司法試験・予備試験実践論証

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【再現答案】令和元年司法試験行政法

憲法が悪かった割に公法系の順位はそこそこなので、行政法はまあまあ良かったのかもしれません。

 

評価A 公法系 125.49 231~258位

 

第1 設問1

1 B県は、本件事業認定は、取消訴訟の対象たる「処分」(行政事件訴訟法(以下、行訴法)3条2項)であるから、取消訴訟の排他的管轄に服するため、本件事業認定の違法性は本件取消訴訟で争うことはできない、また、後行処分の取消訴訟の中での先行処分の違法性主張を認めることは行政の早期安定の要請から妥当でないと主張し、本件訴訟の中で本件事業認定の違法性を争う、いわゆる違法性の承継は認められないと主張する。

2⑴ たしかに、取消訴訟の排他的管轄及び行政の早期安定の要請から、違法性の承継は認められないのが原則である。

 しかし、常に違法性の承継が認められず、出訴期間が経過した場合には処分の違法性を争えないとしては国民の実効的な権利救済に欠ける。そこで、行政の早期安定の要請を考慮しても、なお国民の実効的権利救済を図ることが相当といえる特段の事情がある場合には、違法性の承継が認められると解する。具体的には、先行処分と後行処分が同一の目的を有する一連一体の手続であり、原告が先行処分の時点では処分の違法性を争わないと判断することも不合理ではないといえる場合であることが必要である。

 ⑵ア ここで、B県は、事業認定と収用裁決(権利取得裁決)は最大1年間も間隔があくことが予定されており(法39条1項)、別個の手続であると反論することが考えられる。

  しかし、両処分は、公共の利益となる事業の実現という同一の目的のために行われる処分である。また、土地の収用のためには事業の認定及びその後に行われる権利取得裁決が必要不可欠であり、両者は連続して行われることが予定されている。そして、事業認定の告示(法26条1項)から1年以内に収用裁決がない場合には、事業認定自体が失効する(法29条1項)ものとされているから、収用裁決は事業認定の効果の存続にも影響を与える。したがって、両処分は同一目的を有する一連一体の手続であるといえる。

 イ また、B県は、事業認定が告示される以上、Aは本件事業認定の段階で本件事業認定の違法性を争うことができたといえ、違法性の承継を認めなくてもAの実効的権利救済に欠けるところはない、と反論することが考えられる。

  しかし、事業認定自体によってはAに何らの不利益は生じることがなく、本件権利取得裁決に至って初めてAは本件土地の所有権を失うに至っている。そして、上記のように事業認定が行われても1年以内に収用裁決が行われなければ事業認定自体が失効するところ、B県は本件事業認定の後も直ちに収用裁決を行わず、所有者から任意買収を行う方針で買収交渉を行っていたのであるから、Aとしても、交渉の結果によっては事業認定の違法性を訴訟で争うことなく紛争を解決できると期待しても不合理とはいえない。したがって、本件事業認定が行われた時点では、Aには交渉による紛争解決の余地が残されていた以上、この時点で本件事業認定の違法性を争わないとAが判断しても不合理ではないといえる。

⑶ よって、違法性の承継が認められる。

3 以上より、Aは本件取消訴訟において、本件事業認定の違法性を争うことができる。

第2 設問2

1 小問⑴

⑴ Aは「当該処分…の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」といえるため、B県に対して本件権利取得裁決の無効確認訴訟(行訴法3条4項)を提起することができる。

⑵ B県は、AはC市に対し本件権利取得裁決の無効を前提として本件土地の所有権確認請求、所有権に基づく所有権移転登記手続請求をすることができるため、同要件を満たさないと反論することが考えられる。

  しかし、同要件が必要となる行訴法36条後段の無効確認訴訟は、取消訴訟を提起できないなどにより権利救済に欠ける場合の救済のための補充訴訟である。そして、上記のような民事訴訟はほとんどすべての場合に提起可能であるところ、他に民事訴訟を提起可能であるために同要件を満たさないとしては、上記のように実効的権利救済のための補充訴訟として無効確認訴訟を法定した意義を著しく損なうことになる。したがって、他に民事訴訟等を提起可能な場合であっても、無効確認訴訟によることが紛争の解決のためにより直截かつ適切といえる場合には同要件を満たすと解する。

⑶ Aが上記のような民事訴訟を提起し、仮に勝訴したとすれば、本件土地の所有権ないし本件土地の所有権に基づく移転登記請求権の存在が既判力によって確定される。しかし、Aは本件事業認定そのものに違法性があると考えており、本件土地にかかわる部分のみならず、本件事業認定の全部、ひいてはその事業認定に基づいて行われた本件権利取得裁決の効力を争うことを目的としているのである。そうだとすると、上記の民事訴訟ではその目的の一部しか達することができず、目的全部の達成のためには本件権利取得裁決の無効確認訴訟を提起する方が、より直截かつ適切であるといえる。

⑷ したがって、Aは同要件を満たす。

⑸ よって、AはB県に対してB県に対して本件権利取得裁決の無効確認訴訟を提起することができる。

2 小問⑵

 ⑴ Aは、本件事業認定は「事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの」(法20条3号)にあたらないにもかかわらず行われたとして、本件事業認定が違法であると主張する。

