

別件基準説、本件基準説では、身柄拘束時の要件充足性、捜査機関の意図だけで逮捕・勾留の適否が決定されてしまいますが、実体喪失説(修正別件基準説等もですが)を採用すると、身柄拘束を可分的に捉えて、一定時期以降の身柄拘束を違法とすることができ、答案的にも事実を多く拾えるようになるのでおすすめです(本件基準説をとった場合は、捜査機関の意図を推認させる事情として事実を拾います。)

 

 

 

 

 

*1:リークエp.85,86、三井誠ほか(川出敏裕)『刑事法辞典』(信山社、2003年)p.531、古江p.61

*2:田口守一『刑事訴訟法[第6版]』(弘文堂、2012年)p.78など

*3:松尾浩也刑事訴訟法(上)[新版]』(弘文堂、1999年)p.110、リークエp.85

*4:古江p.61、リークエp.85

*5:古江p.60~64、酒巻匡「捜査手続⑶被疑者の身体拘束」法教358号(2010年)p.78、酒巻匡「身柄拘束処分に伴う諸問題」法教291号(2004年)p.96、新関雅夫ほか(木谷)『令状基本問題(上)[増補]』(一粒社、1996年)p.274、前掲松尾p.98

*6:リークエp.88

*7:古江p.74,75、川出敏裕「演習」法教379号(2012年)p.130、一罪一逮捕一勾留の原則は重複逮捕禁止の原則のみを含むという見解も有力です(リークエp.88など)。

*8:通説。一段階目の審査を不要とする(不適用を一切認めない)厳格適用説も少数ながら存在します(岐阜地決昭和45年2月16日)。

*9:古江p.74~83

*10:小林充「交流の効力と犯罪事実」判例タイムズ341号(1977年)p.89など

*11:古江p.80,81、三井誠『刑事手続法⑴[新版]』(有斐閣、1997年)p.31

*12:古江p.65,66、東京地決昭和47年4月4日〈百選15〉

*13:酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣、2015年)p.77

*14:古江・前掲百選解説

*15:古江p.66,67、前掲酒巻「身柄拘束処分に伴う諸問題」p.101

*16:古江p.67

*17:事例研究p.472~