 ⑵ア B県は、同条の要件該当性の判断については、B県知事に広範な裁量が認められるところ、本件道路の整備には「道路ネットワークの形成」、「通行者の安全性の確保」、「地域の防災性の向上」という3つの利益が見込まれる一方、本件道路の交通量は1日当たり3500台にとどまることから、周辺の環境に与える影響は軽微であるため、本件道路の整備を内容とする事業計画が「土地の適正且つ合理的な利用に寄与するもの」とB県知事が判断することも裁量の範囲内であり、適法であると反論することが考えられる。

 イ 事業認定の要件は法20条に定められているが、同条は「適正且つ合理的な利用」という抽象的な文言を用いており、「できる」と規定している。また、事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであるか否か、要件を満たした場合に事業認定をするべきか否かの判断には、事業の性質、周辺地域の環境、社会経済的状況等の諸般の事情を考慮し、専門的政策的な判断を行うことが必要である。したがって、事業認定に係る判断にはB県知事の要件・効果裁量が認められる。

  しかし、B県知事の判断が裁量権の逸脱・濫用に至れば、処分は違法となる(行訴法30条)。そして、判断過程に多事考慮、考慮不尽、評価の明白な合理性の欠如が認められ、その結果としての判断が社会通念上著しく妥当を欠くといえる場合には、裁量権の逸脱・濫用が認められ、本件事業認定は違法となる。

 ウ(ア) まず、B県知事は平成22年調査に基づいて、本件道路の交通量が1日当たり3500台であると予測し、周辺環境へ与える影響が大きくないと判断している。しかし、平成元年調査では本件道路の交通量は1日当たり1万台と予測されていたところ、C市の人口は1割未満しか減少していないにもかかわらず、平成22年調査では予想交通量が3分の1に減少しているのは明らかに不自然であり、いずれかの調査が誤っていた可能性が高い。そして、平成22年調査には調査手法に誤りがあったとの指摘もあることから、平成22年調査に誤りがあった可能性がある。にもかかわらず、B県知事は再調査等の措置を採ることもなく、平成22年調査の結果のみから本件道路の周辺の環境への影響は大きくないと判断している。また、仮に平成22年調査が正確であったとしても、本件道路の交通量が3分の1に減少しているのであれば、「道路ネットワークの形成」の必要性は高くはなく、本件道路を整備すれば徒に周辺の環境を破壊するだけであり、得られる利益と失われる利益の均衡を失することになる。

  したがって、B県知事が平成22年調査の結果のみから周辺の環境に与える影響は少なく、得られる利益と比較して失われる利益が小さいと判断したことには評価の明白な合理性の欠如が認められる。

 (イ) また、本件道路のルートについては、近隣の小学校への騒音等の影響を緩和することを考慮して決定されたものであり、本件土地には学術上貴重な生物が生息しているわけではないことから、本件土地の自然環境保護については考慮されず、小学校への騒音等の影響を緩和しつつ、本件土地の自然環境にも影響を与えないようなルートを採ることができるかどうかについては検討されていない。しかし、本件土地の周辺は住宅地域であり、本件土地内の池の存在は珍しいもので、本件土地周辺の良好な住環境の形成に少なからず寄与しているといえる。また、本件土地内の池は近隣の小学校の学外での授業にも用いられるなど、地域の生活に深く根差した不可欠なものであるといえる。したがって、本件道路のルート決定にあたっては、本件土地の自然環境についても考慮すべきであり、小学校への騒音等の影響を緩和しつつ、本件土地の自然環境にも影響を与えないようなルートを採ることができるかどうかを検討すべきであった。

  したがって、B県知事がかかる検討をせずに本件道路のルートを決定したことは考慮不尽であるといえる。

 (ウ) また、事業認定が告示されること(法26条1項)、事業認定にあたっては起業地を表示する図面を公衆の縦覧に供することが要求されること(法26条の2第2項)から、法は事業認定にあたり周辺の住民の不利益を考慮するよう求める趣旨を含むと解されるところ、本件土地の周辺住民には地下水を生活用水として利用している者もいるし、防災目的の井戸は本件土地周辺で火災等があった際には防災のために不可欠なものであるから、事業認定の判断にあたっては、工事による地下水への影響の有無を重視すべきであるといえる。しかし、B県知事は、本件土地での掘削の深さが2メートル程度なので地下水には影響がないと判断している。かかるB県知事の判断は何らの根拠もないもので、合理的とはいえない。現に、以前の工事では、掘削の深さが2メートル程度であっても井戸が枯れたことがあるのであるから、少なくとも本件道路の整備にかかる工事が地下水に影響を与えるか否かの調査を行うべきであった。また、防災目的の井戸についても、上記のような重要なものなのであるから、この井戸への影響も調査し、その結果を考慮すべきであった。

  したがって、B県知事が調査を行わず、地下水への影響はないと判断したこと、防災目的の井戸についての影響を考慮しなかったことは考慮不尽であるといえる。

 ⑶ よって、B県知事が本件道路の整備が「土地の適正且つ合理的な利用に寄与する」と判断した過程には上記のように考慮不尽や評価の明白な合理性の欠如が認められ、その結果の判断は社会通念上著しく妥当を欠くといえるから、B県知事の本件事業認定が法20条3号の要件を充足するという判断は違法である。

                     以上